第98話 先ず隗より始めよ
夜が明ける前、セシリー一人に見送られて俺は出立した。
一晩中頑張ったから精魂尽き果てているんだけど、馬車の操作はゴーレムたちがしてくれる。
セシリーってベッドの中ではM傾向になるみたいで反応が一々可愛かった。
後ろからされるのが気に入っちゃったみたい……。
この世界ではエッチな小説の中にしか出てこない夢物語なんだって。
後ろ髪を引かれる思いがしたけど、俺がバワンダ城塞へ行ったら大混乱が起きてしまう。
傾国の美女を気取るつもりはないのでこのままお別れがいいのだろう。
最後に長い長いキスをして出発した。
目が覚めると10時くらいだった。
シルバーとゴクウは言いつけ通り人気のない空き地に馬車を停めていた。
森に囲まれていて人の住む集落からは離れているようだ。
これなら誰にも見られないから存分に創造魔法を使うことができる。
「ポッポー、ワンダー、ハリー、ニョロは周囲の警戒を怠らないように。ゴクウは天幕の準備をして。しばらくここに滞在するからね」
セシリーもルージュもミーナもいないから、今日からはまた一人旅だ。
もしも山賊に襲われたとしても自分で何とかしなくてはならない。
ただ、ゴーレムたちもいるし、エマンスロックもある。
いざとなれば囚われの天使を使って簡単に離脱することもできるからそれほど心配はしていない。
でも、戦うのはやっぱり性に合わないな。
何と言っても敵を殺してしまうかもしれないというのが恐ろしいのだ。
皆殺しにできないならすぐに俺のことが噂にもなってしまうだろう。
怪しい甲冑をまとった無敵の騎士の正体が聖者だと知れたら、いろいろとまずいのではなかろうか?
というわけで対策を考えているところだ。
とりあえず聖者は廃業することにした。
病人や怪我人が目の前にいたら助けちゃうと思うけど、これまでのように聖者コスチュームを着るのはやめだ。
あれは目立ちすぎる。目立つと言えば馬車だってそうだ。
この馬車もさんざん魔改造を施して並みのキャンピングカーを凌ぐくらい快適になっている。
そのかわり外見もかなり特徴的で、聖者の使用する特別な馬車として有名になっているみたいだ。
大胆なフルモデルチェンジが必要だろう。
冬枯れの草の上に
空は突き抜けるように青くて、薄い雲がゆっくりと流れていく。
どこかで
いつしか、俺は自然と一体となって、万物を太極の位置から眺めていた。
やがて悟りの瞬間が訪れる。
「女装だ……」
この世界で男が一人旅をするのは非常に珍しい。
だったら女に変装するのが一番自然じゃないか!
悟りを開いた俺は最初にブラジャーの作製から始めた。
故事に曰く「
どうすれば賢者を招くことができるかと
つまり「身近なことから手をつけよ」という意味としてこの言葉は使われている。
身近なこと……この場合はブラだろう。
だって、一番肌に近い部分に装着するんだもんね。
内側にシリコンのパットを入れてBカップくらいのおわん型のふくらみを再現した。
人に揉まれたとしても、まさか人工物だとは思われない出来だ。
程よい弾力が気持ちよくてアホみたいに自分の胸を揉みまくってしまった。
ヤッホー♪ ヤッホー♪ って歌いたくなるほど楽しい。
色はすみれ色を基調にして、花柄とレースを組み合わせたシックな大人のデザインで決める。
チェック柄などでガーリーなデザインも捨てがたかったけど、ここはあえて大人の雰囲気で行こうと思う。
でだ、やはり下着は上下で揃えたいというのが乙女心というものだろう。
うむ、前からよく指摘されてはいるが、俺のオネエ度はブラを作った時点で加速している。
いや、暴走していると言ってもいいだろう!
めちゃくちゃデザインにこだわって、上品さの中にもセクシーさが宿る下着を作製した。
創造魔法の
下着が完成すると次は洋服なのだが、これは地味な物とした。
旅をするというのだから何かに偽装をしなくてはならない。
無難に行商人に身をやつすことにしたから、職業にふさわしい装いにした。
他にもウィッグ、ボイスチェンジャーつきペンダントなども作製して完璧な女装を目指す。
「私、きれい?」
ゴクウの反応は鈍い。
ゴーレムの知能は俺の美を理解するほどの発達は見せていないようだ。
だけど、鏡に映る自分の姿にホレボレとしてしまう。
セシリーやシエラにはかなわないけど、なかなかいい線をいってるじゃないか。
真夏の浜辺だったら7回は声をかけられるな。
胸もあるし声も女だから、これで男だとバレることはなくなっただろう。
丸一昼夜かけて変身グッズを作ったので、朝になっていた。
次は馬車の改造を試みる。
快適生活を捨てなくてはならないのは悲しいけど身の安全のためには仕方がない。
サスペンションなどの目立たない構造はそのままに、外見だけは普通の幌馬車に戻した。
そのかわりアクティブ防御システムというものを取り付ける。
これは飛来した攻撃魔法や弓矢の軌道を魔力波の干渉で自動的に逸らす機能だ。
これで奇襲攻撃は避けられるから余裕をもってエマンスロックを装着できるようになるはずだ。
さらに対人用のショックガンを御者台の横に搭載した。
これらの道具は武器カテゴリではなく魔道具カテゴリで作ることができた。
非殺傷の道具だからだろう。
相変わらず俺の武器作製レベルは低いままだから助かった。
武器レベルも上げておいた方がいいのかな。
ショックガンは戦車についている機銃みたいな形状だけど、この世界の人にとっては何に使うのかはわからないだろう。
ゴクウに扱い方を仕込むとすぐに覚えてくれて、とんでいたカモを撃ち落とした。
今日の夕飯はかも南蛮にするか。
これらの作製には4日もかかってしまった。
最後にゴーレムたちの偽装だ。
鉄、木、石と、素材はそれぞれ違うけどゴーレムたちだって非常に目立つ。
ある意味、一番目立つかもしれない。
ということで人工の毛や羽、外皮をつけて、見た目だけは普通の動物になるように改造を施していく。
ゴクウはサルに、ワンダーは超大型犬に、シルバーは馬に、ポッポーはハトにだ。
小型のハリーやニョロやモグたんはそのままで荷台に隠れていてもらうことにした。
これらの作業に一週間を費やし、ついに八日目が訪れた。
今日から新しい生活が始まるのだ。
「さあみんな、いくよ!」
荷馬車の目につくところには酒や珍しい食べ物を置いた。
これはすべてシローの宿から運び入れたものだ。
こうしておけば高級食料品を扱う行商人に見えなくもないだろう。
俺は意気揚々と出発した。
馬車を走らせて数時間、ついに町を発見する。
畑で作業をしている農婦たちがこちらを見ていたが特に警戒している様子はない。
また、聖者の時のように珍しそうにこちらを見てくることもなかった。
当然エロい視線も感じない。
遠目では完璧に旅の女に見えているようだ。
だが、肝心なのは接近していてもバレないかだ。
比較的大きな町のようで、入り口付近で「マスター・ウェイの店」と書かれた看板を見つけた。
酒と食事を出す店のようだ。
入ってみるか……。
「ワンダー、荷台で見張り番をしているんだ」
こんなでかい犬が守っていたら、わざわざ手をだす泥棒もいないだろう。
俺は緊張しながら重たい木の扉を押し開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます