第112話 初の4つドロップ〈ビューティフォー現象〉だ!




「〈銀箱〉ドン! さらに倍!」


「4つもあるじゃない! ゼフィルス、4つよ! なんでかしら!?」


 そらぁ君、〈幸猫様〉の恩恵に決まってるでしょうがっ!


 レアボスのドロップは普通のボスとは違い、倍落ちる。

 つまり宝箱は2個ドロだ。ボス素材も倍落ちるぞ。その代わり道中に出たモンスターのドロップは無いが、些細ささいな事だろう。


 しかし、この倍ドロップに〈幸猫様〉の恩恵、〈ドロップがたまに倍になる〉が加わるとさらにドンッ!

 宝箱が4つになる。素晴らしい。


 実は通常の〈バトルウルフ〉第一形態の時から何度か宝箱が倍になる現象は起きていたのだが、ラナはたまに宝箱が2つになる現象を、ただそういう物としか思っていなかったらしい。

 とんでもないことだ。すべては〈幸猫様〉のおかげ。


 普通、宝箱は1個なのだよ君?



 そしてレアボスと〈幸猫様〉の恩恵が合わさった宝箱が4つ化するこの素敵ですばらしい現象、

 〈ダン活〉プレイヤーからは〈ビューティフォー現象〉なんて呼ばれていた。


 ビューティフルとフォーがかけてあるわけだ。

 本当は最初にこの現象に遭遇したプレイヤーが掲示板でビューティフルの発音通りに「ビューティフォーだ!」と高らかにシャウトした事に起因するが、そこでウケてからそのまま定着してしまった形だ。


 〈ビューティフォー現象〉。

 またこれがすべて〈金箱〉だった場合、〈パーフェクトビューティフォー現象〉別名:〈パーフェクトドロップ〉とも呼ばれていて、掲示板では〈パーフェクトドロップ〉報告があるたびに嫉妬と羨望が巻き起こり、そしてそのすべてがハズレドロップだった時はザマァの嵐が吹き荒れていた。

 ちなみに全部大当たりだったプレイヤーは皆から顔文字のビンタを食らっていた。

 俺は最高256Hitヒットビンタを食らったことがある。Hitヒットが多いほど、なんか楽しかった。懐かしいぜ。



 今回は残念ながら〈金箱〉ではなかったが、それでもレアボスのドロップだ、〈銀箱〉でもレアドロップが期待できる。


「あ、開けていいの?」


「ああ、いいぞ。今回は――」


「あの、私は辞退させていただきます」


 宝箱は4つ、メンバーは5人。これをどう振り分けるかなぁと悩んでいたら近くに寄ってきていたエステルが手を挙げた。


「なんだ。さっきのミスを気にしているのか? 遠慮はしなくていいぞ」


「いえ。私は前回開けさせていただきましたから、今回はみなさんでどうぞ」


 そういえば〈デブブ〉の〈金箱〉を開けたのはエステルだったか。

 あの時は金で、今回は銀なんだからカウント外な気がしなくも無いが、前回〈金箱〉開けておいて今回も〈銀箱〉を開けるというのは気がとがめるらしい。


「そういうことなら、仕方ないか」


「はい。私の事はお気になさらず皆さんでどうぞ」


 そこまで言われては従わざるを得ない。


「よし、じゃあ宝箱開けるぞ! 俺これな!」


「あ! それ私が狙ってたやつ! ちょっとゼフィルスどきなさいよ!」


「他にもあるだろう!?」


 近くにあった宝箱の前へ行くと何故かラナから押し出された。

 まあ、いいけどな!? 隣の宝箱の前に移動するとハンナもシエラもどれを開けるか決めたらしい。


「じゃあせーので開けるわよ! エステルも見てなさい!」


「はいラナ様」


「せーの!」


 ラナの音頭で全員一緒に開ける。なんかこういうのも新鮮で良いな!


 〈銀箱〉をぱかっと開けると、俺のところに出たのは『MP消費削減LV3』の付いた〈節約上手の指輪〉だった。


 お! こいつは当たりだ! ラナも含め魔法職は大体が持っている『MP消費削減』の付いた指輪! MPを多く消費する俺かハンナに持たせればMPポーションの利用率を下げる事が出来るだろう。

 ちょっと今回の周回はMPポーションを使い過ぎた。もう少し節制を心がけた方が良いのかなぁと思っていた矢先のドロップ。世界も俺に節制しろと言いたいのか!?


