第189話 初ボス戦開始。最初は上手くいかないものだ
「うーん。これは
「そうですね。パメラは『忍法』を使いすぎだと思います」
現在シズ、パメラは初のボスモンスター〈クマアリクイ〉と戦闘中。
俺とエステルはそれを
しかし中の様子は、ちょっと慌ただしい。
「おわ!? またシズの方に向かったデース!? 待つデス!」
「パメラ! 何をしているのですか、しっかり抑えなさい! 『ファイヤバレット』!」
「『刀撃』デース!」
「ガァァァ!」
「ああ! 止まらないデース! シズ逃げるデスよ!」
「え! ちょっと!?」
「ガァァァ!」
「キャー!?」
パメラが止めきれなかった〈クマアリクイ〉がシズを追いかけ回し始めた。
シズはもう必死に逃げるだけだ。
その様子を見て俺はエステルに振る。
「王女の護衛って優秀なんじゃなかったっけ?」
「…返す言葉もありません。あの姿は、ちょっと予想外でした。普段は優秀な従者と護衛なのですが」
エステルも同僚のあたふた加減に困った顔をしている。
まあ、普段の仕事とボスモンスター戦を同列に考えてはいけないとは思うが、俺もこれは予想外だったので許してほしい。
思えば最初にボス戦をした時、エステルだってここまでとはいかなくても結構ぎこちなかったのを覚えている。
単純に武器を槍にしたから不慣れなのかと思ったが、そもそもモンスター相手に戦う事自体経験不足だったのかも知れない。
シエラが最初っからそつなく完璧にこなすものだから、エステルたちも実家でそういう訓練を積んでいるのかと思っていたのだが、初めては初めてだものなぁ。そりゃぎこちないわ。
最初っから完璧なシエラが優秀すぎたのだ。
もしかしたら初めてのボス戦も完璧なタンクのシエラがいなかったらこんな感じになっていたのかも知れない。たしかあの時はラナがミスって先制バフを使っちゃったからな。
そういえば、他のパーティが
「助けに入りますか?」
「うーん。とりあえずアドバイスだけ投げてみて、ダメそうなら助けに入ろうか」
「承知いたしました」
俺たちが入ってサクッと倒してしまうことは出来るが、それは彼女たちのためにならない。
ま、せっかくの初ボス戦だ。こういうのも経験だな。
俺は早速
「おーいパメラー! まずはヘイトを奪え、『忍法』を使うな! まずは『目立つ』だけを使うんだ! そしてシズ! 攻撃を一旦中止し逃げる事だけに徹しろ、ヘイトの稼ぎすぎに注意しろ!」
要はヘイト管理ミスだ。
初心者はまだヘイトの概念がよく分かっていない事が多い。
本来ならパメラがタゲを受け持ち、シズがダメージを与えていく構成が望ましい。
しかし今回、逆にヘイトを下げるスキル『忍法』系をパメラが多用した事により、後衛アタッカーのシズにタゲが向いてしまった。
シズは後衛なので防御力がかなり低い。メイドだし。
少しは耐えられるが、さすがにボスの攻撃を何発も受けたら戦闘不能になるだろう。
これを
「分かったデース! 『目立つ』!」
【女忍者】の『目立つ』は挑発スキル。無駄にエフェクトを煌めかせ相手の注目を集めるのだ。
しかし、それだけでは〈クマアリクイ〉のタゲはパメラに向かわなかった。シズが結構なヘイトを稼いでしまっていたらしいな。
「パメラ。クールタイムが終わったらもう一度『目立つ』だ! それでタゲが向くはずだ。シズは頑張って逃げまくれ」
「簡単に言ってくれます! キャー!」
うーむ。シズはなんとなく上辺が剥がれてきたな。素が出ている気がする。
「クールタイム、もう少しで終わりマース! シズ、あと少しの辛抱デース!」
「パメラは後で説教です! キャー!」
追いかけるのを諦めたパメラがシズを応援しているが、逆にシズのヘイトがパメラに向かった模様だ。メイドさんの説教か、一度生で見てみたい気もする。
「クールタイム、終わりました! 『目立つ』デース!」
「グルルル!」
二度目の『目立つ』によりようやく〈クマアリクイ〉のタゲがパメラに向いた。
「回避に徹するデース! 『軽業』!」
パメラが回避力アップ系の自己バフスキル『
しかし、
「あわわ、これ結構怖いデース!?」
「私はさっきからそのなんだかよく分からない怖いアリクイに追いかけられていたのです。少しは私の気持ちも味わうと良いでしょう」
「シズ!? 早く倒しちゃってくださいデース!?」
「私は走りすぎで疲れました。銃が構えられないので少し休憩します」
「絶対嘘デース! シズ、謝るデスから、ごめんなさいしますからー! もう『軽業』の効力が切れそうなんデース!?」
タゲがパメラに移ってシズの逆襲も始まった様子だ。
端から見ているとちょっと面白い。
少し顔色を悪くしながら必死に避けていくパメラ。さっきとは逆の構図だな。
そんな同僚の様子を見てエステルが溜め息を吐いた。
「申し訳ありませんゼフィルス殿。彼女たちはその、少したるんでいるみたいです。少し鍛え直す必要があるかも知れません」
「別に良いさ。なんか楽しそうだし。ダンジョンは楽しめ、楽しんだ者が真の勝利者だ」
ダンジョンは楽しめ。それが俺の〈ダン活〉道だ。
「……そうでしたね。では、もう少し見守る事に致します」
俺の熱意が伝わったのだろう。エステルが少し微笑んで頷いた。
その後はシズもちゃんと攻撃に参加し、パメラがヒィヒィ悲鳴を上げる中、なんとか〈クマアリクイ〉を撃破したのだった。
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