第190話 シエラのありがたみが分かる光景だ。




「2人ともボロボロだなぁ」


「回復する時間が無かったもので」


 俺の感想にシズがクールにそう返す。


 無事に初のボス戦に勝利して帰ってきた2人、しかしそのHPは半分以下まで減らしていた。

 結構ボコボコにされていたからなぁ。


 シズも追いかけられる過程で何発か攻撃を食らっていたし、ボス相手に避けタンクをしていたパメラも『軽業』が切れたとたんボコボコ食らっていた。

 そして〈クマアリクイ〉のタゲがまたシズに移り、とまあ悪戦苦闘していた。


 傍から見ると面白かったが。


 これを見るとやっぱり安定したタンクって大事なんだなぁと実感する。

 シエラ、いつもありがとな。

 心の中で礼を言う。


「とりあえず回復するか。『オーラヒール』! クールタイム終わったら次パメラな」


「ありがとうございますゼフィルス様」


「ありがとうデース!」


 俺は回復魔法でシズとパメラを順に回復していく。


 しかし、回復する暇がないか。

 〈エデン〉のメンバーはタンクは結構いるのだがヒーラーが不足している。

 今のところ俺とラナしか回復できる職業ジョブがいないのは問題だ。

 一応ハンナ、セレスタン、シズも生産で回復アイテムは作れるが、今みたいな激しい戦闘中は使っている暇がないからなぁ。


 ヒーラーはダンジョンを攻略する上で絶対外せないポジション。

 次のメンバーは是非ヒーラーを募集したいところだ。心のメモ帳にメモっておこう。


「ではゼフィルス殿、これからどういたしますか?」


「一旦帰還して食事にしよう。午後からは〈石橋の廃鉱ダンジョン〉に向かうぞ」


「かしこまりました」


 エステルが次の予定を周知する意味で聞いてきたので答える。


 セレスタンではないんだから俺にかしこまる必要はないんだが、まあいいか。


「少しハードなスケジュールになるが、次のボス戦も行けるか? というかその次にも控えているが」


「そうですね。まさか〈乗り物〉という高速でダンジョン攻略が可能な物があるとは思いませんでしたが、おそらく問題ないかと、戦えます」


「さっきシズが疲れたって言っていたのハやっぱり嘘だったデス!」


「いいえ、疲れたのは本当ですよ。誰のせいでしょうね?」


「え? そ、それはボスのせいだと思うデース。そんな目で見つめても何もでないデス!」


 ふむ。2人ともまだまだ行けそうだな。体力は結構あるみたいだ。よしよし、午後はボス周回も出来そうだな。


「じゃ、帰ろうか」


 ボス周回せず、一時帰還。

 とりあえず今日中に初級下位ショッカーは全クリアしたいので速さ優先だ。

 LV上げなら初級中位ショッチューでボス周回した方が経験値効率がいいからな。

 最初は攻略優先で行く。


 しかし、ボスを各1体ずつ倒すだけではLV15に届かないと思われるので〈静水の地下ダンジョン〉のボス〈アリゲータートカゲ〉だけは何回か周回する予定だ。

 そんな予定を昼を食べ終わった後で言う。


「ゼフィルス様のお考えは凄まじいですね。研究肌と言いましょうか、ラナ殿下やエステルがすでにLV50に届いたのも納得できます」


「すごいハードスケジュールデス!」


 シズとパメラの感性的にもやはりこの高速攻略は並外れているらしい。

 ま、〈乗り物〉を使った高速攻略はこっちリアルではあまり行われていないようだからな。


 まず〈乗り物〉を作製するための膨大な素材を集めるのが大変だし、それを操縦する職業ジョブはカテゴリー持ちだ。学生には少し難易度が高いだろう。


 それに一番の理由は〈乗り物〉で最下層に行ったとして、〈公式裏技戦術ボス周回〉を知らなければあまり意味がないのだ。攻略者には成れる。でも道中をスキップするためレベルはあまり上がらない、次の攻略が厳しくなる。結局どこかでレベル上げが必要になってしまい、効率を見るとちょっと微妙になってしまう。


 この〈乗り物〉高速攻略はどこかで効率の良いレベル上げが出来るからこその戦術なんだ。


「ま、とりあえず学園の授業が始まるまでの3日間だけは集中してやりたいな。授業の予定とかまったく分からないから、その後の予定は追々だ。とりあえず授業が始まったら落ち着くまではギルドに集まったメンバーで適当にパーティ組んでダンジョンに挑む形になると思う」


「なるほど。それでメンバー全体を平等びょうどう職業ジョブLV30まで上げるのですね。誰をパーティに加えても戦力が偏らないよう」


「そゆこと」


 パーティは基本的に役割分担。

 そのためアタッカーが弱かったり、タンクが弱かったりと偏っていると上手く攻略が進まない。まあそのくらいならダンジョンの醍醐味だし別にいいのだが、

 自分のLVが足りないばっかりに付いていく事ができないとなったらさすがに嫌だろう。

 ダンジョンはLV制限があるので、職業ジョブLVが足りないとパーティに参加自体できない。悲しい。


 あと、ギルドバトルの件もあるしな。なるべくギルド全体の水準を高めておきたいのだ。


「じゃ、食事も終わったし、腹ごなしにダンジョン攻略と行きますか!」


「「「はい(デス)」」」


 午後の攻略が始まったが、午前と同じく色々と課題が浮き彫りとなった。

 操縦のエステルは洞窟ダンジョンでは車体をぶつけまくった、しかし車内には微々たる衝撃しか返ってこず、俺がエステルを回復しながら細かな操作を教えていった。


 ボス戦ではシズとパメラはまだまだヘイト管理が甘く、何度もシズの悲鳴が飛んだ。

 うーん。あれだ。パメラは『忍法』が大好きだって言うのはわかった。『目立つ』を使ってヘイトを稼いだのに何故『忍法』を使う?

 使いたい気持ちは分からんでもないけど…。『忍法』ってロマンだよなぁ。うむ。

 ボス戦終了後パメラはシズにお尻を抓られて涙目だったけど。これも経験さ。


 15時からは〈静水の地下ダンジョン〉に突入。

 また車体をガンガンぶつけながら最下層まで到着。今回はさっきの洞窟ダンジョンよりぶつける回数が少なかった、エステルも少しずつ成長している。


「まだ、ラナ様は御乗せ出来ません」


「直にうまくなるさ。練習あるのみだ」


 どうやらエステルの目標は馬車にラナを乗せて最下層までお届けすることらしい。

 激励をしておいた。


 そして本日3体目のボス戦。

 〈アリゲータートカゲ〉にパメラがパクリとされるトラブルもあったが、即吐き出されたため問題は無い。怪我も無い。食べられて無傷とかさすが〈ダン活〉だ。


 シズが笑いをこらえきれないといった様子で顔を赤くしながら〈アリゲータートカゲ〉を撃っていく光景がシュールだった。


 前の2体より比較的スムーズに倒し終わったのでボス追加。ボス周回を公開だ。

 2人ともこの時点で職業ジョブLV13だったので5回周回。無事職業ジョブLV15になったのだった。


 これにて今日の攻略は終了。


 シズ、パメラ。

 初級下位ダンジョン卒業、おめでとう。

 明日からは初級中位ダンジョン攻略だな!




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