第44話 夏と言えば
宮原千那。
明るくて、人と話すのに躊躇がない。それでいてコミュニケーション能力が高く、集団の中に居れば、自然と中心になる人物。
鷹野達の話を聞く限り、昔からこういう性格だったみたいだけど……ここ数ヶ月でそれは確証に変わる。
それに真也ちゃんの言っていた、
人の評価でその人の事を決めない。
その意味も何となく分かる。
俺が立花との関係を言った時の、
『だって私が知ってる日南太陽は、入学式から今まで見て来た日南太陽なんだもん。ちょっと控え気味だけど、意外とノリが良くて、結構冗談なんかも口ずさむ……そんな男の人。それ以上でもそれ以下でもないんだよ?』
って言葉がそれを物語っていた。
良い意味でも悪い意味でも、彼女は彼女が感じたままにその人を見ている。
俺としては、信じられない気持ちもある。自分に自信が持てないってのもあるし、そこまで親しくない人の事なんて又聞きで聞く事の方が多い。
だが、彼女は違うらしい。
自分に自信があるから出来る事なのかもしれない。そうとも思えるけど……そればっかりは本人しか分からない。
けど、とりあえずはそんな彼女に救われたのかもしれない。立花との件にしても、澄川の件にしても……
話途中に終わった澄川の事。
ご飯を食べてる最中は、それこそお互いの頼んだものについての感想合戦。内心、いや……これ絶対澄川の話忘れてるよな。なんて思っていたけど、食後のデザートが来るなり、
『このミニパフェも美味しそっ! それで?』
『えっ?』
『えっ? って……澄川さんの事だよ? 何か言おうとしてたでしょ?』
ちゃんと覚えてくれてたんだ。
それで俺は、澄川との事も話した。
実は知り合いだったらしい。最初はあの出来事については触れないで、俺が知らなかっただけ……とかそれとなく色々考えてみたけどさ? 曖昧に話すと宮原さんの事だ。逆に俺と澄川の中に入って、何とかしようって動きそうな気がして……全部話した。
話を聞いてる最中は、さっきの立花の時より驚いてたっけ?
『なるほどねぇ……小学校の時とは言え、記憶には残ってるよね?』
俺の話を全部信じてくれるとは思わなかった。けど、その言葉は……誰かに共感してもらえるのは嬉しかった。
それにさ? 夏休み明けとか気まずくならないか? そんな不安もあったんだけど、そこは……やっぱり宮原さん。
少しもブレる事がなかった。
『でもね? 日南君? さっき言った通り、私の知る日南君は今の日南君。つまり、私の知ってる澄川さんも、入学してから今までの澄川さんなんだよ?』
『そうだな』
『日南君が澄川さんに対して快く思ってないのは分かるよ? けど、私が知ってるのはちょっと遠慮しがちだけど、笑顔が可愛い澄川燈子。だから今まで通り……友達の関係は続けるね?』
俺の気持ちも理解はする。けど、今まで通りの付き合いをしていく。
それは俺にとって何ともありがたいものだった。でもそれと同時に、俺の気持ちを知りつつその相手と付き合う。
それって凄く疲れないか?
そんな思いが頭を過った。
ただ、目の前の彼女の笑顔を見ると……そんな心配すらすぐに消えてしまう。
『はいっ! じゃあこのお話もおしまいっ! さてさて……デザート頂こう?』
この日、俺は……全てを話した。
立花の事は既に嘘だってバレてたから。そしてそれを出汁に立花にいいようにされたくなかったから。
澄川の事はその場の雰囲気だった。結局、良い方向へ進んだのは良かった。
……でも、全てを信じてくれたからと言って、俺が宮原さんを信用するのは別だ。
もちろん良い人なのは分かる。良くしてくれてるんも分かる。
話を聞いてくれて、俺の事を信用してくれてるっぽい様子も見える。
ただ……それでも……
俺はまだ彼女を……女の人を信じる事が出来ない。
どんなにあいつらに罵声をぶつけても、あの時の苦しさは頭の中にチラついてこびり付いてる。
それは、算用子さんも……宮原さんもまだ同じだった。
深入りはしない。
信用しない。
仲が良くなれば良くなる程、
知れば知る程、
知ろうとすればする程……
その代償は大きい。
だから、気を付けないと。嘘の事は全部話した。罪悪感もない。だったら距離を取って……あくまで友達として接する。
そうしよう……
そう、思っていたのに……
「ふぅー着いたー」
「えっと、ここが石白駅かぁ。」
どうしてこうなったんだ?
「宮原さん達の住んでるとこまで、列車で40分も掛かるんだね?」
「そうだよー? 東京とは大違いでしょ? すみっち」
算用子さんと天女目……さらに澄川と一緒に……
「楽しみだねぇ? 日南君?」
「あっ、あぁ……」
列車に乗り、石白駅とやらの前に立ってないといけないんだ? しかも澄川も居るしっ!
「さてー、連絡もしたし、ここに居れば鷹野が迎えに来るはずー」
「お祭り楽しみだな」
「めぶり祭りだっけぇ? スマホで調べたら結構凄かったよぉ?」
……時刻は夕暮れだというのに、夏特有の蒸し暑さが体を襲う。
そんな中、俺達は……石白駅という駅の……入口前に立って居る。
この石白市は黒前の近くにある市で、宮原さんや鷹野の地元だ。2人共車で大学まで来てるのは知ってたけど……確かにな。
車ならほぼ一直線に続く大きな県道がある。それは1泊したオリエンテーションの時に鷹野が言ってた。
それに対して列車は、覚えている限りで5つの駅を経由してる。その所要時間の差は結構だ。
とはいえ、そんな公共交通機関を使ってまでなぜ俺達がここに来たかと言うと……それこそ今迎えに来るであろう鷹野が原因というか発起人だ。
『なぁ、暇だったら石白でやる夏祭り来ないか?』
まさか宮原さんに全部話した翌日にそんな連絡が来るとは思わなかったよ。
それに……
「あーあっつー」
「暑いね?」
「でも、夏って感じで良いよねぇ」
まさか澄川まで来るとはな? まぁ、恐らく算用子さんか宮原さんが誘ったんだと思うけど、ああいう話をした手前、直近過ぎてこっちが変に緊張する。てか、お前も俺にあんな事言われて、良く来るって言ったな?
まぁ、別に良いけどさ? 俺は俺らしく普通にするだけだ。
「おーい! お待たせー」
なんて事を考えていると、何やら聞いた事のある声が耳に入る。
その先へ一斉に視線を向けると、何やらこっちへ向かってくる誰かの姿。
「来たよー鷹野ー」
「こんにちわ」
夏祭りの会場は駅の近くらしく、到着したら迎えに来る。その約束を果たすべく、現れたのは間違いなく鷹野だった。しかし、その格好は……いつものそれとは違っていた。
「鷹……うわぁ凄い!」
「ん? ……っ!」
いや、半纏は分かるぞ? 鉢巻も分かるぞ?
けど……上半身裸でサラシ? しかも本格的な白い短パンに足袋!?
「良く来たなっ!」
えっ、ちょっと待って?
やべぇ、ただの夏祭りだと思って特に調べもしなかったんだけど……
めぶり……祭りだっけ? それって……
一般的な夏祭りじゃないの!?
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