第96話 練習場で試し撃ち。これが王女の力よ!




「じゃ、今度こそ試し撃ちに行ってくるわ!」


「ラナ様、お供いたします」


「私も行っていいですか?」


「私も、行きたい」


「なら全員で行きましょう」


 〈エンブレム〉の公開も済んだのでラナたち女性組は練習場に行くみたいだ。


 俺も付いて行って一緒に練習するかな。




 ということで、結局ギルド〈エデン〉はダンジョンが休みだというのに自主練をすることになった。

 全員で練習場まで移動すると、青の刺繍が入った制服や初期装備を着ている学生が多く目に付いた。


「全員同級生だな。授業中か?」


「先生はいるけれど監督だけね。多分皆自主練じゃないかしら」


「では我々も空いている場所でやらせてもらいましょう」


「あ、あっち空いていますよ」


「そうね、行きましょ!」


「ん」


 訓練場の一角が空いていたのでそこに移動する。ちょうど遠距離系の的が多く用意されているエリアだ。

 多分まだ職業ジョブに就いていない一年生が多いため、ここはいているのだろう。


 移動中、かなり多くの視線を集めた。


「おい、あれって」


「うわ。王女様たちだ」


「噂の【勇者】ギルドね。一年きっての最強トップメンバーが揃えられていると聞くわ」


「私たちじゃギルドに加入するのも難しいかなぁ。うう、いいなぁ」


「くそぉ、勇者の奴め。ちょっと顔と身体と装備と職業ジョブが良いからってあんな美少女だらけのギルド作りやがって、羨まけしからん!」


「俺も顔と身体と装備と職業ジョブさえあれば!」


「いや、あんたたちじゃ無理でしょ。下心丸見えだし」


「勇者君ってその辺誠実そうだよね」


「ダメ元で加入希望出してみようかしら。――え、あなたたち誰!? え、ちょ!?」



 概ね嫉妬と羨望を集めているらしい。

 しかしレベル差がはっきりしているため絡んでくる輩はいなさそうだ。

 視界の隅で何やら黒い服の集団が女子学生を取り囲んでいるように見えたが、何かの条件チャレンジだろうか? そんな発現条件、あったかな?


 あと一部からはギルドへの加入希望が届くかもしれない。

 カルアの件で気がついたけど、ギルドを作ったのだしここはリアルだ。ゲームの時と違ってスカウトだけじゃなく、自分からも売り込みに来る人がいるかも知れない。お断りの仕方とかも考えておかないと。


 〈エデン〉はSランクギルドを目指すため、基本的に特殊な「人種」カテゴリー持ちじゃないと加入は断るつもりだ。

 生産職も【錬金術師】のハンナをもう迎えているから、後欲しいのといったら【鍛冶師】くらいのものだが、それも「ドワーフ」を入れたい。一般人カテゴリーの加入は今のところ全部お断りする予定だ。


