入学式とお友達と部活
暇すぎて逆に苦しかった休みも終わり、大学の入学式の日がやってきた。暇すぎてつらいなんて思わない程忙しい大学生活がこれから始まろうとしている事実に、私は少しだけ胸が高鳴っていた。
初めては誰にでもあるし、緊張するものだ。でもそれは初めてだからこその緊張だけでなく、これから始まる新しい何かに期待しているがために胸が高鳴るんだと思う。
大学の入学式にお父さんとお母さんは来ないことになっていた。一人でやらなきゃという実感を改めて感じ、気合を入れるために頬を叩く。
「気合十分、今日も頑張るぞ」
入学式では一体どんな話が行われるのだろうか。きっと大学なのだから特別なことがあるに違いない。本当に一人で大丈夫なの? という不安を拭うことはできないが、それでもやってみれば案外どうにかなるかもしれない。最初のスタートだし気合を入れて頑張ろう。
……なんて思っていた時期もありました。
午後一から行われた入学式はあっさりと終わった。ぶっちゃけ、大学だから特別なことがあるのだろうと思っていた自分が恥ずかしくなるぐらいに何もなかった。本当に普通だった。誰だよ、大学だから特別なことがあるって言った奴。大学に夢見過ぎだよ。馬鹿じゃないの。はい、その馬鹿は私でした……。
「はあ、なんか気合入れてきた私が馬鹿みたい。えっとこれからの予定はーー」
事前にいただいていた資料を鞄から取り出しながら入学式の会場であった体育館から外に出た。
外は活気にあふれていた。部活の勧誘だ。次の予定があるにしても間にはそれなりの時間が設定されている。それに部活側もキッチリとした勧誘というわけではなく、ビラを配って自分たちの部活を知ってもらおうとしているみたいだ。
「モノづくり研をよろしく。興味あったら見に来てね」
とある女性が私にビラを押し付けてきた。男性ばかりの中で女性が積極的に配っている姿が何だか珍しく感じた。
ちなみに、私の通う大学のキャンパスは工学部系統なので、ほとんどが男子である。男女比も男子側が多く、極端に偏っているが、別に不正があるわけでもない。元々女子に人気がない大学なのだ。女子がいたとしても、建築系か工業デザイン系の学科が多く、機械科や電気電子工学科の女子はかなり少ない。ちなみに、私は電気電子工学科である。
文系の大学を志望していたが落ちてしまい、滑り止めというかなんというか、ギリギリでこの大学に入学できた感じだった。
まあ、別にいいんだけど。両親は大学さえいければそれでいいと言っていたし、最悪大学院へ進む際に別の大学へと進む道もある。
まあともかく、工業系かつ元々人気のない大学であるため、女子の比率は少なく、部活動を行っている人たちも男性が多い。だからだろうか。モノづくり研という部活のビラを配っている人達が女子ばっかりだったのがとても目立っていた。ただ彼女たち、女子にばかりビラを配っているように見え、男子には声をかけることすらしていなかった。なんか変な部活、と思いながら私は迫りくる部活のビラ配りを潜り抜け、次の目的地に向かった。
とりあえず教室に着いたので、資料をもらって席に座る。人の集まりが悪いというか、きっと間の時間がそこそこあったので校内を見学している奴らもいるのだろう。私はそういうの後でもいいかなと思ったので先に教室に来てしまったけど、さてどうやって暇をつぶそうか。そう思った時に先ほどもらったビラを思い出して机の上に広げた。
様々なビラをもらった。美術部、コミックイラスト研究部、模擬国連サークル、コンピューター部、車両制作研究部、そしてモノづくり研究部だ。美術部とコミックイラスト研究部のビラはなんというか、さすがとしか言いようがない出来栄えだった。美術部はかなり凝ったデザインのビラで、コミックイラスト研究部は可愛らしいキャラクターが部活について紹介してくれるようなビラだった。どちらもとても分かりやすい。
