第209話 授業免除最終日。金箱ゲットクエスト達成!




「はわ、ボスいなくなっちゃったわよ!?」


 ラナの叫びが爆発後の静寂せいじゃくの中ひびき渡る。

 ついさっきまで戦闘していた強敵の〈ビッグマッシュ〉だったが、本当の意味で自爆してしまったらしい。

 今やその跡地には金色に光る〈金箱〉とボスドロップが散らばるだけだった。


 まあ残りHP10%切ってたからな。

 おそらく威力が通常の1.5倍になる怒りモード中にドカンしたため跳ね返ってきたダメージも大きかったのだと思われる。ゲーム〈ダン活〉時代もたまにあった現象だ。


 突如として必殺技を放ってそのまま倒れてしまったボスに、ラナは振り上げた手をどうすればいいの状態におちいった。不完全燃焼だったようだ。


 なら、ラナにはやってほしいことがある。


「ラナ~そんなことはいいから回復してくれ~」


 俺のHPは残り30%まで落ち込んでいた。


「わ、ゼフィルス、どうしたのよそのHP! 『回復の願い』!」


 気が付いたラナがすぐ中級魔法で回復してくれる。

 どうしたのって、爆発に巻き込まれたとしか言えない。


 〈ビッグマッシュ〉が爆発する直前、シエラをエステルに託して『ソニックソード』を使って離れようとするも飛距離が足りず、こうして大ダメージを負ったというわけだ。

 あれがボスの間近で起こっていたら俺は戦闘不能になってたな。危なかった。

 あれだけ離れていてこの威力だ、ボスの目の前で『鉄壁』を使って動けなくなっていたシエラが受けたらどうなっていたことか、たとえ被ダメージ減少させていたとしてギリギリだったんじゃないかと思われる。


「っと、サンキューラナ。それでシエラたちは無事か?」


「無事じゃないかしら、ほら、こっち来るわよ」


 ラナが見る方向に視線を向けると、ちょうどエステルが馬車で来るところだった。シエラもちゃんと乗っている。


「そっちも大丈夫そうだな」


「そうね。ゼフィルスが助けてくれたおかげよ。あの威力、ちょっと軽んじていたわ」


「そいつは良かったよ」


 ゲームでは『鉄壁』ちゅうは動くことは出来ないが、物を動かす系のスキルやスロー系スキルで移動は出来たので、『モンスタースロー』の要領でシエラを投げてみたのだが、成功してよかったよ。


