第59話 マスター・エルザ
翌日、ルイスちゃんは俺の愛情がたっぷり詰まったお弁当を手に帝都ルルサンジオンへと帰っていった。
しばらく会えないと思うと寂しくなるが感傷に浸っている時間はない。
ギルド職員到着に備えて準備しなくてはならないことはたくさんあるのだ。
新たなