第207話 サンダージャベリン号、最下層に向け爆走中。




「お! じゃあ全員職業ジョブLV30に到ったのか! あ、そこ右ね」


「はい。途中に偶然出現したレアボス、〈バトルウルフ〉第二形態の経験値が大きかったですね。一番LVの低かったシズとパメラも余裕をもって届きました」


「レアボスも倒したのかぁ。じゃあ彼女たちも初級中位ショッチューは卒業だな。お、見えてきた。あれが5層の門な」


「はい」


 現在〈からくり馬車〉改め〈サンダージャベリン号〉が〈毒茸の岩洞ダンジョン〉の最下層に向けて最短距離を爆走中だ。


 途中に出現するキノコは全て撥ねられてエフェクトに消えていく。


 エステルと俺はその様子を見ながら御者席と助手席に座って情報交換していた。


 ラナ、シエラ、カルアは馬車の中。

 彼女たちは初めて乗る〈サンダージャベリン号〉を興味深げに見ながらうろうろしている。

 特にカルアはあっちを見て目を光らせ、こっちに移動しては目を光らせと忙しそうだ。

 【スターキャット】で速さに重点を置くカルアは、馬車に何か共感することでもあるのかもしれない。その速さにも興奮している様子だ。


「凄い、これ、広いし速い。速い、広い」


「カルア少し落ち着きなさい。そんなに尻尾をゆらりゆらり揺らして猫耳を忙しなく動かしていたら目が離せなくなっちゃうじゃない」


 そうか、それでさっきからラナの視線がカルアに釘付けだったのか。

 チラリと中を覗き込むと、ラナがいつも〈幸猫様〉を愛でている時の目をカルアに向けていた。とても仲間に向ける視線ではない。

 撫でたくて仕方なさそうである。


 カルアだけではなく馬車の内装にも目を向けてほしい。


 感想も聞いておきたいので馬車の中にも話しかけてみた。


「どうだ、馬車の使い心地その他諸々は? この前言ったようにレアボス素材をふんだんに利用した最高級品だぞ」


 すると近くにいたシエラが答えてくれた。


「そうね。まずだけど〈乗り物〉装備自体が聞いたことが無かったからびっくりしているわ。アイテムの馬車は知られていたけれど、このグレードの馬車となるとあまり見たことが無いわね。大体が木材や金属などの採集素材で作るタイプで、モンスター素材、特にボスモンスターの素材だけで作るだなんて…、普通は値が張りすぎて誰も作ろうとはしないもの」


 うむ。シエラの言うことも分かる。

 この馬車にかかった費用はとんでもない高額だ。レアボス素材を贅沢に使っているし、他は全てボスモンスターの素材で作られ、木材や金属などの採集素材は一切使用していない。

 たかが一装備品いちそうびひんにここまでつぎ込む人はそうはいないだろう。

 アイテムも同じだな。ここまでグレードを求める必要はない。


 それに素材を集めるのもむちゃくちゃ大変だ。〈裏技公式戦術ボス周回〉を知らなければ自分で集めるか、依頼して集めるか。どちらにしろとんでもない手間とミールが掛かる。それだけやって手に入るのは1つの装備品orアイテムだけ。

 端的に言って割に合わないのだ。例えば俺がこの〈金箱〉産〈からくり馬車のレシピ〉を公開したとして、作ろうとする人はおそらく皆無だろう。勿体ない。


 シエラは顔が広いし貴族の姫なので何度かこのグレードの馬車も見たことがあるらしいが、普通ならまずお目にかかれない類いの馬車であるとお墨付きをいただいてしまった。

 つまりとても使い心地が良いということだな。(多分そうに違いない)


 ふふふ。しかし作っちゃう俺。

 だって〈大図書館〉にあるノーマル級の馬車とか超しょぼいのだ。


 普通の木材や金属素材を用いて作られたノーマル級の〈乗り物〉は性能があまり良くない。

 スピードは遅いし、操作性も微妙だし、攻撃力も低いのでモンスターを轢き倒す事が出来ずにモンスタートレインと呼ばれる事故を誘発する場合もある。

 さらに頑丈でもないのでマイナススキルが付く。『被ダメージ50%増加』などがそうだ。

 つまり移動するだけで使用者のHPをガンガン削る。これが最も辛いな。


 でも無いより全然マシなので、俺も当初はノーマル級を使おうとしていた、これはエステルの高ステータスにものを言わせた力押しで進める予定だった。回復なんかの手間は余計に掛かるものの必要経費として割り切ろうと考えていたのだが、〈金箱〉でレシピが出てくれて本当に良かったぜ。



 その後もラナとカルアからもとてもいいねの評価をいただき、俺はご満悦になった。


 やっぱり頑張った物が評価されるって嬉しいよね。作ったのガント先輩だけど。


 気がつけば17層に突入していた。最下層まで後2,3分だろう。エステルの馬車の操作はかなり上達している様子だ。


 その間にエステルから、あの後登場したというレアボス〈バトルウルフ〉第二形態の報告を聞く。

 レアボスが予期しないタイミングで発生するのはとてもラッキーであり、それと同時にアンラッキーにもなり得る。今回はラッキーで済んだみたいだが、どうやって格上ダンジョン級のボスを倒したのか気になるところ。


 もしかしたら壮絶な戦闘の末に打ち破ったのかもしれない。

 ワクワクしながら報告を待った。


 しかし、エステルの応えは遙かに簡単なものだった。


「敵が一体であればルルの敵ではありませんでした」


「……なるほど」


 思わずボス戦の光景が思い浮かび納得してしまった。

 きっとルルにデバフを掛けられまくって弱体化しまくり、そのまま何も出来ずにやられてしまったに違いない。


「あの〈ユニークスキル〉、『バトルウルフ流・爆炎尻尾薙ぎ』でしたか、避けることが間に合わずルルとパメラが直撃を受けていましたが、2人ともピンピンしておりました」


 そして〈ユニークスキル〉の硬直中にセレスタンが何かしてクリティカルダウンを奪い、総攻撃を掛けて〈バトルウルフ〉第二形態はエフェクトの海に沈んだらしい。


 さすがは【ロリータヒーロー】。ルルたちも戦闘にだいぶ慣れてきたようだ。


「あ、それとドロップですが〈金箱〉2つでした。後で確認してください」


「レアボス〈金箱〉も出たのかよ!」


 やっべ、帰った後の楽しみが増えたな。

 これからレアボスに行くのも楽しみ、そして帰るのも楽しみ。

 俺のワクワクは止まらない。


「着きましたね」


 そしてとうとう最下層に到着。

 さて、レアボス戦の始まりだ。



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