「ゼフィルス殿も、無事でよかったです」


「はは、お互いボロボロだな」


「エステルもダメージすごいわね。『大回復の祝福』!」


「ありがとうございます。ラナ様」


 エステルは超スピードスキル『オーバードライブ』を使用し一気に逃げていたのに爆発の範囲外にはギリギリ出られなかったらしい。

 馬車へのダメージも使用者が肩代わりするためエステルのHPは残り25%まで減っていた。後ちょっとボスに近ければ危なかったな。


「うう~、でも不完全燃焼だわ~」


「ま、こういうこともあるさ。お疲れ様」


 ボスを倒したという実感がなくてラナが唇を尖らせる。ちょっと可愛い。

 実際自爆して終了というのはすごく珍しい現象だけどな。レア現象だぞ一応。


「ゼフィルス。お疲れ様」


「おう、カルアもお疲れ様」


 カルアは〈エデン〉でもトップの速度持ちだ。爆発も難なくやり過ごすことが出来たらしい。軽くハイタッチしてお互いを労った。


「さて、〈金箱〉開けるか」


「そうだったわ! 私が開けてあげるわ!」


「ダメ」


「なんでよ!」


 〈金箱〉と聞いて一瞬で落ち込んだテンションが復活したラナがなんか言っているが即で却下する。

 ここは公正に行かなければならない。


「エステル、とりあえず一個はエステルが開けていいぞ」


「よろしいのですか? ですがラナ様を差し置いては…」


「エステルは新メンバーや俺たちのキャリーをさせて苦労をかけたからな。構わんさ、俺が許す」


「じゃあ私も許してよ」


「いや、後一個はカルアに開けてもらおうと思う」


 俺がもう1人を告げると全員の視線がカルアに向いた。


「ん?」


 突然の注目にカルアが首を傾げる。ちゃんと話を聞いていたのか怪しいところだ。


「カルアに?」


「ああ。さっきまでの周回でも次はカルアの番だった、というのもあるが一番の理由は勘だな」


「勘、って何よそれ」


「俺にもよく分からないが、なんかカルアには感じるものがあるんだと、な、カルア?」


「ん。よく分からない」


 カルアもよく分からないようだが先ほどから一つの宝箱に視線が釘付けだ。

 あれに何か入っているのかもしれない。こういう勘ってよく当たるのだ。

 そして俺にはなんとなく、中身に心当りがある。カルアと引き合う系の物でレアボス〈金箱〉産と言ったら、もしかしたらアレかなぁ、程度のものだが。

 もしラナが開けて違うものに変わってしまったら困るので、そのままカルアに開けさせたい。


「というわけで、次はラナに頼むから今回は譲ってほしい」


「むう。分かったわ。でも次は絶対だからね」


「シエラも悪いな。付き合ってもらったのに」


「別に構わないわよ。行きましょう?」


 宝箱の前へと移動し、皆でしっかりお祈りを済ませる。

 そしてまずはカルアから宝箱を開けた。


「これ、靴?」


「思った通り過ぎて逆にすごいな。〈爆速スターブーツ(猫模様付き)〉だ。激レアだぞ」


 マジでそれが当たったか。まさかと思ったが、心の中でガッツポーズをとる。

 カルアが当てたのは俺の予想通りの足装備だった。

 これがかなり強いのだ。


 ――――――――――

・足装備 〈爆速スターブーツ〉

 〈防御力15、魔防力15、素早さ50、

 『移動速度上昇LV10』『爆速LV5』『罠爆破LV5』

  装備条件:【AGI 200以上】〉

 ――――――――――


 まさに激レアの名にふさわしいすばらしい数値とスキル構成である。


 ステータス値は素早さが驚異の50。初級防具で50とかとんでもない数値である。


 スキルは、〈ダッシュブーツ〉なんかにも付いている『移動速度上昇』がLVマックスで搭載され、さらに速さに磨きが掛かっている。

 またアクティブスキルの『爆速』は直線限定だが目にも留まらぬ速さで疾駆する、瞬動みたいなスキルだ。ちなみにブーツから爆発したみたいなスラスターが出るためか空中でも使用可能という強力なスキルである。まさに激レア〈爆速スターブーツ〉の真骨頂のスキルである。

 ちなみにスラスターの部分が黒猫になっているため見た目もグッドだ。噴射口の代わりに猫が描かれているのでどこからジェットが出るのかよく分からないのがすごい。さすがゲーム。

 この靴をデザインした方はきっと黒猫好きに違いない。


 最後の『罠爆破』は名前のとおり罠に使うと確率で爆破解体できるスキルである。間違って踏んでしまっても自動発動して罠を爆破してくれる便利なスキルだ。ちなみに宝箱に設置されている罠にも対応可能だ。強いぞ。


 俺もゲーム時代〈爆速スターブーツ〉を運良く当てることができたら良く使っていた。


 ただ装備条件が厳しいのがちょっとネック。驚異の【AGI 200以上】である。

 この数値をクリアできるキャラはかなり限られる。しかも防御力と魔防力の上昇値が低いのでダンジョンが進むと装備の更新をしていることが多く、やっとAGIを200達成してもその頃には敢えて〈爆速スターブーツ〉を採用することはほとんどなくなってしまう。


 つまり今【AGI 200以上】が無くては使わなくなってしまうのだ。埃を被らせちゃいけない装備だな。

 現在この条件をクリアしているメンバーはカルアのみ、まさにカルアのために出た装備品と言えよう。


「これはカルアに貸与しよう」


「いいの?」


「というか今はカルアしか装備できるメンバーがいないんだ。だから遠慮せずに使っていいぞ」


「ん。ありがとう。〈金箱〉の装備なんてとても贅沢。嬉しい」


 珍しく笑顔で〈爆速スターブーツ〉を胸に抱きしめるカルア。かなり気に入ったらしい。

 〈金箱〉産装備は滅多にお目に掛かれないからな。それを装備しているだけでも箔が付くぞぉ。あとでカルアの装備に合うようマリー先輩にデザインとペイントを弄ってもらおうな。


 続いてエステルの宝箱だ。


「これは盾ですね」


「ボス装備か!」


 エステルが取り出したのはあの〈ビッグマッシュ〉が装備していた〈マザーマッシュ〉がらのデカイ丸盾だった。ボスが持っていたものよりちゃんと縮んでいる、大体1mくらいか、しかしとても派手な盾だ。一応大当たりである。〈ママ〉の傘にしか見えないけど。


 レアボスの〈金箱〉は普通よりボス装備が当たりやすい。そしてレアボス装備はめちゃくちゃ強い。

 この丸盾も非常に強いのだ。ふむ、これは誰かに装備させたいところだ。いつもボス装備は〈エデン〉のメンバーに装備できない物が多かったから、これは初のボス装備になるかもしれない。


 スッとシエラに視線を向ける。


「いらないわ」


 いらない言われた。


 俺も〈天空シリーズ〉のシリーズスキルが崩れてしまうのでちょっと…。

 ということでイソイソと〈空間収納鞄アイテムバッグ〉に放り込む。


 最後は微妙だったが、無事クエストもクリアしたし帰還しよう。

 明日から学業が始まるからな。


 学園に来て1ヶ月、長いようなあっという間のような期間だった。

 思い起こせばよみがえる、入学式から始まり、初心者ダンジョンに挑み、そしてどんどんステップアップしていって、ついには初級ダンジョンのレアボスまで全制覇してしまった。

 リアル〈ダン活〉は予想していたより順調な滑り出しだ。


 明日から学業が加わり環境は変わっていくだろう。

 だが、〈ダン活〉時代の学業はスキップだったため実は興味津々だったりする。


 〈ダン活〉の授業かぁ、どんなこと教えてもらえるのか、楽しみだなぁ。


 明日からの事に胸を膨らませて、俺は転移陣に乗り込んだ。


 『サブクエスト〈レアボスを討伐しよう〉を達成しました』



 第三章 -完-

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