第17話 その裏側で……澄川燈子の場合
駅前に見つけたレストラン。偶然入ったそこで目にした、アルバイト募集の文字。
大学からも近い。時給だって、この辺りでは悪くない。
日南君から近付くな……そんな雰囲気を感じてからは、足が重い。
宮原さんや算用子さんは話し掛けてくれるけど、それすら止めろと言われている気がしてならない。だから……講義が終わってからは時間も余ってる。
1人で居るよりならバイトをした方が良い。考える時間を作りたくなかったから。
けど……まさか……既に日南君が働いているとは考えもしなかった。
もう1度、あの冷たい視線を受けるなんて思いもしなかった。
迷惑だと思って、もう1度話し掛けてみたけど……日南君は変わらず。私にはもう、興味も何もないように見えた。その行動は罵倒されるよりもキツい。
それに、それだけじゃない。私を驚かせたのは……あの立花さんも居た事だった。
確か、1つ年下で小学校の時から日南君と仲が良かったはず。けど、なんで彼女が? もしかしたら同姓同名なのかもしれない。
結局、そんな疑問が拭えないまま働き始めた。
皆さん良い人達で、雰囲気もアットホーム。環境としては凄く良かった。
でも……ある日。ロッカーで立花さんと一緒になった時……言われた。
『そういえば……なんであなたも黒前に? 澄川燈子さん』
『えっ?』
彼女は……紛れもなく、あの立花さんで間違いなかった。引っ越しでここへ来て、近くの黒前高校に通っている。それに……
『あなたは私を覚えてないかもしれませんけど、私は覚えてますよ? もちろん、あなたがいよちゃんにした事もね?』
あの事を知っていた。日南君から聞いていた。
その事実に、何も言えなかった。
『最低だよ?』
『なんでここに居るの? まさか、いよちゃんのストーカー?』
ただただ、徐々に強くなる口調の言葉を受け止める事しか出来なかった。
でも……
『ここ選んだのも、少しでも近付きたいから? それって良い
なぜかその言葉に……心が動いた。何かが突き刺さった。
―――そっか。じゃあ燈子は好きじゃない。でも話し掛けられる。……つまり
迷惑……? 迷惑?
……そっか。そうだった。
オープンキャンパスで日南君を見つけた時から、黒前大学に進学を決めてから。
今更何を言ったって、何をしたって……
こうなる事は、前から知ってたじゃない。
それでも、私は声を掛けた。日南君に声を掛けた。
どれだけ無視されても……冷たくされたって……構わない。
それでも私は、あの時みたいに自分の言葉に嘘は吐きたくない。
『そんなの知ってる。でも、私はもう嘘は付きたくない。自分のした事は取り返しのつかない事だって分かってるし、許してもらおうなんて虫が良過ぎる』
『でも……でも……もう私は逃げたくない。自分がした事からも……自分のせいで傷付いた人からも』
『そう……その決意がどこまで続くか……見物だけどね? じゃあこれからよろしくね? 澄川さん?』
あの時の自分には戻りたくない。
嘘も吐かない。逃げない。
どんな事だって、素直に受け止めよう。それは自分がした事が原因なんだから。
どれだけ苦しくても、傷付いても……自分の気持ちは曲げない。
その為に私は……
ここに居るんだ!
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