特にすることがないので映画でも行ってみた
さて、一人暮らしを始めてから数日が経った。入学式まではまだ数日残っている。
一人暮らしってもっと大変なイメージがあったし、ネットで家事は大変だから舐めない方がいいというコメントをよく見たのでびくびくしていたが、案外そうでもなかった。むしろ簡単と言ってもいいかもしれない。
ネットで大変だと言われている家事は、家庭を持つ親の視点で見た場合の発言だ。確かに、一人で家族全員の洗濯を行い、広い家を掃除し、家族全員のおなかと舌を満たす料理を作るために買い物を行うのはとても大変だろう。それなのに作った料理に対して文句を言われた日にはイラっとしてしまうのもしょうがない。それを毎日やらなければ家が回らなくなってしまうのだから、とてもない変なことであることは間違いないと思う。
その点一人暮らしである私は、家も小さく、一人分の洗濯で済み、買い物もそこまで消費しないので結構楽だ。
本当にものすごく家事が大変なのであれば学業と暮らしの両立なんてできるわけがないし、一人暮をするなんて不可能という話になってしまう。世の中一人暮らししている人なんていっぱいいるので不可能なんてことはないもんね。ビビッて損した。
すごく大変だと思っていた家事が思っていたほど大変でなかったため、私は暇を持て余していた。
バイトの面接も受けてあっさりと決まったけど、仕事は4月からにしてほしいと言われてしまった。
決まったバイト先は自営業的な町のラーメン屋さん場所だった。時間によっては全然人が来ない場所である。それでも時給はかなり良かったので聞いてみたらあっさりと決まってしまったのだ。
ただ、そんなに人がいらないようで、3月末にやめるバイトと入れ替わりで入ってほしいとのことだった。
別にそれでもかまわないので了承したが、それによってさらに暇な時間ができてしまったというわけだ。
つまり、家のことを一通りやり終えてしまってとても暇なのである。この暇な時間を潰したいのだが、やりたいことが思いつかず、時計の秒針が進む音を聞きながら、窓から見える雲の動きをじっと見ていた。時間がとても長く感じる。どうして私はこんなことをしているのだろう。
「……暇だ」
思わずつぶやいてしまうが、だからどうしたという状況なので何かが変わることなんてない。まさか、暇が私に攻撃を仕掛けているのではないだろうか。暇が私を堕落させてダメな大学生にしようとしているのではないのだろうか!
そう思うと、この暇をどうにかしなければならないような気がした。
「よし、映画でも見に行こう」
時間が一番潰せそうなのはテレビなどの動画を見ることだけど、動画で最も長いのは映画だ。それに映画館で見る映画にはテレビにはない迫力がある。
思ったら即行動に移すことにした。バイト始まってないのでお金が少し心配だけど、お父さんとお母さんがその辺少し余裕を持たせてくれているのと、今までお小遣いをかなり貯めてきたので割と余裕があった。今の手持ちなら、映画一本ぐらいで私の一人暮らしは揺るがない。
さて、映画館はどこにあるだろうとスマフォを取り出して検索する。最も近い映画館は、なんと3つ隣の駅だった。割と遠い。いや、これは近いと思うべきだろう。私が住んでいた実家付近には自転車で15分ちょっとのところに映画館があった。それと同じで考えてしまってはダメだろう。映画館も同じ場所にぽんぽんとあるわけではないし、映画館同士もそれなりに距離がある、と思う。
3つ先の駅がなんぼのもんじゃいと気合を入れて私は家を出た。
そして3つ先の駅へ向かうべく電車に乗り込む。人が全然いないけど、10分に1本ほど電車が出ている。都会だと感動してTwitterに感動したという旨の投稿をしたら、馬鹿にしたようなリプが来たのですぐに閉じた。そんなに馬鹿にしなくてもいいじゃない……。
電車に揺られながら目的地である3つ先の駅にたどり着く。映画館は駅から少し歩いた場所にあるのだが、道がごちゃごちゃしてよく分からなかった。
道に迷いながら、Google mapの指示に従い、何とかして映画館にたどり着いた。
いや、大通りから一本外れた場所にあるってことは地図で分かったけど、建物に隠れて映画館の建物がどれだか分からなかったわ。もうちょっとわかりやすいと助かるんだけどと内心思ったが、それを言ってどうなるわけでもないので諦めた。帰りは、Google map様が助けてくれるから大丈夫だろう。
