第38話 ネタジョブ筆頭【筋肉戦士】その2 (三人称)




 筋肉パーティが結成された。


 そんな噂が、俄かに学園中を騒がせているようだ。


 だからどうした、である。




――――――――――




「へぇ。ほな一年生で【筋肉戦士】になった五人がパーティを結成した噂って本当やったんやな。今年の一年生は【勇者】の兄さんといい有望な人材が多いぁ」


「でも、ゼフィルス君が言うには【筋肉戦士】は優良職じゃないそうですよ。あんな職業に本気でなりたいと思うやつはどうかしているって言ってました」


「ほぉ、興味あんなぁ。ハンナはんもっと詳しく聞かせてもらってもええか?」


 〈熱帯の森林ダンジョン〉を初攻略した日の翌朝、予定通りハンナは〈ワッペンシールステッカー〉ギルドに連れてこられた。そのままマリー先輩と会うと、やはり体型ロリが似ているからかあっという間に仲良くなった。

 現在寸法を測りながらおしゃべり中である。

 その間ゼフィルスは他のギルドにコネを作りに出かけたため今は2人きりだ。


 内容は、昨日見た、ゼフィルスが目を細めながら「暑苦しい」って呟いていた【筋肉戦士】5人で結成されたパーティの事だ。


 どうやら、入学式のジョブ計測で5人の【筋肉戦士】取得者が現れたとの事で、その5人がパーティを結成、正式に学園側へ提出したらしいと、学園中の噂になっていた。


 ゼフィルスがこの場にいたら「お前たち全員【筋肉戦士】で行くとか正気か!?」とツッコんだ事だろう。


 しかし、この世界の住民からしたらそんな事はない。

 むしろ最強パーティ結成か!? と羨望の眼差しで見つめられるだろう。

 【勇者】の取得者が現れたとしても、未だ【筋肉戦士】は根強い人気を誇っている。


 現にギルドランクの上位勢には【筋肉戦士】をメンバーに加えているギルドは多い。



「ゼフィルス君が言うには上級職が1ルート、【鋼鉄筋戦士】一択しかなくて、【鋼鉄筋戦士】は【筋肉戦士】の上位互換みたいなものですけど、上級ダンジョン以降との相性が超最悪? らしくって『使えないネタジョブだ』って言っていました」


「ほほぅ。興味深いなぁ。まあ兄さんはどこから得てきたんかえらい博識やからなぁ。そないな話聞いた事もあれへんけど、別に兄さんが嫉妬しているというわけやないやろうしなぁ」


 ハンナの話を聞いてマリー先輩がまず思ったのは、優良職同士の確執。つまりは【筋肉戦士】に対する【勇者】の嫉妬だった。

 しかし、ゼフィルスの性格をこの数日間の接触である程度察しているマリー先輩は「それは無い」かとすぐに捨てた。


「俄かには信じられへんなぁ。あの【筋肉戦士】がネタ扱いとかなぁ」


 実際、【筋肉戦士】はかなり強い、最初だけだが。

 しかし、この世界では上級ダンジョン以降があまり攻略されておらず、【筋肉戦士】の限界をわかってやれる人は皆無だった。故に序盤から中盤に掛けてはトップの座に居座る【筋肉戦士】が非常に魅力的なジョブに見えてしまう現象が起こっていた。

 また【大剣豪】などと違い、取得条件が軽いのも人気の一つだ。


 【大剣豪】の条件は、〈①剣の理解を深める。②【剣士】【大剣士】【双剣士】【ソードマン】【細剣士】【フェンサー】の条件を満たす。③モンスター100匹剣で斬り倒す。〉


 と、かなり面倒だ。それに剣士系のジョブ6つの獲得条件を満たさなければいけないというのがこの世界ではかなり厳しい。

 何しろ普通片手剣使いなら一生片手剣を使い続けるだろうし、大剣を使う人間は双剣を使わない。細剣系なんて真逆の立ち位置だ。大剣使っていた人が細剣使うか? 答えはほぼ否である。逆もほぼ然り。


 というわけで、【大剣豪】の発現条件を知らないこの世界では、ほぼ不可能。

 選ばれた存在だけが成れると認識されていたりする。



 それに対して、【筋肉戦士】の条件は1つ。

 〈①マッチョであれ。〉


 これだけだ。



 つまり鍛えていればいいと。単純明快でこの世界でも発現条件が認知されているため【筋肉戦士マッチョ】に走る人は多い。

 ただ16歳(数え年)までにマッチョに成れるかはその人の体格しだいだが。



「すると、あんまり優遇しすぎるな、ちゅう事かいな?」


「みたいです。ゼフィルス君、今後上級ダンジョンも攻略するって言ってましたから、化けの皮がはがれるって」


「あ~。そらあかんなぁ。今まで大きい顔が出来ていただけに急激に転落したら何起こすか分からんからなぁ。もし上位ギルドの奴が追われでもしたら、うちらみたいな中堅ギルドに無理矢理押し入ってくるやもしれへん。よっしゃ、それじゃ備えはしとくわ。兄さんにはおおきにって言っといてや」


「はーい」


 優遇しすぎると、何かあったときに変に頼られてしまう事がある。今までの付き合いを盾にして無理矢理押し入られ、乗っ取られたギルドも過去にはあったのだ。

 あまり抱き込みすぎるな、ほどほどに付き合ったほうが良い、という忠告だろうとマリー先輩は捉えた。


 それはお得意先である上位ギルドたちから距離を置けという、普通ならとても相手にしないような忠告だったが、半信半疑ながらもマリー先輩はゼフィルスの言う事はなんとなく信用できる気がして備えをしておこうと決めた。



 そして、それとは別に新たに問題も発覚した。


「…採寸、終わったでぇ。もう楽にしてええよ」


「ふう。同じ体勢って結構疲れますね」


「…しかし、ハンナはん。あんたうちと同じくらいの体格かと思ったら結構大きいんやね…」


「ふえ?」


「うちより年下で、うちと同じ身長と腰回りしとるのに、なんで胸と尻はこんなに違うん?」


 マリー先輩がハンナのスリーサイズが書かれたメモを見てワナワナと声を震わせる。


 マリー先輩は完全な幼児体型のロリだ。しかし、

 実はハンナ、結構着やせするタイプだったのである。





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