第225話 初のフィールドボス戦!ハンナの爆弾初公開
「ギュラララララッ!」
〈ジュラ・サウガス〉が唸り声を上げる。
近づく俺たちに気が付いたのだ。
それまでおとなしかったボスが親の
獲物ではなく完全に敵とみなされている、なんでかは知らない。
このボスとは初対面で敵対した記憶は無いのだけど、もしかしたら俺たちが倒す気満々だと肌で察知したのかもしれないな。
「なかなか鋭い奴だ」
「ゼフィルス、冗談言ってないでやるわよ。『挑発』!」
シエラの挑発スキルで戦闘は始まった。
フィールドボスは最初のタゲをランダムで選ぶ。そのためにまずタンクがヘイトを稼ぐのがセオリーだ。まあ今までとそう変わらない。
「ギュラララララッ!」
「散開!」
タゲがシエラに固定され〈ジュラ・サウガス〉が吠える。続いて黄色っぽいエフェクトが少しの間〈ジュラ・サウガス〉を包み込んだ。モンスターの〈スキル〉アクションだ。
これは四足系モンスターに多い『突進』スキルだな。
〈ジュラ・サウガス〉が黄色く光るエフェクトを纏いながらダッシュしてくる。
とても見え見えな初歩のスキルなので回避するのはたやすい。
しかし、シエラはこれを敢えて盾で受け止めた。
「ぐっ。重いわ」
ガツンと大きな音が鳴り響き、シエラがやや
スキルも無しの単純な受け止め。スキル攻撃に対してあまりにも頼りない受けであったが、しかしシエラは言葉とは裏腹に難なく受け止めた。さすがシエラである。
「バフを掛けるわよ! 『守護の加護』! 『回復の祈り』!」
それを見てようやくラナがバフと回復を掛ける。例のごとく、初撃だけは普通に受けさせてほしいとはシエラに言われていたため、今のタイミングだ。
全員にバフが掛かり、少しダメージを負ったシエラもラナの回復によりすぐさま全回復する。
「ギュラララララッ!」
突進を止められた〈ジュラ・サウガス〉が首を横に振って鞭打ちのような動作にでる。これもスキル『
「動きが止まっているぞ! 少しずつ攻撃していけ! 『ライトニングスラッシュ』!」
「了解です! 『ロングスラスト』!」
「『フレアランス』!」
「ギュラララガガッ!!」
初めてのボスモンスターということでまずはその動きを観察するメンバーたちを促し、少しずつ攻撃に加わらせる。
エステルはまだ〈ジュラ・サウガス〉への警戒度が高いためすぐに離脱できるよう硬直の短い『ロングスラスト』で行ったな。いつでも回避できるように努めるのは良いことだ。
俺は〈ジュラ・サウガス〉の行動パターンを熟知しているし、仮に攻撃を受けたとしても手ひどいダメージは負わないと分かっているため最初から大技で行く。
ハンナは〈マホリタンR〉の力を借りて魔法で攻撃する。しかし、いつでも換装できるように心構えだけはしっかりしているようだ。ハンナのボス戦バリエーションは多い。
「む、周囲攻撃だ! 回避!」
「はい!」
「は!」
「ギュラ! ギュラッ!」
俺の声に反応してエステルとシエラがバックステップした直後〈ジュラ・サウガス〉が尻尾と頭を振り回しながらその場で半回転する。そしてもう一度半回転。ボスの周囲にいれば吹き飛ばされていただろう。
回転攻撃は初歩にして回避の難しい攻撃だ。今回掛け声が間に合ったおかげで無事全員が回避に成功する。
回転攻撃は当たれば吹き飛び、
しかし、後衛アタッカーからしたら格好の餌食である。何しろその場でクルっと回っているだけなのだ。しかも前衛が
「チャンスね! 『聖光の耀剣』! 『聖光の宝樹』! 『光の刃』! 『光の柱』!」
「ギュララガガッ!?」
ラナの魔法が光る。大技を連発したことによりこりゃ相当なダメージが入ったな。
さすがはうちの魔法アタッカーだ。
ただしこれで終わりではない。
後衛はもう1人いる。ハンナはいつの間にか〈マナライトの杖〉をその場に置いており、その空いた手には1本の筒状のアイテムと1本の杖型のアイテムが握られていた。
「いっけぇぇ!!」
