第242話 新たな作戦。〈育成論〉の広め方。



「よろしかったのですか? 臨時講師ということは、楽しみにしていた選択授業を受けられなくなりますが」


「まあ、これもこれで楽しいからな。それにたった1学期だけだ。2学期からは選択授業を受ける側に回るから問題無い」


 男2人の帰り道でセレスタンの問いに答える。


 あの後、俺の要望はびっくりするほど簡単に通った。

 学生が臨時講師なんてして大丈夫なのか? とも思うが特に講師に年齢制限や規則は無く、実力さえあればいいらしい。さすが実力主義の世界だ。


 俺の担当するのは選択授業、金曜日のみ俺は臨時講師として学生に〈育成論〉について教えることになった。それ以外の曜日は普通に学生として授業を受ける。


 職業ジョブの育成の仕方についての授業なんてこれまで皆無かいむだったので、ミストン所長も興奮した様子で、「絶対受講します!」なんて言っていた。いや、あなた学生じゃないだろう。


 期間は1学期、つまり夏休みまでの10週間だけだ。

 まあ〈育成論〉については最初が何より大事なので、俺が教えるのも最初だけだ。

 LVが30や40になって受講したいなんて言われてもこちらも困るので、1学期のみとなった。

 ちなみに迷宮学園では3学期制度を採用している。つまり夏休みまでの1学期、冬休みまでの2学期、そして春休みまでの3学期だ。なので、俺が教えるのも夏休みまでとなる。



 〈育成論〉とはLVが上がりやすい低LVの時から道を真っ直ぐ決めて挑むもの。

 ある程度LVが上がってしまうとLV上げが難しくなってしまい方向修正もできにくくなる。無駄に振ってしまったSPも多いだろうから知らない受講しないほうが幸せだ。


 これがさっき閃いたこと、研究所がダメなら俺が臨時講師になれば良いじゃない、だ。


 そのまんまだな。


 とりあえず目指すのは〈エデン〉のメンバーになり得る人材を発掘することだ。

 講師なら学生と接する機会も多い。光る人材はスカウトし放題だ。ふはは!


 あとは、学園全体のスキルアップのためでもあるな。

 現在この世界では上級ダンジョンの攻略で停滞している。


 理由は〈上級職〉が少ないというのもあるが、基本的に育成方法を知らなさすぎるので弱いのだ。ステータスが。

 ちゃんとしたステ振りさえ出来れば上級ダンジョンでもやっていけるだろうに。

 ということでそこら辺も修正していきたい。


 このままでは俺たちが上級ダンジョンをクリアしたら一強いっきょうになりかねない。

 それはそれで自尊心は満たされるだろうが、ゲームとしてはライバルがいなくてつまらなくなってしまうだろう。

 俺たちと張り合うレベルの強いライバルギルドが欲しいのだ。


 そんな願望もあるので、今回の臨時講師は少し気合いを入れようと思う。



 話が決まってからは職員室に行き、臨時講師の手続きを行なった。

 週末の夕方にすまないと思うが、ミストン所長はまったく気にしていなさそうに手続きをしてくれた。むしろ生気に溢れている表情をしていた。目の下の隈がいつの間にか消えているレベル。ちょっとヤバいかもしれない。


 俺の初講義は来週の金曜日からだ。

 ミストン所長が高位職に就いた学生たちを中心に声を掛けてくれるそうなので、それなりに受講者も増えるだろうとのことだ。


 来週が楽しみだなぁ。




 明けて土曜日。


 今日は学園が休み、つまり1日ダンジョンアタックができる日だ。


 ギルド部屋に全メンバーが集合する。


「これよりミーティングを始めるぜ!」


「テンション高いわねぇ…」


 朝からシエラにジト目をいただいてしまった。ラッキー、これは運が来ているかも知れない。


 冗談は置いといて、順にメンバーの成果や報告などを聞く。

 最初はぎこちなかった新メンバーも、今日はスムーズに報告をくれる、少しずつ慣れてきた様子だ。


 この報告は、ゲーム時代とは違いワンタップでメンバーのステータスを確認できないため必要なことだ。

 誰がどのくらいのLVで、どのダンジョンをクリアしているのか、どのダンジョンを途中まで進めているのかというデータを最低でも1週間に一度は求めることにしている。

 〈エデン〉のローカルルールだな。


 これがわりと好評で、他のメンバーに後れを取らないようにとギルド内でのモチベーションアップに繋がっていたりする。


 メンバーの報告は全てサブマスターのシエラが〈『書記』の腕輪〉を装備して書き留めてる。いつもありがとうございます!


 ここ1週間のギルドメンバーの動向は、ほとんど練習場での訓練に時間を費やした様子でダンジョンには行っていないみたいだ。

 まあ初級下位ショッカーならともかく初級中位ショッチュー以上のダンジョンだと放課後の時間だけでは夕飯までに帰って来られるか分からないからな。


 唯一高速移動手段のあるエステルすら俺の案内無しでは最下層へ行くのに結構時間が掛かるのだ。時間の掛かる徒歩なら夕飯抜きになってしまう。


 またそれとは別にセレスタンから1つ報告を受けた。


「公爵の御一方おひとかたにアポイントが取れました。明日であれば時間が取れるとのことです」


「お、そうか! 助かったぜセレスタン」


 先週セレスタンに頼んでいた1年生にいる「公爵」家の子の勧誘についてだ。

 確か2人「公爵」のカテゴリー持ちがいるとの話だが、セレスタンの話によれば片方はすでに上級生のギルドに在籍してしまい、勧誘は断られたとのことだ。

 もう一方からはしばらく音沙汰が無かったが、昨日の夜にセレスタンのほうに返事が来たらしい。

 在籍を検討中とのことだ。こりゃ明日は気合い入れないとな。


 セレスタンに礼を言って、次に本日のダンジョンアタックのほうに話は進んでいく。


「次にパーティメンバー分けについてだ。今日は先陣メンバーで先週の〈丘陵の恐竜ダンジョン〉の続きを攻略したいんだが、どうだろうか?」


「いいわね! 私は賛成よ!」


「私も良いと思う!」


 ラナがまず賛成を示し、ハンナもそれに続く。

 エステルはラナが向かうなら付いてくるため、後はシエラだが。


「私も構わないわよ。――異論がある人はいるかしら?」


「ぶーぶー、今日は練習で磨かれたルルの成果をシエラに見せたかったのですのに」


「悪いなルル。明日はシエラを取らないから今日は貸してくれ」


「冗談なのです。ルルは我慢ができる子なのですよ。どうぞどうぞです」


「私を物扱いするのはやめてくれるかしら」


 ルルが微妙に唇を突き出す表情で抗議する、しかし可愛いとしか思えない。

 シエラは顔が広いしタンクとして優秀なので引っ張りだこだな。


 結局俺たち先陣メンバーは中級下位ダンジョンに行くことに決まり、残りのメンバーは5人がダンジョンへ、残り2人が練習場で練習するとのことで決まり、ミーティングは終了となった。


 俺たちは楽しみだった〈丘陵の恐竜ダンジョン〉の続きだな!




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