第186話 〈からくり馬車〉お披露目。馬車内が、広い!




 ギルドでパーティ分けを行なった後、シズとパメラに恒例の最強育成論を伝授。

 2人はエステルの方をチラリと確認した後すぐに採用を決めてくれた。セレスタンのように一部SPを振ってはいたもののさほど障害になりそうなものは取っていなかったのは幸いだった。


 そこからは最強育成論の手順通りに進めつつ彼女たちと相談しながら一部のメモを修正する。彼女たちとスキルの相性もあるのでその辺かんがみながら改正した。


 その間にラナたちのパーティは初級上位ショッコーへ、シエラたちは初級下位ショッカーへと旅立っていった。

 俺たちも準備が整い次第旅立つとしよう。


 というわけで早速行動を開始。

 俺はエステルや新メンバーのシズ、パメラを連れて初級下位ダンジョンの1つ〈熱帯の森林ダンジョン〉に出発した。


 シズもパメラも〈初心者ダンジョン〉は合格済みとのことだが、初級下位ダンジョンに来たのは初めてのようだ。少し落ち着き無さそうに付いてきていた、少しペースを合わせるようにして、ゆっくりと歩き、門へと潜る。


 いつもどおり、色々とモンスターを相手にする心構えなんかをレクチャーしながら進み、

 やや大きな空間に出た時に、俺は満を持して〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉から〈カラクリ馬車〉を取り出した。


「こ、これは。そのずいぶん豪華な馬車ですね」


「おー! ダンジョンを爆走するデス!?」


「ゼフィルス殿からお話を聞いていましたが、これは想像以上の物が出てきました。馬車の操縦はあまり経験がないのですが。傷を付けてしまわないか心配です」


 出てきた〈カラクリ馬車〉の思わぬ豪華さに一同驚いた様子だ。

 シズが一番びっくりしている。パメラはキラキラした視線で見つめ、エステルはその豪華さに傷を付けやしないかと心配している様子だ。


「エステル、その心配は無用だ。何しろこの馬車はモンスターを倒すために存在する。むしろぶつけまくれ」


「いえ、そういうわけには。あの本当にやるのですか? 騎乗突撃とは違って馬車で突撃するのは抵抗が……」


「おうよ。ぶちかましてやれ」


「……そうですか。慣れておきますね」


 俺が親指を立てるとエステルが少し溜め息を吐いた気がした。

 安心しろって。〈ダン活〉の〈乗り物〉系装備は破壊不可だ。横転もしないし、いくらドカンバカンぶつけても中に居る人たちもケロリとしている。

 何しろ衝撃は全て装備者のHPが緩和してくれるからな。この場合で言えばエステルのHPがぶつけたダメージを肩代わりしてくれる仕様だ。つまりガンガンぶつければそれだけエステルのHPも減っていく。

 うん。ポーションはたくさん持たせておこう。


 俺が馬車の様子を見にその場を離れるとエステルの所にシズとパメラが近づくのが見えた。作業する手を止めずに少し耳を傾ける。


「エステル。ゼフィルス様はその、ずいぶんと溌剌はつらつとした方ね。いつもこうなのですか?」


「思っていたよりずっとお茶目さんデース」


「ふふ。そうですね。いつも楽しそうな方です。ラナ様にお似合いでしょう?」


「その件について私はまだ認めていませんよ。たとえ【勇者】とは言え、ラナ様の笑顔を曇らせるようなら相応の報いを与えてやります」


「シズは過激なのデス。普通に注意してあげればいいのデスよ」


「はい。その方が上手く収まるかと」


「だから、私はまだ【勇者】を認めていないと言っているのです。上手く収まられると困ります」


 いったいなんの話をしているのだろうか?

 ちょこちょこ【勇者】という単語が出てくるので俺の事だと思うが、エステルが向こうを向いているせいでよく聞き取れない。俺が何に収まると困るんだ?

 話し中だと悪い気もしたが、俺の事らしいし話しかけても良いよな?


「エステルー。何の話だー?」


「いいえ。こちらの話です。今そちらに行きますね」


「そうか? ならシズとパメラも来てくれ、馬車の内装も中々凄いぞ」


 どうやら内緒らしい。

 まあ、まだシズとパメラとはあまり話した事も無いしな。

 俺には話しづらい事もあるんだろう。もう少しコミュニケーションを取って仲良くなろうか。

 という事で、共通の話題作りに馬車の内装を見せる。


「これは、広いですね。空間が広くなっているのですか?」


「ああ。これは『テント』と『車内拡張』の効力だな。馬車内で寝泊まり出来るように見た目より中身のサイズが少し大きくなる。俺も初めて見たが、驚いたなこりゃ」


 エステルの問いに頷いてから説明する。

 付与効果である『テント』と『車内拡張』は馬車をテントに改良する効力があるため、全員が寝泊まり出来るよう空間がやや広がる。おかげで馬車内なのに7人が寝られるには十分な広さがあった。外見と比べると明らかに内部の空間の方が広い。


「これはなんでしょうか?」


「箱デス? 中身は見ても良いデスか?」


「それは『空間収納倉庫アイテムボックス』だな。LV3だから結構な量が持ち運べるぞ。ちなみに中身は空だ」


 シズはさすがメイドらしく、馬車内部に逸早いちはやく乗り込むと、座席の質感や物の隙間、椅子の下などを色々とチェックし始めた。危険物がないか確かめているのだろうか? 

 その過程で〈空間収納倉庫アイテムボックス〉を見つけたみたいなのでそれも説明する。


 ちなみに俺も〈空間収納倉庫アイテムボックス〉を見るのは初めてなので一緒に見る。


「おー! みるみる腕が入るデース!」


「お、ちょっとそれ有りなのかよ。俺も入れさせてくれ」


「どうぞデース。これ結構楽しいデスよ」


「おお! むしろ身体まで落っこちそうで中々スリルがあるなコレ」


 パメラが〈空間収納倉庫アイテムボックス〉に手を入れて楽しそうにしていたので即俺も参加する。〈空間収納鞄アイテムバッグ〉はすぐ手が底に着いてしまうのに対し、ボックスの方は手がみるみる入っていく。底が無いみたいだ、口が広いから身体ごと落っこちてしまいそうになる。何コレ、ちょっと面白いんだけど。


「生き物は入らないはずですよ。落ちそうになったら弾かれるはずです」


「ああ。そうだった。ペッてやられるやつな。いや、一度経験してみるのも有りか?」


「……やめておくのをオススメしますよ。何よりかっこ悪いですから」


「かっこ悪いなら、やめた方が良いなぁ」


 ゲーム〈ダン活〉の時もそんな設定があったのを思い出す。ゲームでは設定だけで実際アクションは無かったのでやってみようかと心の中の悪魔が囁いたのだが、続くシズの一言でやめた。

 俺は面白さや楽しむ事には努力をいとわないが、女の子からかっこ悪いと言われてまでやりたいとは思っていないのだ。時と場合によるが。


 一通りはしゃいだ後、そろそろ出発する事にした。


「エステルいいか? 最初は慎重に進め。なに、大体はエステルのスキル『乗物操縦LV5』がやり方を教えてくれるからすぐに慣れる。モンスターに突撃するのはその後だな」


「分かりました。頑張ります」


 御者席にエステルが座り、俺はその隣に座る。

 最初はこの辺りで慣らし運転から始めるので、その間シズとパメラにはとりあえずモンスターを狩っていてもらうことにした。


 エステルが手綱を引くと、とうとう〈乗り物〉が始動する。




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