女難にまみれた不幸な男が、女神に出会って救われるまで
北森青乃
第1話 女神様?
女難
それは女性に関しての災難を表す言葉。振り回されて自身に被害が被る。または、それらによく遭遇する人を女難の相があるともいう。
そしてまさに俺、
思い出すだけでも寒気と、今更ながら怒りが湧いて来る数々の所業。
長年思いを馳せていた同学年の女の子に嘘告白をされた小6の夏。
仲が良かった1個下の幼馴染に告白したら断られ、さらにその噂まで広まった中3の秋。
親身に話を聞いてくれた1個上の先輩。その優しさに心打たれて、付き合い始めたものの……先生との二股が発覚した高2の冬。
あれ以来、俺は女の子を信じない。友達程度に関係をキープしようと心掛けた。
信じるべきは身内だけで十分。母親と2人の姉だけで十分。
そして、今日この日をもって新しい生活が始まる。
ガチャ
ドアを開けると、外はまだ肌寒さが残っていた。さすが本州最北端。その季節感も何もかもが東京とは違う。ただ、その違いを感じる程……全くの新天地に身を寄せたのだと嬉しくも感じた。
景色が違う。
建物が少ない。
空気が綺麗。
車通りが少ない。
素晴らしい。まさに今までの全てを忘れ去り、1から始めるにはもってこいの環境。
そう、俺は今日この日をもって……晴れて
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「えーと、経済学部の日南太陽さんですね……はい。それでは、封筒に書かれた番号の席に着いてください。立て札に学部の名前が張られてますから、参考にどうぞ?」
「はい、ありがとうございます」
という訳で、難なく辿り着いた入学式の会場でもある体育館。
受付で封筒を渡された俺は、受付の人に言われた通りに自分の席へ足を向ける。
えっと……経済学部……っと……あった。んで? この番号……ここか?
既に半分以上の新入生が居る中、思いのほか自分の席を探すのは楽だった。それに、学生の数もそこまで多くはない様な気がする。
まぁ人口を考えると当たり前か? それに、ここに居る人たちは恐らく全員が初めまして状態。それこそ……俺が求めたキャンパスライフ。
思い起こせば……本当に俺は……不幸な男だ。そして女難に塗れた12年間だった。
苦しかった小学校時代。なんで俺が狙われたのかは分からない。見事に初心な恋心を学年の目立ちたがり屋軍団に馬鹿にされたよ。でも変に噂とか広まらなかった辺り、まだ人間の気持ちがあったのか? まぁ、学区の違いで皆別の中学行ったから……知る由もない。
そして悲しい中学時代。小学校の件を唯一知っていた一個下の幼馴染。家も近所で、それ以来更に仲良くなった……気がしてた。結構いい雰囲気だったのにな? その楽しさに胸を打たれ、思い切って告白したら、見事に振られたんだ。しかもそれから……俺が告白して振られたという噂が一気に広まった。気にすんなって言ってくれた友達も多かったけど、後ろ指差される状況は嫌だった。
その輪廻を断ち切るべく、実家から少し離れた所に入学した高校時代。寮に住み、心機一転勉強を頑張ろうと決意した。そして足を踏み入れた生徒会。そこで出会ったのが1個上の先輩だった。最初は警戒した。けど、その優しい雰囲気に引き込まれて……色々口にしてた。それでも親身になってくれる先輩に完全に心開いてしまったんだ。
その後、告白してOK貰えて……正式に付き合った。そりゃ幸せだったよ? 絶頂期だったよ? 先生とホテル入る所を見るまではね? ショックでさ? 信じられなかった。けど、数日後SNSで学校中にその情報が流れた。
ザワつく生徒。慌てる学校。近隣じゃ結構有名校だったから、そういう情報にも敏感だったんだよね? 結局、その先生は学校を辞め。先輩は1度も学校に姿を見せなかった。
