第84話 驚き桃の木新学期
俺の名前は日南太陽。
物心付いた頃から女難にまみれた俺は、大学入学を機に東京から本州最北端青森県、ここ黒前市にやって来た。
小学校。
中学校。
高校。
三者三様の仕打ちは、当時の俺にとってはかなりの痛手だった。
もちろん黒前大学の評判が進学の理由ではあったけど、女性達に植え付けられたトラウマの記憶を一掃したいという思いもあった。
女性に関わらない。
そんな決意を元に入学式へ挑んだ訳だが……
隣の席に居た、顔も容姿もドストライクな女神様との出会いで、そんな決意は1日も持たなかった。
宮原千那。
見た目だけじゃなく、その内面にさえ惹かれるとは思いもしなかったよ。
ふとした会話で、なぜか会話が弾み……
疑う心を知ってか知らずか、あっと言う間に友達が出来き……
入る予定もなかったサークルに入部する。
まぁ、自分の姉達と千那のお兄さんらが知り合いだってのもあったけど。
想像していたものとは、なにもかもが違う大学生活。
ただ、知らず知らずの内に……心の底から楽しむ自分が居た。
正直、皆が居たからこそ……過去のトラウマ三銃士が揃いも揃ってここ黒前に集結した事実を乗り越えられた気がする。
大学の友達らと過ごす何気ない日々。
地域のお祭りにはしゃいだ夏。
走りに走った文化祭。
いつもと違ったクリスマス。
千那が告白された光景を目の当たりにして……気が付いた千那への好意。
色々あったけど、結局誰とも付き合った事がないと知った時は、やっぱり嬉しかったよ。
そんなこんなで、どうやって千那の心を振り向かせようか。そんな新たな目標を掲げ、スタートした新学期。
ごく普通に隣同士で歩き、ごく普通に会話が出来る。何気なくご飯にも行ける。
そんな関係は、俺にとって幸せな時間でもあった。
そして、今日も例に漏れず……ご飯に行こう。そう思っていたんだ。そう……
「好きです! 大好きです! 私と……付き合って下さい!!」
彼女が現れるまでは。
……えぇ?
その突然の言葉に、理解が追い付かない。
そもそも誰だ?
そもそもなぜこのタイミング?
そもそもなぜ大学の正門前?
そもそも……初っ端で告白?
ただ、夕日をバックにそう高々に発した女の子。その表情は……どうもふざけているようには見えない。
「えっ……と……」
どっ、どうする!? まず、状況整理だ。
オリエンテーションが終わって、サークルも終わったから千那と2人でご飯を食べに行こうとした。
するといきなり名前を呼ばれた。
肩ほどの長さで少しウェーブがかった髪の毛。目は大きく、鼻立ちもスッキリしている。
可愛いに違いはない。ただ、俺の脳みその中を調べつくしても、この女の子の記憶はない。
けど、俺の名前を知っているという事は……確かに合った事があるのか? 俺が忘れてる?
そもそも、言葉も標準語。ここ特有の鈍りを感じられない。
だとしたら……東京? いつ会った? 分からないな。となれば、正直に聞くしかないだろう。
「はっ! すいません! こんな公然の場で……」
「まっ、まぁそうだね。それと……ごめん。俺と君って何処かで……」
「あっ……そうですよね? 覚えていないのも無理はないです。私、中高の時は存在感なかったですもん」
中高? 後輩か? けど……だったら顔は知っててもおかしくはないぞ? 自慢じゃないけど記憶力は良い方だし……って! そもそも隣に千那いるんだった! いらぬ疑惑を掛けない様に、適度に対応してややり過ごそう。
「中高……?」
「はい。日南先輩は覚えてなくても、私は覚えてます」
やっぱり……名前をしっかり言ってる。じゃあ俺が忘れてるだけか? 失礼かもしれないけど……聞いてみるか。
「ごっ、ごめんね? じゃあさ教えてくれるかな? お名前」
「もっ、もちろんです! 日南先輩にだったらいくらでもお話しますっ!」
おっ……おう……
「それでは改めまして……こんにちわ。そしてお久しぶりです。清廉学園中等部、高等部を経て、ここ黒前大学へ来ました」
「
日城……凜恋……?
……はっ!!!
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