ハンナが両腕をボスに向けると、筒からはパンッという音と共に黄緑色のエナジーボールが、杖型のアイテムからは炎の光線が放たれた。そして見事に命中。
「ギュララララッ!?」
ドカンドカンッと大きな音をたてて爆発するハンナの攻撃。アレがハンナの〈爆弾〉系アイテム。
お披露目だ。
筒の方が〈筒砲:エナジー〉、杖の方が〈炎光線の杖〉。
両方とも回数制限のある攻撃アイテムである。
どう見ても爆弾ではないが、〈爆弾〉とは攻撃アイテムのカテゴリーなので〈筒砲〉も〈杖〉も一応は〈爆弾〉に分類されている。
ちなみに本物の爆弾っぽいものもあったのだが、ハンナが投げるのが壊滅的に下手だったので『スロー』系装備が手に入るまで実戦の出番は無い。早く『スロー』欲しい。
『スロー』系装備が手に入らなかったため、とりあえず射撃型の〈筒砲〉と〈杖〉のみ運用である。
ハンナは射撃系なら素早い〈ウルフ〉に当てられるくらいにはコントロールが良いからな。
素材と生産というコストは掛かるもののその威力はかなりのもの、なんとラナの『光の刃』並の威力を誇る。クールタイムも無いので撃ち放題だ。回数制限はあるけどな。
「つつつ
ハンナが自分で使ったアイテムの未だかつて無いダメージにビックリしていた。今までハンナじゃ出せない威力だったのだ。
攻撃アイテムの回数がなくなるギリギリまで撃ちつくしたハンナのダメージ数はラナに迫っていた。半端無い。
しかも途中でクリティカルが発生し〈ジュラ・サウガス〉がクリティカルダウンしていたのも大きかった。おかげでハンナの攻撃は全て吸い込まれるように〈ジュラ・サウガス〉に命中したのだ。
ちなみに俺も遠距離から魔法を撃ち込み、ハンナの攻撃が
大きくダメージが入ったためヘイトが入り乱れてしまったが、シエラが全力でヘイトを取りに行きすぐに戦況は安定。その後はボスの強力な攻撃にもシエラは崩れずに耐え切ったため安定したままボスを削ることが出来た。
そしてボスのHPがレッドゾーンへと至り、怒り状態になる。
「ギュラララララ!!!!」
「威力と速度が1.5倍になるぞ! 全員全力で行け!」
「「はい!!」」
中級ダンジョンからのボスは怒り状態になると攻撃の威力が1.5倍になるだけではなく速度も上がる。
その速度に即対応出来なければ戦闘不能に追い込まれることもあるため中級からは特にボスの難易度が上がるのだ。
「『オーラポイント』! 『鉄壁』!」
シエラがヘイトをさらに稼いで『鉄壁』を使い、その場で壁と化す。
「ギュララララ!!」
そこに突進する〈ジュラ・サウガス〉。先ほどとは違い非常に強力な一撃だ。防御力の低いラナなら7割以上はHPを削るだろうその一撃。しかし、シエラも先ほどとは違う。今回は『守護』のバフに加え『鉄壁』という防御スキルを使っているのだ。
ではどちらが勝ったのかというと。
「ふ!」
「ギュラ!?」
シエラ、微動だにせず。完全にシエラが防御勝ちする形となった。
攻撃したはずなのに逆にダメージを受けた〈ジュラ・サウガス〉がよろける。
「攻撃しろ! 『ライトニングスラッシュ』! 『ハヤブサストライク』!」
「『プレシャススラスト』! 『閃光一閃突き』! 『ロングスラスト』!」
「ギュララガガッ!!?」
「! 周囲攻撃だ!」
「はい!」
俺とエステルによってガツンと削られた〈ジュラ・サウガス〉が苦し紛れに回転攻撃をして追い払おうとするが、そりゃよくない一手だな。
「チャンスよハンナ! 『聖光の耀剣』! 『聖光の宝樹』!」
「はい! とぉりゃー!」
俺とエステルが急いで離れた直後、ラナとハンナの大威力が襲った。
「ギュ……ガ…ラ……」
そしてとうとうHPが0になり、膨大なエフェクトと共に〈ジュラ・サウガス〉は沈んで消えた。
そしてその場所には、金色に輝く〈金箱〉が鎮座していたのだった。
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