第3話 手始めにサブクエストを進めよう




「武器屋のおっちゃーん忘れ物の弁当届けに来たぜー」


「おう、ゼフィルスじゃねえか、悪いなうっかりしてた」


 ジョブ発現条件をこなす事をまず第一目標にした俺が最初にした事は、武器屋のおっちゃんが忘れた弁当を届けることだった。


 四角い顔面がんめんをしたいかにもな厳ついおっさんの癖に俺の渡した弁当箱は花柄の袋に入っていた可愛らしいサイズだった。マジ似合わねー。

 まあ依頼人はおっちゃんの奥さんだったので愛妻弁当ってやつだろう。

 ちょっと羨ましい。


 幸せそうな顔をして弁当を受け取るおっちゃんの次のアクションに期待する。


「そういやゼフィルスはもう16だったか? 学園には行くんだろう?」


「ああ、明日出発の予定だ」


「明日かよ! ずいぶん急だなって…、そういやそろそろそんな季節だったっけか?」


 武器屋のおっちゃんが頭に手を当てて唸りながら一人で納得し、棚の下から風呂敷に包まれた長いものを取り出した。


「だったら餞別だ。俺が昔使っていた剣だがまだまだ現役だ。持っていくといい」


 おっちゃんが風呂敷を取るとシンプルな片手長剣が顔を出した。


 そう、俺がサブクエスト〈忘れたお弁当を届けよう〉を開始したのは報酬のこの剣が欲しかったからだ。


 思ったとおりの展開ににっこり笑顔で剣を受け取る。


「さんきゅーおっちゃん。すごく助かるぜ、この剣でモンスターをバッタバッタ倒してくるわ」


「おう、いいってことよ。その代わりうちの宣伝も頼むな!」


「あはは、了解。そうだ、他に何かおつかいとかないか? 今村の皆にあいさつ回りしているからついでに持っていくぜ?」


「お、じゃあついでにこれを防具屋の店主に持っていってくれ、ちょっと今は店を離れられなくて困ってたんだ」


「あいよ、まかされたわ」


 武器屋のおっちゃんが棚から小包を取り出してきたので受け取る。

 それと同時に脳内にアナウンスが流れた。


『サブクエスト〈忘れたお弁当を届けよう〉をクリアしました』

『報酬:ショートソードを獲得しました』

『サブクエスト〈防具屋へ小包を届けよう〉を受注しました』


 うまくサブクエストを受注できたことを内心ほくそ笑みながら武器屋を後にする。



 今俺がこなしているのは〈ダン活〉でも序盤の挨拶クエストの一部だ。

 ゲームではチュートリアル的な位置づけで、村人に挨拶を交わしながら村全体を行き来し、村に発生しているサブクエスト10箇所のうち3箇所をクリアする事でストーリーが進む展開だった。


 ここがゲームの世界だというのならまずはストーリーを進め、学園に入学してジョブを取ることが課題になるだろう。


 ということで俺は今サブクエストを進めている。

 小包を持ったまま防具屋に向かうが道順などはゲーム時代と変わらないため迷うことも無い。

 いやあゲーム画面でしか見たことがなかった風景が目の前の現実にあるって新鮮!


 感動している間に防具屋に着いたので入店しクエストをこなす。


「防具屋のおっちゃーんお届け物でーす!」


『サブクエスト〈防具屋へ小包を届けよう〉をクリアしました』

『報酬:バックラーを獲得しました』


「よしよし、剣と盾が揃ったな。次行ってみよー」


 依然として高いテンションを維持しながら次に行くのは村はずれの森の中。

 サブクエストは全部村で発生しているのに村の外へ何の用かというと、ここで隠しクエストが発生するからだと答える。


 〈ダン活〉を進める上で最も重要なイベントの一つがここで発生する隠しイベントなのだ。

 隠しイベントをクリアするとジョブの選択肢が増える。


 このゲーム〈ダン活〉では頭がおかしいほど職業ジョブの種類があるが、じゃあ最初からなんでも好きな職業ジョブに成れるのかというと答えはノーだ。


 職業ジョブを得るにはいくつか発現条件というものがある。

 例えば「剣を持っていて一定の技術がある」なら【剣士】のジョブが選べるようになるし、「動物と親和性が高い」なら【獣魔使い】が選べるようになる。

 そしてこういうジョブ獲得条件はクエストやサブクエスト、選択肢などをこなす事で満たすことができる仕様だった。


 例えば「剣の戦闘訓練」というサブクエストをこなせば「剣を持っていて一定の技術がある」の条件をクリアした者とみなされるわけだ。

 何故こんな回りくどい条件なのかというと、獲得条件のサブクエストが無数にあるためだ。覚えているだけで【剣士】を満たすクエストや選択肢は200以上あったと記憶している。


 俺が今から行く隠しクエストもそんなジョブ獲得条件の一つだ。

 当初〈ダン活〉を初めてプレイしたときは隠されていたから最初分からずに進めてしまい、詰んで選択できなくなって泣きをみたんだよな。

 懐かしい記憶だ。

 それ以来はじめからをプレイするときは必ずこのクエストだけはこなすようにしていた。

 隠しなだけあってレア職の条件がてんこ盛りの美味しいイベクエ。

 ここで逃すことは無い。


 さて森に入ってそこそこ奥に来た。

 そろそろかな?

 と思ったところで森の奥から甲高い悲鳴が鳴り響いた。


「キャーーーーッ!!」


 よっしゃ。クエスト発生だ!

 俺は意気揚々と悲鳴の下へ走り出した。




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