第24話 ワネの妹
結局もう一度ジャンザザは城に行ってワネの妹について調べた。
ルーロンも一緒に行って城門前にある公園のベンチに座って彼が戻ってくるのを待った。昨晩ジャンザザの前で書いた一覧表を出して、一番下に【・妹】とだけ記した。これで何か分かることがあるのだろうか。
この調査もこれで大詰めだというのは分かる。資料をカバンにしまって大きく伸びをした。
今日の日差しが暖かくて心地良い。急にまぶたが重くなってきたのでゆっくりと閉じてみた。考えてみれば昨夜はジャンザザの帰りを待っていたのでほとんど寝ていなかった。
やばい、また城の近くで寝てしまう―――
※ ※ ※
「ルーロン、起きろ」
肩を揺さぶられてまぶたを上げるとジャンザザが覗き込んでいた。
「ああ、お帰りなさい・・・」
慌てて立ち上がろうとするルーロンを見てジャンザザは頬を緩めた。
「気持ち良さそうに寝てたなぁ」
「ごめん、昨晩あまり寝てなかったから・・・て、ジャンザザだって寝てないよね」
「俺は寝なくて大丈夫になる訓練をしてるから」
優しい口調でフォローしてくれながら、ルーロンの隣に腰を下ろした。彼の手には一枚の紙が握られていた。
「さて、これがワネの妹についての資料だけど、これも二行しか書かれていなかった」
手渡された紙に目を落とした。
【サーキ・ベルディッド:十五歳 家族は兄のワネ・ベルディッド。十歳からポエン国立養護施設に籍を置いている】
「これしか情報がなかったけど、とりあえずこの養護施設に行ってみるか」
しかしルーロンは資料を見つめたまま、ジャンザザの声に反応できなかった。
「サーキ・・・」もう一度音読した。この名前は聞き覚えがある。三日前、クドラ山でワネがルーロンに向けて言った言葉だ。彼はルーロンに、妹の名前で呼びかけたのだ。
つまりあのワネは、妹の顔を知らない。ルーロンは顔を上げてジャンザザを見据えた。
「すぐこの養護施設に行こう!妹さんに話を聞けばぜったいに何か分かるはず!」
※ ※ ※
ポエン国立養護施設は国内にいくつかある養護施設の中で一番大きな施設だ。
王国軍が管理してることもあって、軍務によって殉職(死亡)した兵士の子供が積極的に招き入れられている。
そこで施設長の話を聞いた二人は耳を疑った。
「・・・死んだ?サーキさんが、ですか?」
白髪に白ヒゲを蓄えた施設長は残念そうな表情を浮かべながら頷いた。
「ええ、ほんの一ヶ月前の出来事です。年少の子供達と一緒に買い物に出かけていたサーキが、無人で暴走していた馬車にはねられてしまい、そのまま・・・」
「そんな・・・」その先の言葉をワネ言う事ができない。お悔やみの言葉を言うべきなのに、それすら言えずにいる。そんなルーロンを見かねたように、ジャンザザが施設長に声をかけた。
「あの、サーキさんのご遺体はどちらに」
「ええ、軍で丁重に供養するといって運ばれていきました」
そうですか、と頷きながらジャンザザは質問を続ける。
「不躾なことを訊きますけど、サーキさんの事故について何か気になった点はありませんでしたか?」
「気になった点?」施設長が不思議そうな表情を浮かべた。
「なければ結構なんですけど」
施設長はしばらく自分のヒゲを触りながら考え込んでいたが、何かを思い出したようにジャンザザに顔を向けた。
「一つありました。サーキは毎月お兄さんに手紙を書いていたのですが、軍が彼女の遺体を引き取った翌日に再度兵士が来て、彼女の手紙の書き損じか、何でもいいから筆跡が分かるものを渡してほしい、と言われたんです」
「筆跡・・・?」
ジャンザザが呟くと施設長はハイ、と頷いた。
「サーキは施設の年長組で、日誌を記入していたので、それを渡しました」
ジャンザザは少しだけ考える素振りを見せてから施設長に顔を向けた。
「ありがとうございました。大変参考になりました」
簡潔に礼を伝えると席を立ち上がった。
「急な用事を思い出したのでこれで失礼させていただきます」
戸惑うルーロンに顔を向けた。「ルーロン、行くぞ」
ルーロンも慌てて席を立ちながら施設長に礼を伝えた。
※ ※ ※
「ビックリしたね。妹さんが死んじゃってたなんて」
施設を出てから早足で歩くジャンザザの後を追いながらルーロンが声をかけた。しかしジャンザザはそれに答えずに歩き続ける。
「ジャンザザ、どこに向かってるの?」
「城!」簡潔に答えた。その迷いのない答えと足取りにルーロンは追って質問をした。
「それで、なんでこんなに急いでるの?」
「少し前に、俺の同期が早朝訓練に姿を現さなかった。
戻るとその男は部屋で手紙を書いていた。
俺が怒鳴ったら『これは手紙の代筆をするという軍務だ。しかも十五歳の女の子の筆跡を真似ながらだ。文句があるなら交代してくれ。訓練の方がよっぽどいい』と言っていたんだ」
「それって・・・」ルーロンの息が切れてきた。
大柄なジャンザザの早歩きは、小柄なルーロンでは本走りじゃないと追いつけない。ジャンザザはルーロンの様子に気づいていないようで、前を向いたまま「ああっ」と頷いた。
「サーキの手紙を代筆していたに違いない。そいつは今日、城で勤務しているはずだ」
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