第22話 〈ダン活〉のリアルゴブリンはダイブする




 〈初心者ダンジョン〉は全5階層で構成されているフィールド型ダンジョンだ。


 一階層に餅型モンスターのモチッコ(なお、スライムみたいなもの)。

 二階層に兎型モンスターのホーンラビット(なお、角は無い)。

 三階層に樹型モンスターのウッド(なお、その場から動けない)。

 四階層に鳥型モンスターのコケッコー(なお、ヒヨコ幼鳥)。


 がそれぞれ出現し、プレイヤーに試練(?)を与えてくる。


 この試練を突破できないものは不合格になり、教員が同伴ではないとダンジョンに挑めないほか、次の初級下位ダンジョンにも挑む資格は無い。


 ぶっちゃけ不合格になる方が難しい難易度だ。


 フィリス先生の指導の下、まったく苦も無く最終階層にたどり着いた俺たちはいよいよボス部屋に突入しようとしていた。


「これがボスの部屋の扉なんですね」


「ええ。ここもそうだけど、すべてのダンジョンは例外なく最終層にはボスしかいないわ。そしてボス部屋の前には必ず扉がある。開けなければボスは出てこないし他にモンスターもポップしないから扉の前が最後の救済場所セーフティエリアになるわ」


 ハンナが真剣にフィリス先生の講義を聞いている。


 俺にとって当たり前の常識でも、ハンナにとっては未知の事ばっかりだ。

 真面目なハンナは一つでも多くの物事を吸収しようと耳を傾けている。



「ゼフィルス君は、何か先生に質問はありますか?」


「そうですね…。フィリス先生彼氏はいらっしゃいますか?」


「……いえ、そういうことではなくダンジョンのことなどについてよ? けれど、ゼフィルス君は予習をとてもよくしてきたみたいだし、先生の質問は無いかしら」


 真面目に応えたら呆れた視線を返されてしまった。


 いやだって、ここに来るまでに聞いたところフィリス先生、なんと新卒で入った先生だというじゃないか、つまりまだ19歳!


 19歳美人教師!


 彼氏の有無って気になるでしょ、一般の青少年にとって気にならないわけ無いでしょう!


 これ100人中100人が頷くと思うんだけどさ。


 ふむ。フィリス先生はどうやらその辺の認識は甘いご様子だ。

 これは俺がしっかり、手取り足取り説明しなくては。


 と考えてると、突然『直感』が発動した。


「ゼフィルス君?」


「! は、ハンナ。どうした?」


 何故ハンナに名前を呼ばれただけでこんなにドキドキしてるのだろうか。


 背中に冷たいものが流れた、気がした。いや気のせいかもしれない。


 そうだ。俺はなんらやましい事なんて無いので堂々とハンナに向かい合った。


「先生に失礼だよね?」


「はい。すみませんでした」


 惨敗か。ハンナの迫力に負けて思わず頭を下げてしまった。

 ハンナ、その光が無くなった目、すごく怖いのでやめてもらえません?


 なんかスライムキラーになってからハンナの迫力がマシマシなんだけど。



「さ、さて。冗談はここまでにしよう。お楽しみのボス攻略の時間だ」


「冗談だったの?」


「ははは、おかげで緊張もなくなったんじゃないか?」


「え? うーん、そうかも?」


 モチッコの後から緊張感なんて欠片も無かった気がするが、俺は冗談という事で押し通し、無理矢理ボス攻略に意識を持っていく。ハンナはチョロかった。

 少し強引だったがハンナの目に光が戻ったので問題ない。

 息をつかせぬまま作戦会議を行う。


「さて、最後のボスはただの、普通のゴブリンだ。数も1匹しか出ない」


 〈初心者ダンジョン〉のラストボスは無手のゴブリンだ。

 俺たち〈ダン活〉プレイヤーはただゴブリンと呼んでいた。


 ストーリーでは、モンスター討伐に慣れ、最後人型モンスターを倒すことでダンジョンの適性試験が終了する。そんな流れだった。


 まあ正直ゴブリン相手なんて戦闘職じゃなかろうと、STRに1Pも振っていなかろうと勝てる難易度であるため、【勇者】の俺の敵ではない。

 というかSTR65相当にショートソードが有れば通常攻撃でワンキル出来るザコだ。


 ぶっちゃけるとボス部屋にいるだけで実際ボスモンスターじゃないからな。

 だってただゴブリンだし。

 初級中位ダンジョン一層からのリクルートだから。



 ハンナは、まあ倒せるだろうが一人だとダメージはかなり食らうと思う。


 なので初めて俺は『アピール』を使うことを提案。

 俺がタンクしているうちにハンナの合格基準を満たしてもらって、後は俺が片付ければ良いだろう。


「ダンジョンは初級下位ダンジョンからが本番だ。ゴブリン一匹戸惑うようじゃ合格はできないぜ?」


「うん。がんばるよ」


「ハンナさんはこれまでのダンジョン攻略ですでに合格基準をほぼ満たしています。後はゴブリン相手に恐れず攻撃が出来れば達成できるでしょう」


「おお、聞いたかハンナ」


「うん。簡単にいきそうね」


 改めて気合を入れ、愛用の両手メイスを担ぐハンナ。


 それを確認して準備完了と判断した俺は、ゆっくり扉を開いていく。


 扉の中は建物内に通じている。先ほどまでのフィールド型ではない。

 文字通り、ボス部屋だ。


 中には暗い緑色の体色をした俺の腰くらいの身長のただゴブリンがいた。

 俺らがボス部屋に入った瞬間から歯をむいて威嚇している。


「じゃあ、作戦通りに、『アピール』!」


 俺が『アピール』を使い人差し指を高らかに上げてシャキンとポーズをキメると、俺を中心に薄い青色のエフェクトがドーム状に広がった。

 そのエフェクトの一部がゴブリンに触れた瞬間、奴の視線が俺に向く。


「ゴッブ!」


「はいよー、鬼さんこちらってね」


 左手のバックラーを構えて前に出ると、激昂したゴブリンが跳びかかってきた。

 やっべ! ル○ンダイブだ!


 キモかったので速攻横に避けると、そのままベチャリと落下した。

 そこはちょうどハンナの目の前だった。


「隙ありー!」


 肩に担ぐように振りかぶっていた両手メイスをそのままハンナが振り下ろす。


 おお! 見事なタイミング。見事な一撃だ。


 ベチャリ。と鈍い音が響いた。


 頭に直撃したゴブリンがビクンビクン震えている。


 視るに耐えない光景だった。

 誰かモザイクください。

 冗談だ。ただダウンしただけだ。


 これでハンナは合格基準を満たしたはずなので、俺も続いて剣を振り下ろす。

 ザシュッ! うん。良い一撃が入った。でもハンナには及ばない。

 ハンナ、武器振り下ろすの上手すぎない?


「ゴ、ゴブゥ……」


 ビクンビクンしたあとゴブリンのHPが0となり、ゴブリンはエフェクトを残して消えた。

 これにてボス戦も無事勝利に終わったのだった。


 あ、『勇者の剣ブレイブスラッシュ』使ってねえ!




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