第70話 追跡は終わり、奴はモンスターになった
俺たちの乗った小型船はシーマたちに
これはもともとセシリーの仇敵であったジャニスの持ち物だ。
とはいえジャニスもどこからか盗んできたようだけど……。
とにかく今は俺のものになっていてあちこちに改装を施してある。
船体も「修理」を使って新しくしてあるし、船内も趣味のいい家具調度を揃えて、過ごしやすい空間が整えてあった。
風が出てきて、波の向こうに見える商業区の灯りがぼんやりと揺れている。
もうシエラたちは白蛆を見つけただろうか?
今回はシエラとセシリーに加えてマスター・エルザやギルドの職員、腕利きの冒険者が白蛆討伐に向かっているから後れを取ることはないと思う。
「男将さん、テーブルの用意ができたっす!」
ミーナが元気よく俺を呼びに来た。
本来は娼館の待合室で夕飯を食べようとお弁当を作ってきたのだが、白蛆騒ぎでそれもできなかった。
追跡を続けているシエラたちには悪いけど食べておかなければいざという時に力が出ない。
海の上は風が気持ちよく、陸から離れているので虫もいなくて過ごしやすい。
今晩は甲板にテーブルをセッティングして夕食を食べることにした。
「二人とも席に座って。後は俺とゴクウでやるから」
護衛に来てくれたルージュとミーナを座らせて、カゴに詰めた食事を広げていく。
二人の他にもワンダーを2体、ゴクウを1体、ハリーを6体連れてきている。
「へんな奴が来ても私の結界魔法で近づけさせはしませんよ。胸の見せどころです」
「いや、胸じゃなくて腕だろう……」
隠れ巨乳はわかったからさ。
「どっちも見せるから大丈夫です!」
「バカなことを言ってないで御飯にするっす!」
やけにはしゃいでいるルージュとミーナを落ち着かせて、前菜のレッドボアと木の実のテリーヌをだした。
ボリューミーな料理だけど若い二人なら平気だろう。
「うおお、美味そうっす!」
「船の上でこんな優雅な食事をするのは初めて!」
まあ、やっていることはディナークルーズだもんな。
ルージュもミーナも可愛いいから普段の俺なら同じようにはしゃいでいたかもしれない。
だけどセシリーたちのことが心配で食欲はなかった。
その晩は船の上で夜を明かした。
船室は一つしかないのでルージュとミーナは甲板に毛布を敷いてその上で寝てもらうことになった。
逆でもまったく構わなかったのだけど「男をそんなところで寝かせるわけにはいかない」とのことで、俺だけがベッドで寝ることになったよ。
なんなら三人でも……。
間違いなくマチガイが起きていただろうな。
「男将さん、起きていますか? 男将さんのハトが来ましたよ!」
ミーナの声に船室から飛び出した。
ずっと心配でよく眠れなかったのだ。
ポッポー3号の足には小さな手紙が括り付けてあった。
兄上へ
三日月海岸の桟橋へ戻ってきてください。
シエラ
手紙は短い一文だけで詳しいことは何も書いていない。
「帰って来いってさ。他には何にも書いてないよ」
「たしかにシエラさんの字ですか?」
ルージュが手紙を睨んでいたけど、間違いなくこれはシエラの字だ。
「とにかく慎重に戻ってみましょう」
シーマたちに舟を引っ張らせて入り江に戻ったが、桟橋ではシエラとセシリーがいて手を振っていた。
遠くから見る限り無事なようだ。
この船は小型船なので喫水が浅く入り江の中まで入っていくことができる。
桟橋に船を横付けにするとセシリーが俺に手を伸ばして下船を手伝ってくれた。
「ただいま。どうなった?」
「少々厄介なことになっている」
シエラの顔はいつだって青白いけど、今日はいつもとは違う顔色の悪さだ。
「なにがあった?」
「ポッポーの案内で白蛆を追ったのだが、奴は寄りにもよってダンジョンへ逃げ込んでいたのだ」
それはまた面倒なところへ逃げ込んだな。
「追跡するのに苦労しそうな場所だよね。でも、一人でダンジョンなんて逃げ延びられるのかな?」