妊娠して学校を辞めたとか、先生の後を追ったとか、あっち系の店で働いてるとか色んな噂があったけど、真相は分からない。
『ごめんね』
その一言だけ送られたメッセージだけが残っただけ。
……ここまで来ると、流石に俺も心が折れた。
女は信用しない。
一貫してそう思うようになった。
恋心を弄ばれる。
噂で影から指を差される。
いい気味だという言葉と、可哀想だよねあの子って憐みの言葉。
そのどれもが……嫌で嫌で仕方がない。
だったら一層の事、割り切ってしまおう。
女の子は信用しない。
友達として付き合うけど、信用はしない。距離をもって接する。
もう誰かを好きになるとか、付き合うとか……考えない。
その気持ちを持って選んだのが、ここ黒前大学だ。
嫌な思い出から逃げたい、真っ新な状態で過ごしたいってのもあった。
もちろんそれだけの理由じゃない。ここは就職率も、偏差値も、大学院の評価も結構良い。
自分の望む環境で、自分が成長できる最高の大学。
だからこそ、ここで精一杯頑張……
「ねぇねぇ、体調でも悪いの?」
「うぉ!」
席に座りしみじみ思い出に耽っていた時だった、突如耳に入った声に思わず変な声が零れる。
「ちょっ! 大丈夫!?」
大丈夫って、そりゃいきなり……げっ!
そして何の躊躇もなく、声の聞こえた方向へ視線を向けた時だった。
その瞬間、俺の目に飛び込んで来たのは……
「……うん? 大……丈……夫?」
物凄く可愛い子だった!
「だっ、大丈夫だけど」
「ホント? 良かったぁ」
なっ、何だこの子!? 大きな目に整った顔立ち。背中まで伸びたロングヘアーに……良い匂い。外見がドストライク!
「あっ、そう言えば言葉綺麗だけど、もしかしてこっちの人じゃない?」
しかもグイグイ!?
「えっ? まぁ……」
「もしかして東京!?」
「そう……だけど……」
「えー! 良いな良いな! 都会っ子」
改めて聞くと声も可愛い。しかもよく見ると、スーツからでも分かる胸……って近いっ!
「とっ、都会っ子って……」
「ごめんごめん! 軽蔑してる訳じゃないんだよ。羨ましいなって」
「いやいや……」
「ねぇ、君も経済学部なんだよね? 都会の話とか聞きたいな?」
しっ、仕草も可愛い!? 斜めに顔傾けるとか……完全にタイプが一致してる。マジで女神か?
理想の女の……はっ!
理想……この言葉が浮かんだ瞬間、太陽は思い出した。
過去12年間の苦く、悲しく、絶望を味わった日々を。そして気が付いた。
自分が好きになった女の子には……もれなく裏切られるという自分の不幸を!
やっ、ヤバイ! 早速堕ちる所だった! 危ない危ない。このパターンは自分が一番危惧してた事じゃないか?
我を忘れて、また過ちを繰り返す寸前だった。
自分を信じろ? 過去を信じろ? この子は……危険だっ!
「いや、そろそろ式始まるし……」
いっ、いいぞ?
「えっ? そっかぁ」
おっ、諦めたか? 席が隣ってだけで今日乗り切れば、この人数で結構広いキャンパスだと滅多に出会わないだろ? 講義も席離れれば良いし。
「でも学籍番号1つ違いだよね? えっと、私の名前は
えっ? 学籍番号……ってマジ? でも名字離れてない? なんで1つ違い?
「えっ……と、日南……太陽……」
「太陽? 良い名前だねっ! じゃあ……とりあえず日南君? 席も隣だし、これも何かの縁っ! これから色々と……」
……どうしよう。折角心機一転、なるべく女子には関わらないようにしてたのに……開幕からヤバいです。
見た目は女神の人が……
「よろしくね?」
すぐ隣に居ます!
「よっ……よろしく……」
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