 まだそういう人物が現れないのは職業ジョブを発現出来た一年生が少ないためだろう。多分。

 カルアも未取得だったしな。5月に入ったら増えるかもしれない。



「ゼフィルス! 始めちゃってもいいかしら!」


 おっと、周りの一年生を気にするあまり身内が疎かになっていたようだ。

 すでに的から20m線の前で準備万端のラナがせかしてくる。

 他のみんなもまずラナの攻撃魔法が見たいようだ。


「おう、悪かった。やっていいぞ。まずは『光の刃』からだな、攻撃魔法の感覚と、方向を意識して忘れないようにするんだ」


「分かったわ。―――『光の刃』!」


 俺の言ったとおり、まず『光の刃』を放つラナ。

 大きさ2mもある巨大な月のような光の刃がラナの手から放たれた。


「ひゃ!?」


 ズドーンッという音を立てて的のやや左手前に着弾。思ったより音と威力が大きかったためかラナが少し悲鳴を上げた。

 『光の刃』は中級魔法だからな。結構威力がでかいんだ。

 ちなみにここ〈練習場〉もアーティファクトを使ったダンジョンの一部なので的や地面など破壊してもしばらくしたら勝手に元に戻る。


「もう一度よ! 今度は当てるわ!」


 ビックリしていたラナもすぐに気を取り直しまた『光の刃』を放つ。

 今度は的の少し右側をかすった。


「惜しかったな。しかし、地面と水平に撃ち出すのは出来ているぞ。後は的を強く意識すればいい。あと目線は的に向けたまま、目を逸らさないように撃ってみな」


 確かハンナの『ファイヤーボール』はこれで上手くいくようになったんだ。

 スポーツなんかでもそうだが、狙った的から目を逸らさない、すごく大事。


「分かったわ。―――『光の刃』!」


 三度目の挑戦。

 ラナの手から放たれた『光の刃』が見事に的を捉えた。


「やったわ!」


「おお。三回目で的に当てるとはやるなラナ」


「お見事ですラナ様」


「ふふん。まあ、ざっとこんなものよね!」


 まぐれかそれとも才能か、たったの三回で的に直撃させてみせたラナが調子に乗る。


「いいぞラナ。その感覚を忘れないようにクールタイムが終わった瞬間撃つようにしてみろ。連打だ」


「まっかせてよ!」


 ラナは命中の才能があったらしく、最初は掠ることの多かった魔法も、撃ち方のコツをつかんでからは一気に命中精度が上がった。マジかよ。


 本来なら次は動く的へとステップアップしていった方が良いのだろうが、まだ始めたばっかりだ。まずはMPが尽きるまで的への精度を高めることに集中させよう。

 そう言うと、途端にラナが不満を口にした。


「えー。もう出来ているじゃない。ここ10発はズレも無く10中よ? 今度は動く的でやりたいわ!」


 いや、俺からすればまだラナに動く的は早いと思うぞ。まずは攻撃魔法というものに慣れさせないとな。新スキルとか新技というものは使い慣れるのに時間が掛かるものだ。慣れない射撃で動く的を狙うとか混乱するだけで身につかない。

 と言ってもラナは納得しないだろう。

 なので、俺は別のアプローチでラナに課題を出すことにした。


「ジャストタイムアタック?」


「そうだ。ラナが攻撃魔法を発動して着弾するまでの時間をまず計り、次にその時間に限りなく近いタイムでまた攻撃を当てる。理想は発動時間から着弾までの時間を完全に把握しコントロールできるようになることだな」


「?? よくわからないわね」


「具体的に言うとだ、魔法を3秒ジャストで的に当てる練習をしてみろ」


「3秒ジャスト?」


 その意外な練習方法にラナが復唱する。

 これは〈ダン活〉で〈ジャストタイムアタック〉と呼ばれていた立派な技術で、今後ギルドがランクアップしていく上で絶対に必要になってくる技だ。

 これをスムーズに、「息をするように3秒ジャストで的に当て続けられるようになればSランク」とまで言われている。当然魔法によってスピードは違うのでプレイヤーは位置取りでジャストタイムを測っていたな。


 それなりに難しい技術だが、この技術を身につけているか否かで今後の難易度が大きく変わるのだからラナには是非身につけてもらいたい。


「魔法のスピードは一定で決まっている。だから3秒でちょうどに着弾する位置取りを調べて練習。次にラナ自身が動きながら的に3秒ジャストに当てるように練習。それが出来るようになって動く的だな」


「むう。聞く限りじゃ簡単なような、難しいような…」


「ま、〈スキル〉〈魔法〉の把握だからな。慣れれば難しくないぞ? まずはやってみな」


「分かったわ。……やれば強く成れるんでしょ?」


「強く、というより勝てるようになりやすくなる技術ってとこだな」


「それ強くなるのとどう違うのよ?」


「そいつは今後のお楽しみだ」


 なんだかんだ言いつつも、ラナは〈学生手帳スマホ〉を片手に〈ジャストタイムアタック〉の練習を始めた。


 その後、ある程度指導するとコツを掴んだようで、すぐに走りながらの3秒アタックも決めてしまった。俺の予想とは裏腹にしてやったみたいな顔をして動く的相手に魔法の練習をするラナを見て、少し頼もしく思った。




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