第107話 オリジナルの水着
レン君と一緒にホテルの売店を訪ねた。
ここは売店というより、高級ブティックみたいな感じだ。
服や小物や化粧品、ショーケースの中にはジュエリーなどもあった。
「へえ、お酒や食べ物なんかも売っているんだね」
「そちらはお土産やピクニックに行くときに買われるお客様が多いです。お申し付けがあればランチボックスの販売もしていますよ」
ランチボックスは丘を散策したり、馬で遠乗りを楽しんだりする人たちが買っていくようだ。
それもおもしろそうだけど、いまは水着を見てみたい。
「水着はこちらの奥にありますよ」
レン君に案内されて奥の水着コーナーへ行った。
「ほほう」
まず目に飛び込んできたのは女性用の水着だった。
ビキニとかワンピースとか、日本で売られていたものとそう変わりはないようだ。
もっとも柄物は少なく、単色のものが多い。
だけど、布面積が少ないものもちゃんとあるんだな。
となると、混浴が楽しみになってくる。
全裸も大好きだけど、隠してあるというのは隠してあるというので趣を感じるものだ。
だって、詫び寂びの国、日本の出身だからね!
「えーと、男物は……」
「こちらでございます」
連れてこられた男性用水着コーナーを見て、僕はげんなりしてしまった。
商品のほとんどが袖付きワンピースだったからだ。
しかも下半身の方はハーフパンツみたいになっている。
この世界の男は露出が少ない水着を好むのか……。
「もう少し大胆なやつはないのかな?」
「大胆な水着ですか!? それでしたらこちらなどはいかがでしょうか?」
ふむ、先ほどのより布面積が小さくなっているな。
といっても、袖が短くなり、ハーフパンツの丈が膝上になったくらいのものだ。
見せたがりの心を満足させてくれるようなものではない。
「お気に召すものはございましたか?」
「うーん、残念だけど……」
ここには俺の着るべき水着はないようだ。
やはり水着も作製してしまうしかないだろう。
「ところでクオート様……」
「どうしたの?」
「新しいお召し物を着ていらっしゃいますが、お荷物はいつ届いたのですか?」
創造魔法で作ったから届いたわけじゃないんだよね。
だが、これは内緒だ。
この世界で魔法が使える男はいないから、へたをすれば魔女狩りのように異端審問裁判にかけられてしまうかもしれない。
いつものようにごまかしておこう。
「夜にうちの使用人が届けてくれたんだ」
「え、その方もホテルにご宿泊ですか?」
「そうじゃなくて……、先に帝都に行ってもらっちゃった。ほら、これからパルメットさんたちとご一緒するからね」
「そうでしたか」
「水着も荷物に入っていたから、そっちのを着るよ」
「承知しました……」
釈然としないようだったけどレン君は納得してくれたようだ。
水着作製の素材にするため、グレーの水着を一着買って部屋へ戻った。
部屋に戻ると、さっそく水着をセットすることにした。
リーアンが迎えに来るまでそれほど時間はない。
もっとも、売店で購入した水着を素材にするから20分くらいで出来上がるだろう。
自分なりに考えた水着をセットして、俺はスパへいく準備をはじめた。
「クオート様、リーアン・マッシュ様がお見えです」
「はーい、すぐに行くよ」
部屋の外に出ると、壁にもたれてリーアンが待っていた。
「ごめん、ちょっと早すぎたかな? シローちゃんと遊びに行けると思ったら待ちきれなくてね」
「もう準備はできているよ」
水着だって完成済みだ。
俺たちは連れ立ってスパへ向かった。
ここはスパも立派だった。
大きな石材を使った広いお風呂はローマの浴場みたいに見える。
円形の浴槽には色とりどりのタイルが張られていて、とてもカラフルだ。
混浴のお風呂は比較的若い人々でにぎわっている。
湯気が邪魔をして遠目では詳細が分からないけど、みんな楽しそうにしているぞ。
これは期待できそうだ。
「男子更衣室はここだよ。私は向こうで着替えてくるから、あそこのデッキチェアのところで落ち合おう」
俺はリーアンと別れて更衣室に入り、手早く自作の水着に着替えた。
だが、すぐには出て行かない。
そう、リーアンを焦らしているのだ。
いまごろリーアンは俺の登場をいまかいまかと待ちわびているだろう。
チャラ女の期待がマックスに達したときこそ、俺の水着デビューにふさわしい。
頭の中で500まで数えて俺はうなずいた。
よし、そろそろいいだろう。
所在なさげにこちらを見つめるリーアンと目が合った。
俺は手を高く上げてリーアンに振る。
くくく、リーアンのやつめ、目が点になっているではないか。
それはそうか、俺が作った水着はセパレートタイプで、上はぴったりとしたスポーツブラのような形状になっている。
あ、だいじょうぶですよ。
腋毛は処理してありますよから。
しかも下はショートパンツタイプだ。
すらりとした脚には自信があるのだよ。
こちらの世界に来てから、顔は70点くらい、体は100点満点となんど言われたことか……。
小走りでリーアンのところまでやってくると、彼女は遠慮のない視線を俺に向けた。
「おまたせ~」
「シ、シ、シローちゃん……」
「なあに?」
「シローちゃんがまぶしすぎて、目がつぶれそうだ」
「そうかな? 似合ってる?」
「似合ってるなんてもんじゃない。まるで小悪魔みたいな天使だよ!」
お褒めの言葉をいただきました。
「どうせ、いろんな男に同じことを言っているんでしょう?」
「いやいや、シローちゃんは特別だよ。周りを見てごらん。みんながシローちゃんを見ているよ」
「ほぇ?」
リーアンの言うとおりだった。
男も女もみんなが俺を注目しているぞ。
「あ、あの人は誰だ?」
「たしか、パルメット家のお孫さんだ」
「きのう、裸足で廊下を走っていたというあれか!」
「なんと魅力的な……」
「見たことのない水着ね」
「あの方のお父様はアスカールの王族に嫁いだそうよ」
「ほう、あれは東方ふうの水着か。言われてみれば異国情緒を感じるな」
いえいえ、単に見せたがりの破廉恥水着ッス!
セパレートだからおへそが丸見えだもんね。
パンツの丈が短いから、かがめばお尻の線まで見えちゃうかも。
本当は下だけでよかったんだけど、男が乳首を出したら出禁になるらしいので我慢した。
そこはレン君に確認済みだ。
それでBANされるなんて、どこかの投稿動画サイトみたいだよね。
ともかく、東方ふうだと誤解しているのならそれでいいや。
それにしても、リーアンは相変わらずスタイルがいいなあ。
すらりとした長い手足で、出るべきところはきちんと出ている。
いわゆるモデル体型というやつだ。
今日は黒いビキニを着ていて、それがすごくきまってもいた。
前に見たのはモンテ・クリス島のお風呂で、あのときは裸だったんだよなあ……。
「どうしたんだい、シローちゃん? 急に黙り込んで」
「ちょっと、思い出の再生をしてただけ。そんなことより、早くお風呂に入ろうよ。どうすればいいの?」
リーアンの手を引っ張ってスパをエンジョイすることにした。
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