ほかの部活もそれぞれの特色がにじみ出ているかのように個性豊かなモノばかりだ。個性という一点を見ると、やばいのがモノづくり研究部だろう。
なんというか、カオス……という表現が正しいかもしれない。説明なんてものは描かれてなく、なんかきも可愛い? いや純粋に気持ち悪いだけの誰が作ったか分からないキャラクターが掲示板みたいなものを指差している。その掲示板みたいなところには、なんか昔のドラマで犯行予告として出てきたような書き方で、【も・の・づ・く・り】と書かれていた。
あ、はい、モノづくりをする部活なんですね。名前そのまんまやん。ほかに紹介するべきところがあると思うんだけど。それにどうしてこのビラで人が集まると思ったのか、ちょっとふしぎだった。
モノづくり研究部のビラがとても不思議に見えたのでよく見ると、隅っこに小さく【男子禁制】という文字が書かれていた。ちなみにこの大学、大半が男子である。ほとんど入部できなくない? そんなんで部活が成り立つのという疑問が出てくるのだ……。
そんな考え事をしていると、隣からドサッという音が聞こえたのでびっくりして顔を上げた。
「えっと、隣空いてるかな?」
「あ、はい。空いてますよ」
私の隣に座ったのは、ちょっとおしゃれな女の子。ちょっと姫っぽい。なんか高校の時にちやほやされていたような雰囲気が見た目からうかがえた。
「私は
ナチュラルに自己紹介された。この人、すごくコミュニケーション能力が高そうだ。私にはないスキルなので若干羨ましい。
急な展開だったので口ごもってしまったが、何とか自己紹介をする。
「私は綾瀬 陽菜。陽菜って呼んでください。その、よろしく」
「陽菜、ね。同い年だしそんなにかしこまんなくていいよ。こちらこそよろしく。それにしてもよかった」
「よかったって?」
「ん? いやね、すごい普通な子が同じ学年の女子でよかったなって。電気電子工学科の女子、今年は二人しかいないんだよね」
ここに来て知った衝撃的事実。そ、そうなんだ。もう少し女子がいると思っていたよ。
工学部の女子は少ないと聞いていたがここまで少ないとは思ってもいなかった。まじかー。でもある意味で納得はしていた。この大学自体はそこまで有名な場所じゃない。工業高校の先生になっている人は多いらしいけどね。でも有名度というかランキング的に言ったら下から見たほうがいいぐらいの大学だ。しょうがないと言えばしょうがないだろう。
「ねえ、陽菜って高校なに科だった? 私は総合高校の電子機械科だったのよ。エンジンだって実際にいじくったことあるわよ」
「な、なんかすごいね。面白みなくて悪いけど私は普通科よ」
「普通科! だったら勉強に困ったときに教えてよ。正直、勉強自信ないんだよね」
琴羽が通っていた電子機械科では普通科で習う数学の半分以下ぐらいのことしかやっていないらしい。その代わり専門的な分野、例えば電子情報基礎や原動機などの工学系の理論などについてはめちゃくちゃ詳しくなったとかなんとか。
彼女はモノづくりが好きというか実験が好きらしいく、仮説を立てて実験をして理論を作っていくのが趣味という変わった女子だった。んで、使いたい機材などを家で使わしてもらえないので工学科の高校に進んでいったんだと。やばい、ガチ勢……。
理論とかモノづくりオタクなのは分かったけどもっと上の大学を目指せたのでは? 私みたいに志望校に落ちた感じなのだろうか。
「いやー、私自分の好きなことばっかやっていたせいで基礎ができなくてねー。ほかの大学いけなかったんだよ」
「え、なんか心読まれた!」
「なんか顔に出てた。それよりも手に持っているそれ、ちょっと面白そうと思わない?」
手に持っていると言われて視線を落とすと、先ほどまで見ていたモノづくり研究部のビラだった。いや、これを見て面白そうと思う神経もどうかと思うけど。これ、面白そうかな?