「奴はそれなりに強い。水は魔法で作り出せるし、食料は探索中の冒険者から奪うことも出来るだろう。コカトリアスのような可食モンスターもいる」
凶悪なモンスターに出会わなければ生き延びることは可能なのか……。
「ただな、やはり一人でダンジョンの奥へ行くのは不可能だろう」
「シエラでも無理?」
「ああ、私でも無理だ。一人でできることというのはたかが知れているのだよ……」
そういうものなのかも知れないな。
「マスター・エルザは?」
「今はダンジョンの入り口で待機中だ」
みんな一睡もしていないようだ。
「シエラもセシリーも少し休まないとね。ご飯は食べた?」
「昨日から何も口にしていない」
「だったらすぐに用意するよ」
俺はシエラの耳元に口をよせる。
「血を用意しておくからね。お酒と混ぜて飲んでから仮眠を取るといい」
「うん。少し多めでお願い」
血は匂いがきついから皆の前で飲むのは禁止の約束をしているのだ。
後で俺の部屋で飲ませてあげるとしよう。
それからダンジョンはしばらく閉鎖された。
選抜隊により地下1階から3階までがくまなく捜査されたが、白蛆の姿はどこにも見つからなかった。
はたして、モンスターに食べられたのか、地下4階より下へ行ったのか……。
選抜隊はマスター・エルザが直接指揮を執り、シエラやセシリー、ガチムチ女戦士さんたちなんかも参加していた。
本当は地下4階より下も捜索したかったようだが、それは現実的ではないと判断された。
そこから下はかなり手強いモンスターが出没し、シエラやマスター・エルザでさえソロだったらてこずる敵がわんさかと出てくるからだ。
捜索を初めて10日間が経過し、ついにマスター・エルザは白蛆追跡の打ち切りを発表した。
それと同時にダンジョンは再び解放されて、冒険者がこれまで通り探索に励んでいる。
今のところ白蛆発見の報告はないし、白蛆に殺された形跡がみられる冒険者も発見されていない。
もちろん死者は毎日のように出ているので、それが白蛆の仕業なのか、はたまたモンスターの仕業なのかもわからない。
つまり、白蛆はダンジョンのモンスターの一体として認識されるようになった。
「狩り殺しても魔石一つでない敵だがな……」
セシリーは最後まで悔しそうだった。
たぶん、同国人として自分の手でケリをつけたかったのだと思う。
あまり過去を話したがらないから詳しいことはわからなかったけど……。
♢
俺の自室にシエラの高笑いが響いていた。
「ふはははははっ、人の刻限は終わりを告げた。これより魔性の時が始まるのだ!」
「や、やめて……」
俺は怯えながら後ずさる。
「絶望せよ! そして抗うことなくその血を差し出すのだ。ふははははっ!」
シエラが俺のシャツをはぎ取った。
「キャーーーー」
「我が目を見ろ、この赤き瞳を受け入れて闇に酔いしれるがよい」
怪しく光る
俺は力を抜いてシエラに身を委ねた。
そしてシエラは俺の首に噛みつく……ふりをする。
首筋には俺が魔法で作り出した輸血用血液が塗ってあるのだ。
ペロペロペロ……。
「どお? 美味しい?」
「あ、バカ、もう少し余韻を楽しませてくれ」
「ごめんごめん…………ああっ……私の血に闇が侵食する……」
「ふふふ、今宵はそなたのすべてを貰い受けるぞ」
俺とシエラはヴァンパイアごっこの真最中だ。
10日間も白蛆探索を頑張った慰労で、シエラのリクエストを聞いてあげているわけだ。
最初はどうかと思ったけど、やりだしたら俺も楽しくなってきた。
だけど、ペロペロされると変な気持ちになっちゃうな。
この後はセシリーとマスター・エルザのマッサージも控えている。
マスターはともかくセシリーにマッサージをしてあげるのは楽しみだ。
久しぶりに超ド級のお胸様が拝めるんだもん。
マッサージオイルをだしてシロースペシャルにしてあげようっと!
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