 〈幸猫様〉、良いドロップをありがとうございます!




 さて、俺の方はかなりの当たりだった。

 他のみんなはどうだろうか?


 まず俺を押しやったラナの方覗く。


「何これ、紙?」


「お、レシピだなそりゃ。書いてある内容によるが、レアボスのドロップ系レシピは大抵そのボス素材の活用法が書かれているからな、当たりの部類だぜ?」


「へー、そうなの?」


 いまいちそれの価値が分からなかったようで複雑そうなラナが紙を空に透かす。

 そんなことしても読めないぞ。読むには『鑑定』とか『解読』使わないと。

 まあ、書いてあることが分からないんじゃそんな反応だよなぁ。

 けど、こいつは二重ガチャの類だぞ?

 宝箱で一回、鑑定で一回。ガチャをするから二重ガチャ。

 何が書いてあるか、俺は次のガチャが楽しみだ。


 続いて、シエラの下に行く。


「これだったんだけど。分かるかしら?」


 シエラが取り出したのは、簡易マット。

 ああ、なるほど。生産アイテムの類だな。


「名称は〈やわらか簡易マット〉。【整体師】や【エステ】【宿主】【ハウスキーパー】なんかの商売道具だな。シエラが持ってきた〈錬金セット〉と同じ類のアイテムだ」


 〈やわらか簡易マット〉は専用〈スキル〉の効果を1.4倍にする破格の効力があるので、専門の職業ジョブ持ちなら重宝する。これでもレアボスの銀箱ドロップだ。

 売っても良いが、一応とっておこう。効果が強いからな。もしかしたら使うかもしれない。


「じゃあ使い道がないわね…」


「ギルド部屋のインテリアにでも使ったらどうだ? 殺風景でなんにも無いし、倉庫を休憩室代わりに使っても……」


「あそこで寝るの?」


「…無いなぁ。寝るなら自分の部屋に帰るよな…」


「でもインテリアにする案は悪くないわね。せっかく〈銀箱〉からドロップしたのだから、なるべく記念に取っておきたいわ」


 というわけで、しばらくこれはインテリアにすることに決まった。

 この上にぬいぐるみでも並べようかな。


 最後はハンナだ。


「私のはこれ。宝石?」


「あ~。〈大きな魔宝石・トパーズ〉だな」


 ハンナのは単純明快。換金アイテムだった。売ればそれなりの金になる。

 なんだろう。ハンナのお金に対する意識の高さが、これを引かせたのだろうか?

 なんとなくそんな気がしてくる不思議。

 

 換金アイテム系は〈小さい○○〉〈大きい○○〉〈特大な○○〉の3つ名称が付き、〈大きい○○〉は2番目に価値が高い。それに一応レアボスの〈銀箱〉産なのでこれ1つでそれなりの金額になる。

 初級中位ショッチューレアボス産なら、通常で100万ミールくらいにはなるな。しかしオークションに掛ければもっと上を狙える。


 オークションは毎週1回、日曜日に行われている。

 ギルドランクによって出品数に制限があるので毎回何を出すか悩むのだ。

 次のオークションは明後日か? 俺たちもギルドを組んだし、一度参加してみても良いかもしれないな。

 その時はこの〈大きな魔宝石・トパーズ〉が出品の第1候補になる。

 いくらで売れるか楽しみだ。


 そんな話をしてみるとハンナは目を輝かせた。


「やった! 装備代が浮いちゃうかも!」


 そこまでは行かないと思うぞ? もしかしてハンナはこの換金アイテムが全部自分の懐に入ると思っているのだろうか? 報酬はちゃんと全員で山分けだからな?


 そんな事を思いつつ、全員のドロップをチェックする。

 〈ビューティフォー現象〉のドロップにしてはまあ普通な内容だったな。

 良い物も多いんだけど、いまいち実用性のある物が少ないせいだろう。

 いつもと比べ、少し物足りない気がした。


 く、お供え物が足りなかったか。

 もしくは〈ビューティフォー現象〉になった事で全ての運を使い果たしてしまったのかも知れない。ドロップ品まで手が回らなかったのかも?


 次はドロップ品まで手が回るように量を置いておこう。

 お肉をたくさん置いておけば〈パーフェクトビューティフォー〉も…。ふはは!




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