「モノづくりってだけで楽しそうな雰囲気をビシビシ感じるよね。それにほらここ。よく見て」
琴羽が指差したのはキャラクターっぽい何かの服だった。そこには四角が変に並べているけど、それで言って美しい模様が描かれていた。
「フラクタル構造を意識した服のデザインをするとか、やばいよね」
「え、フラクタル? 何それ……」
「フラクタル知らないの! まあ普通は知らないよね。今の私のトレンドはカオスとフラクタルなんだ。だからフラクタル構造を服のデザインにしているこのキャラがすごく良くてね。それで部活が気になって仕方ないんだよ」
フラクタル? カオス? 混沌のこと? もしかして、琴羽って中二病? でもカオスって何かで聞いたような……。そう、あの恐竜が出てくるパークな映画で説明があった気がする……うーん。私この大学でやっていけるのだろうか。めっちゃ不安。
「ねえ陽菜。このガイダンスが終わったらさ、部活見に行かない。きっと誰かいるよ」
「え、べ、別にいいけど。あ、そろそろ始まるみたいね」
「とりあえず、ガイダンス聞こうか」
なんとなくだけど、琴羽とは長い付き合いになりそうな気がした。琴羽の言っていることが途中から分からなくなったけど、大丈夫よね。私、大学で勉強付いていけなくなるとかないよねと思ったけど、ガイダンスを聞いていたらそうでもないように思えた。むしろそこそこ簡単かもしれない。ただ、単位制で高校とは違って自由度が高いので最初は大変だろうなと思った。
授業の予定表を開き、必修科目と気になる選択授業をちらっと見ながら気になる授業に丸を付けていく。とりあえず気になるタイトルで決めていく方針だ。詳細は後で見よう。
なんてことをしているとガイダンスも終わった。気が付けばあっという間だった。今日はもうやることがないので後は帰るだけ。
「陽菜、さっそく部活を見に行こう。思ったら即行動!」
「え、もう行くの。というかこの格好で?」
入学式の後にガイダンスを行ったので、今の私たちは正装だ。部活関連を見に行く恰好じゃない。高校の時は制服でよかったけど大学は私服なんだよね。ファッションセンスが問われそうで少し嫌だな。
「恰好なんて別にどうでもいいんだよ。それよりも見に行くことが大事」
「はあ、しょうがないな。今日だけ、特別だよ?」
こういう押しに弱い私は琴羽に言われるがままについていくことにした。そして後悔することになる。というか、大学の部活がこんなにも恐ろしいところだと思わなかった。
部活棟と呼ばれる場所がガイダンスを受けた場所からそれなりに離れているところにあった。この学校、結構広くて疲れる。それに地図を見ると電気電子工学科の建物って奥の方なんだよね。部活棟が近いのは良いけど、専門の授業を受けるという意味では、ちょっとめんどくさい。
「ほら、早く行こう」
「ねえ、本当に入っても大丈夫なの? いきなりで迷惑にならないかな?」
「もう、陽菜は心配性だな。なら部活棟の中をちょっとのぞくだけにしよう」
「分かった、とりあえずそっと覗いて……」
私と琴羽が部活棟の中を覗くと……高校ではありえない光景が見えてしまった。
「はぁ~~~~、あ、それロン」
「っち、マジかよ。ああ、もう。また負けたじゃねえか」
「それにしても、あいつら遅いな」
なんとたばこを吸いながら、いかにもといった感じの人達が麻雀をしていたのだ。え、何ここ。すごく怖いんですけど……。
「ねえ琴羽。今日は出直さない? あそこの人達に絡まれるの凄く怖いんだけど」
「私も同感。多分来る場所間違えたんだと思う。また今度にしよう」
私たちはばれないようにそっとその場を立ち去った。部活棟こわ! にしてもあの部活、一体何部なんだろう……。
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