第112話 愛人ごっこ


 服を脱げと言われてリーアンはオドオドし始めてしまった。

 まったく、チャラ女らしくもない。

 そこは喜んでくれないと困るよ。


「どうして服を?」

「まずはお風呂でヘッドスパを体験してもらうためだよ。髪と頭皮の洗浄ね。そうだ、お湯を張ってこないと」


 小走りでバスルームへ駆けていって、蛇口をひねった。

 金百合の間は特別室なので出てくるお湯の量も豊富である。

 浴槽はすぐいっぱいになるだろう。

 ついでにタオルやバスマットの準備もしておかないと。

 ここに来てからはレン君任せで、自分でこういうことをするのは久しぶりだ。

でも、嫌いではないんだよね。

 てきぱきと準備をこなして部屋に戻ると、リーアンが落ち着かなくうろうろしていた。


「お湯はすぐに貯まるから。あ、恥ずかしかったらタオルを巻いてもいいよ」

「それはいまさらかな。島のお風呂で裸を見られているから」

「だったらもう少し堂々としていてよ」


 リーアンが恥ずかしそうにしていると、こちらまで調子がくるってしまうのだ。


「いやね、期待していなかったと言えば嘘になるけど、まさかこういう形で服を脱ぐとは思わなかったからさ」

「エッチなことはしないけど、ちがった意味で気持ちがいいことは請け合うよ。ほら、手伝ってあげるから服を脱いで」


 リーアンのシャツに指をかけてボタンを外して行く。

 なんだか貴族の愛人になったみたいだ。

 これはこれで、そういうプレイだと思えば楽しいものである。

 尽くされている感じが出ているのか、リーアンも満足そうな顔だ。

 シャツを脱がしてきれいに畳んでいく。

 愛人としては、こういうところを丁寧にしておきたいじゃない?

 プレイの過程を楽しまないとね。


「シローちゃんが恋人になってくれたら、毎日こんな感じ?」

「毎日は嫌だよ。今日は協力してもらう立場だから特別ね」


 パンツは自分で脱いでもらい、こちらも俺がハンガーにかけた。

 次はいよいよ肌着を脱いでもらうとしよう。

 俺はリーアンの背中に回り、肌着の裾に指をかける。

 そしてゆっくりとめくりあげた。

 おお!

 心の中で嘆息してしまった。

 スパでも見たけど、筋肉質であるリーアンの背中は非常に美しい。

 水着もつけていない今、それはことさら際立って見える。

 このまま口づけしたいくらいだぞ。

 でも、それは我慢して肌着も畳んだ。


「シローちゃん、下着も脱いだ方がいい?」


 パンティーの横に指をかけながらリーアンが聞いてくる。

 形のよい美乳を隠そうともしない。

 こちらの女性は胸を見られてもあまり意識しないからね。


「好きにしてもらっていいよ。でも、お湯で濡れてしまったら困らない?」

「それもそうか……」


 つぶやくと、リーアンは迷うことなく下着も脱いでしまった。

 うわあ、改めて見るとちょっと濃いめなんだ……。


「なんだよ、ジロジロ見て」

「別に変な目で見てないよ! これから施術するうえでいろいろ確認してただけ」

「本当かな? むきになるところが怪しいけど」

「怪しくなんてありません!」


 はい、大嘘です。

 ものすごくエッチな目で見ていました。

 アソコもおっきしております。

 でも、リーアンにそれを悟られたら負けの気がする。

 これはあくまでも実験だ。

 帝都の社交界に、ひいては皇帝の城に潜りこむための壮大な計画の第一歩でしかない。

 少し冷静になろう。


「先にバスルームへ行ってて。俺も着替えたら行くから」


 リーアンを先に行かせて、昼間作った水着に着替えた。

 俺だって服を濡らしたくないからね。

 少し湿っていて着づらいけど、さすがに裸というわけにはいかないだろう。

 そんなことをしたら、エッチに同意したと思われても仕方がない。

 なんとか着替えて、小瓶の数々をかごに詰めてからバスルームに入った。


「リーアン、入るよ~」

「あ、ああ」


 リーアンは浴槽の前で所在なさげに立っていた。


「寒くない? お風呂に入っていてくれてもよかったのに」

「実験すると聞いていたから、入っていいのか判断がつきかねたんだ。寒くはないよ。むしろ暑いくらいだ」


 リーアンはエッチな目つきで俺を見ている。

 これはまあお互い様か。

 俺もへんなスイッチが入らないうちに、さっさと始めてしまおう。


「まずは髪をとかしていくね。そこの椅子に腰かけて」


 自分のブラシでリーアンの髪をすいていく。

 こうすると埃がとれ、洗いやすくなるのだ。


「いいねえ、大人になってからこんなことをしてもらうのははじめてだよ」


 気持ちよさそうに目を細めているリーアンを見て、俺のやる気も上がってきた。

 続いて炭酸美容液をつけて頭皮をマッサージする。


「ふわぁあ……。本当だ、これは気持ちがいい」

「でしょう? 頭皮の血行を良くして、毛先のダメージをケアするんだ。心身ともにリラックスしてもらうためでもあるんだよ」


 マッサージが終わると特別に作ったシャンプーの出番である。

 人の髪を洗うのは久しぶりだ。

 シャンプーといえばヴァンパイアのシエラを思い出して、胸がチクりと傷んだ。

 島では二人してよく一緒にお風呂に入ったっけ。

 俺のことをお兄様と呼んで甘えていたものだ。

 いまごろどこにいるのだろう?

 また一人でさまよっているのか、それとも誰かと一緒かな?


「どうした?」


 考え事をしていたら指の動きが止まってしまっていたようだ。


「ごめん、ちょっと段取りを考えていたんだ。続けるね」


 こうしてヘッドスパを終わらせて、次はバスソルトを入れたお風呂に入ってもらった。


「なんだかいつもより汗をかいている気がするなあ。それに体の芯からポカポカする」

「特別製の入浴剤だから疲労軽減効果もすごいんだよ」

「うん、トレーニングの後に入ったらよさそうだ。実験はこれでおしまいかな?」

「ううん、このあとはオイルマッサージだよ」


 グラム様やセシリーたちにもよくやってあげたあれだ。

 今回はオイルに美肌効果も追加してある。


「マッサージって、シローちゃんがやってくれるの?」

「ここには俺しかいないもん。今回だけね」


 リーアンの目が怪しく輝き、ゆっくりと浴槽から立ち上がる。

 一糸まとわぬモデル体型が眼前に現れて、俺は生唾を飲み込んだ。

 だけど、それはリーアンも同じだったようだ。


「マッサージって肩とか背中かな……?」

「えーと……全身マッサージの予定だけど、それは……いや……?」


 リーアンはエッチな笑みを浮かべながら仰向けでマットに横たわった。


「望むところさ。シローちゃんの好きなようにしてくれ」


 無防備に横たわるリーアンはすべてを俺にさらけ出している。


「とりあえずうつ伏せになって!」


 さもないと、おっきしているアソコを気づかれてしまうじゃないか。

 こんなことなら水着なんて着るんじゃなかったよ。

 窮屈で痛くなった部分をタオルでごまかしながら、俺はマッサージの準備をした。

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