映画館に入って、今上映している映画を確認する。時間的にすぐ見れるのはSkypeのようなビデオ通話が常時展開されている状態でストーリーが進んでいくミステリーのような映画だった。これ、ドラマで似たようなものを見たことが……と思ったけど、こちらの方が古く、この映画館でやっているのは昔公開された映画の再放映らしい。
チケットを買った後、キャラメル味のポップコーンとコーラーを買いに行き、目的の映画が放映される6番スクリーンと書かれたと扉の中に入る。奥の席でカップルがイチャイチャしているのが目に映ってイラっとした。何映画の暗がりで乳繰り合ってんだよ、素直に映画楽しもうとしろよと心の中で文句を言うが口にはしない。彼氏がいない女の僻みのようでみっともないと思ったので、黙って席に座る。
乳繰り合う男女の席が思ったよりも近く、声が聞こえてきて正直うざい。足を伸ばしているのか、私の少し横の方から足が見える。なんで映画を見に来てイライラしているんだろうと思いながら、私はドリンクとポップコーンをセットした。
映画の予告編を眺めながら買ってきたポップコーンを適当に掴みぽりぽりと食べる。甘い。
キャラメルポップコーンの甘味がとても好き。けど私の周りって塩派が多くてキャラメルポップコーンはあまり人気がなかった。けど、こうやって一人で食べるためにポップコーンを買ったので好きなものが選べている。こうやって好きなものを買って映画を楽しむのも一人映画の醍醐味だと思う。
だというのに、今日の一人映画館は最悪だった。
「ねえねえあれ見て。一人で来てる。ウケる」
「だよな。ボッチとかうわ、寂しい奴」
なんかこっちを見て言われているような気がしたが、私は聞こえていないフリをした。というか気にしたら負けな気がした。
「ねえちょっと見て、あの人プルプル震えてる。チョーウケる」
ぜ、絶対に気にしない……。
後ろの声に気をとられていると、映画の予告が終わってホール全体が暗くなる。そして映画が始まった。映画が放映中でも後ろのバカップルはイチャイチャしていたようだが、映画の音が大きいため、後ろはあまり気にならなくなった。
映画自体はそこそこ面白く、コーラを啜りながらポップコーンを食べて、この先がどうなっていくのかを予測しながら満足の行く時間を楽しむことができた。
あっという間になくなったポップコーンの容器に手を突っ込んでないことを再確認したり、氷が微妙に溶けて水っぽいコーラを飲みながら映画のクライマックスを楽しんだ。
ちょっと前に放送していたチャット形式で進むドラマとこの映画、内容がとても近いものだった。年数的には映画の方が早かったので、日本のドラマがパクったんだなと推測するが、面白さ的にはこちらの映画の方がよかったと思う。普通に面白かった。
映画が終わったので外に出ると、外がいい感じに暗くなってきていた。背をぐっと伸ばしてじっとしていて凝り固まった肩をほぐして駅に向かって足を進める。映画はとてもいい暇つぶしになった。
最寄りの駅に着いた時にせっかくだから買い物も済ませようとスーパーによってから家に帰った。
家に着いたらサクッとやることを済ませて、すぐにベットで横になる。そして今日みた映画のことを思い出した。
それにしても今日見た映画は結構面白かった。最初は全く意味が分からなかったし、このチャット的な画面がすぐに切り替わって本編がはじまるのだろうと思ったけど、まさかあのまま進むとは、というのが最初の印象。でも話が進むにつれて見えてくる裏の存在や、銃社会と言われてもいいぐらいに銃が浸透しているアメリカやイギリスが舞台なだけあって日本ではないだろう展開もあった。
こうやって映画に浸る時間も楽しみの一つなのだと思いながらふとカレンダーを見ると、まだ休みがあることを思い知らされる。
「はあ……後の休み、どうしよう」
まだ休みがある、ということは暇な時間がまだまだあるわけで、このどうしようもない暇をつぶすためにいろいろと頑張らなくてはならない。
まさか、休みで憂鬱な気分になるとは思わなかった。
カレンダーを眺め、早く学校がはじまらないかなーと思いながら残りの日数を繰り返し数えるのだった。
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