第202話 ラナが無駄なところで王女の威光を発揮する
〈孤島の花畑ダンジョン〉のボスは〈サボッテンダー〉。
遠距離攻撃特化型のボスである。
ただ、リカのような防御スキルを多用する系のタンクとは相性が悪いのが難点だ。
ということで今回はシエラがメインタンクを務めることになった。
初級上位ダンジョンのボスクラスともなるとさすがにカルアとリカだけで戦うのは厳しいので俺たちもガンガン参加する。
リカはタンクではあるがアタッカーも出来るため今回はアタッカーに回ってもらおう。
カルアは変わらずアタッカーのままだ。
配置も決まったので早速〈サボッテンダー〉に挑む。
しかし、
「あ~、こりゃ楽勝だな」
〈サボッテンダー〉戦も中盤に差し掛かるが、正直言って俺たちが苦戦するような事態がまったく想像出来ないほどの超有利状態だった。
「シエラの『インダクションカバー』が的確すぎるんだよなぁ」
〈サボッテンダー〉は範囲攻撃や全体攻撃、〈毒〉攻撃を軸にして攻撃してくるが、シエラには毒は効かないし、範囲攻撃もシエラから離れていれば範囲に入らない。
〈サボッテンダー〉の攻撃ではシエラは倒せないので、そうなると全体攻撃しか活路は無いが、〈サボッテンダー〉が全体攻撃をするとシエラが『インダクションカバー』で防いでしまうので完封状態になってしまっている。
シエラのタンクが優秀すぎる件。
周回するにはこれ以上無いほど素晴らしい活躍なのだが、もう少しこうドキドキ感とかが欲しいところだ。
あ、〈チミ・サボッテンダー〉が召喚されたぞ。
「『ガードスタンス』!」
今回も9体全てをシエラが受け持つ。前回は囲まれてしまい結構ボコボコにされていたが…、今回はそうはならなかった。
「『カウンターバースト』! 『インパクトバッシュ』!」
「「「フフフ!?」」」
シエラの強力なカウンタースキルと大威力の攻撃によりぶっ飛ばされ囲むことが出来ない〈チミ・サボッテンダー〉たち。
そのまま他のアタッカーたちによって狩られてしまい。シエラは余裕の捌きだった。
そして奥の手も屠られた〈サボッテンダー〉はおサボり中に総攻撃を食らってエフェクトに消え、リカたちは余裕の勝利を果たしたのであった。
「ゼフィルス。私ね、手応えが足りないと思うのよ」
しかし、そんなボス戦に不満を訴える人物が一人、この国の王女、ラナである。
確かに簡単すぎるボス戦というのも考え物、哀れ〈サボッテンダー〉よ、おサボりしているからこういう事言われちゃうんだぞ?
まあ冗談はさておき、
「いや、うん。言いたいことは分かるんだが…、それで俺にどうしろと?」
「ふふ、分かっているのでしょ? 笛、使いなさいよ」
「おおう…」
いったいどうしたというのか、ラナから何か波動を感じた。今のが王女の威光なのか?
何もこんなところで発揮しなくても。
そんなに今の戦闘が不満だったのか?
「今日はね、最終日なのよ! 最終日には最終日なりの強大なボスと戦うのが鉄板でしょ!」
今日は授業免除最終日、明日からは学業です。
ヤバいな。ラナの言うことに納得してしまう俺が居る。最終日にはそれなりの事がしたくなるよな。
笛1回50万ミールだけど。
「ようし、使っちゃうかー!」
ラナの言うことに踊らされて俺も賛成した。
そこにスッと出てくる影、ジト目をしたシエラである。
「何を相談しているのかしら? 私も詳しく聞きたいわね」
おおう。その目は全て聞いていた者の目ですね?
そして視線が俺に固定されている、なぜ?
「あなたが
まあ、はい。そうですね。
シエラの言いたいことは分かる。
一応〈笛〉は俺個人の物ではあるが、ギルドで
つい最近まで俺は知らなかったのだが、先日セレスタンからそう言われたのだ。
予算はギルドの共有財産だ。不必要な物を身勝手な理由で購入することは当然ながらNGである。これは皆のお金だからな。
もしギルド予算から50万ミールを支払うのならば、それ以上を還元しなければならない。
俺たちは収入の5割をギルドに入れているため最低でも100万ミールを稼ぐことは絶対で、さらにギルドの貢献度によって別途お給料や手当が付くから、その分も稼いでおかなければギルド予算はマイナスになってしまう。出来れば120万ミールは稼いでおきたい。利益も考えるなら150万ミールは欲しいところだ。
つまり笛1回使用で150万ミール、8回使用で1200万ミールを稼げなければいけない。となる。
数値だけで見れば上回っている。しかし〈笛〉って100%レアボスを呼び出すわけじゃないからなぁ。
もし、8回中4回ハズレたら大赤字。3回ハズレても利益が出なくてトントンくらいになるだろう。上手く〈金箱〉が出れば大儲けだが、それは甘い考えか。
ああ、なんかよく考えたらダメな感じがしてきた。
8回中6回レアボスツモというのは、ちょっと自信ない。
「すまんなラナ。今の話は無しだ」
「そんなの許さないわよ」
「あれ?」
許されないらしい。
「ミールくらい私が出すわ。それじゃダメなの? あまり使っていないから結構残っているのだけど」
「そうね。ギルドの決まりで「ギルドで使用するものはギルド予算で購入する」ことが義務づけられているから。笛の回数を使うなら、それはギルド予算ではないとならないわ」
セレスタンが夜なべして作ったギルドの規則だな。さすがにラナも黙るしか無いだろう。
と思いきや、そうはならなかった。ラナの目がキリッとする。
「ふーん。なるほどね。でも使うわ! そんな規則があるのなら破ってしまえば良いのよ!」
「あー……」
さすが元わがまま王女。斬新な発想であります。俺たち凡人ではとても思いつかない、そこに痺れる憧れる!
「なるほどね。それで行きましょう」
「え! シエラが納得した!?」
どういうこと!? 俺にも分かるように教えてください!
え? 本当に良いの?
「要は
「え? そんなので良いの?」
購入はしたけれど無駄遣いなのでギルド予算は下りない。つまり自腹を切ることになる。
相手に反省を促すペナルティーの一種だが、それを逆手にとって個人での購入をギルドに認めさせるわけだ。
え? マジで有りなのそれ? 穴だらけじゃね?
「最高決定権があるのはあなたと私だから、私たちが認められないと言えば無駄遣いになるわね」
「俺にそんな決定権が!? いや、確かに俺ギルドマスターだけどさ」
まさかのラナのわがままが通ってしまった件。権力って素晴らしい。
「あ、じゃあ俺もミール出します! そして〈笛〉使います!」
レアボス祭りの始まりじゃー!
「言っておくけれど、節度は守りなさいよ?」
「わ、分かってるさ」
シエラのジト目の忠告に、俺は震え声でそう応えた。
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