第227話 丘の向こうのレアモンスター。一撃で仕留める!
武器をチェンジするのは〈天空の剣〉を手に入れたとき以来だ。
俺は〈初心者ダンジョン〉から〈天空の剣〉でここまで来たため、ほぼ初めての武器チェンジと考えていい。
〈滅恐竜剣〉は〈天空の剣〉に比べて重く、幅広の剣だ。
振ってみるが少し違和感がある。
やっぱりゲームとはいえリアルでは剣が違うと感覚も違うらしい。
これはこれで面白いなぁ。
「天空の剣の方が格好良かったわね!」
「私は今の武器もワイルドで良いと思うわ」
「大きな剣だね」
「はい。実に実戦向きの武器だと思います。対人ではなく対モンスター用の武器だからでしょう」
上からラナ、シエラ、ハンナ、エステルの順に感想を言う。
というかラナがひでぇ。まあ〈天空の剣〉より〈滅恐竜剣〉の方が見た目良しなのかといえば大多数の人が首を横に振るだろうとは俺も思うが。
〈滅恐竜剣〉も結構良いデザインしているのだが、比べる相手が悪いんだよなぁ。
それはともかくである。
今回、〈金箱〉からは俺の武器を替え
今までの初級ダンジョンではいくら強くても〈天空シリーズ〉や〈姫職〉の初期装備には敵わなかったので大きな進歩である。
まだフィールドボスのドロップでこれだ。最奥で待つボスのドロップを考えると思わずニヤけてしまうほど楽しみだ。
「あ、あそこ光ってるわよ! 何かしら?」
「お、あれが地上に帰るための転移陣だな。逆に地上からここへショートカットも出来る」
「あれがそうなのね」
ラナの声に反応して見ると、11層への入口の脇に見覚えのある転移陣を見つけた。
最奥のボスの転移陣は一方通行なのに対し、フィールドボスの転移陣は相互通行可能な転移陣だ。そのため光はやや薄く、形も少し違う。
そして面白いのがフィールドボスを倒さないとこの転移陣を使うことが出来ないところだな。フィールドボスは上手く立ち回れば回避も出来るため、戦わずして先に進むことが可能だ。ただ、こういう恩恵なんかが得られなくなるので俺はとりあえず戦うようにしている。
「さて、道は開けたし、先に進むか」
「そうね!」
11層への入口に立ちはだかっていたボスも倒したので先に進むとしよう。
現在、午後2時半。このペースなら20層にはたどり着けそうだ。そこを今日の終着点としよう。
時間的に間に合わなければエステルの〈馬車〉で進もうかとも考えていたが大丈夫そうで安心する。
そうして俺たちは順調に階層を進んでいった。
違和感を覚えたのは14層の中程まで進んだときだった。
何と無しに俺の『直感』が小さく囁いたのである。
「なんだか、この先から変な感覚がするのよね」
ラナが呟く。俺と同じくラナも何か感じ取るものがあったらしい。
おかしいな、ラナはこれと言って『直感』系のスキルは持っていなかったはずだが…。
しかし、感じるものが2人もいるということは気のせいということはなさそうだ。
「全員静かに、その場にしゃがんで、声を出したり不用意に動かないでくれ」
「え、何?」
「しー、ラナ様、ゼフィルス君の言うとおりにして」
「わ、分かったわよ」
俺が素早く指示を出すとラナ以外のメンバーがすぐに従った。すばらしい。
だがラナは目をぱちくりするだけだ。ハンナがサポートしてすぐにその場にしゃがみこみ、その理由を聞いてきた。
「ねえ、いったいどうしたのよ。もしかしてさっき言っていた徘徊型のフィールドボスかしら?」
「いや、それよりよっぽど貴重だ。おそらくだが、あの丘の向こうにレアモンスターがいる」
「…え? 本当!」
「こら、大きな声を出さない」
「それは、ごめんなさい。でも本当なの?」
「まだ確証を得たわけじゃないけどな」
レアモンスター。
それは中級ダンジョンから登場する、普通の階層にたまに出没する希少個体の総称である。
レアボスのザコモンスターバージョンと言えばいいだろうか、いやレアボスより出会う確率は低いのでレアボスよりも貴重だな。
レアモンスターは倒すことが出来ると非常に有用な物をドロップしてくれる。
デカイ換金アイテムであったり、経験値5倍であったりな。後半は一番ハズレドロップである。
また生産に必要なレア素材を落とす場合が多く、それで作った武器、防具はスキルの付与なんかが付いたりするため、希少価値が高い。
じゃあそんなレアモンスター早く仕留めに行けよと思うかもしれないが、俺たちがこうしてこそこそ見つからないようにしているのには理由がある。
レアモンスターはレアボスと違い、なんと
しかも逃げ足が速いのだ。某鉱山に住むメタルなアレ並に。
故に見つかる前に不意打ちで突撃し、逃がす前に仕留めなくてならない。
ああ、スピードの速いカルアが欲しい。
しかし、ゲーム〈ダン活〉では道で『直感』が発動すれば多くの場合でレアモンスターの気配を感じたということなのでおそらく間違いないと思う。レアモンスターはこっちに気が付くと逃げるので、気が付かないうちに『直感』スキルがある程度教えてくれるのだ。
これも俺が『直感』スキルのLVを上げている理由だな。
「さて、じゃあ全員、ゆっくり進むぞ。なるべく音を立てないようにしてくれ」
「了解よ」
シエラの応えに皆頷き、丘まで移動。そしてひょこっと言う擬音が似合いそうな風に少しだけ頭を出した。
「発見。あの金色に輝いているのがレアモンだな」
「わぁ、話には聞いたことがあるけど本当に金色に光っているのね」
予想通りレアモンスターを発見。教えてやると横でラナが目を輝かせていた。今にも飛び出していきそうな雰囲気にエステルがラナの肩を押さえている。
〈ダン活〉レアモンスターはちゃんとそれが希少個体だと分かるように金のエフェクトを常時溢れさせているのですぐに分かる。
眼下に見えるのは金のエフェクトを振りまく小型の恐竜型レアモンスター、〈ゴールデントプル〉。四足で〈サウガス〉に似ているがかなり小さい。その辺にいる
逃げるスピードがかなり速い。そして倒した時のドロップは…、ふはは!
「ねえ、どうやって仕留めるの?」
「それが問題なんだよなぁ」
問題は倒す手段である。
レアモンスターはHPがかなり低いので一撃二撃入れれば倒せるのだが、その一撃を与えられない。近づけば逃げる。
「じゃあ遠距離から仕留めればいいじゃない」
「レアモンスターはデフォルトで『魔法完全耐性』持ちだから魔法は効かないんだ」
どう考えても中級入り立てで『魔法完全耐性』持ちモンスターとかおかしいのだが、ゲームでは割とこういうことがよく起こる。某鉱山に住むスライムとかな。
ということで仕留め方は限られてくる。遠距離から通常攻撃やスキル攻撃で仕留めるか、ハイディングなどで気配を消して近づくか、もしくは【スターキャット】のように一瞬で距離を詰めて逃げる前に仕留めるとか。
全部今出来る方法ではない。
ということで唯一〈ゴールデントプル〉を仕留めうる可能性を持っている人物に声を掛けた。
「さ、ハンナの出番だぞ。アイテムであいつを撃て」
「……ふえ?」
一瞬理解が出来なかったのかハンナが呆けた声を出した。
「確か吹き矢的なアイテムがあっただろ、吹くタイプじゃないやつ。アレを使おう」
「吹くタイプじゃない吹き矢って何?」
ラナが横で何か言っているが聞こえなかったことにしてハンナを急かす。
「え、ええ? 本当に私のアイテム使うの? ゼフィルス君がやってくれるの?」
まさかという顔で見るハンナに俺は力強く頷いた。
「何言ってんだ、俺は発射系アイテムはまだ使ったことが無いからぶっつけ本番は無理だって。ハンナが仕留めるんだよ」
「む、無理ぃ!」
「無理じゃない。やってみよう。今アレを仕留められるのはハンナしかいないんだから。やろうハンナ」
「ひぇ、絶対無理です、出来ません。もし間違えちゃったら、いえ緊張で手が震えて間違えてゼフィルス君撃っちゃうかもしれないよ!?」
「最初は誰でもそう言うよ。ハンナはいつも通り撃てば大丈夫だから。いつも通り撃ってみよう」
「ぜ、ゼフィルス君が話を聞いてくれないよぉ」
少し雑になってしまったが、なんとかハンナの説得に成功。
ちょっと
結構デカイダメージが入るが単発なので実戦には少し不向きなアイテム。音がほとんど出ないのでこうして狙撃するのに向いているアイテムだな。
「うぅ。外れても文句言わないでね?」
「何言ってんだ。ちゃんと言うから外さないようにな?」
「ひぇ、なんかゼフィルス君が鬼のようだよぉ」
せっかくのレアモンスターである。
なんだかんだ言いつつハンナは遠距離攻撃が上手い。上手くなった。
だから俺はハンナを信じている。さあ仕留めるのだハンナよ!
「じゃあ、い、行くよ。えい!」
ハンナの掛け声と同時にシュポンッと軽く空気が抜ける音と共に矢が発射された。そして。
「ジュイッ!??」
眼下からレアモンスターの断末魔の声が聞こえてきたのだった。
な、さすがハンナだろ?
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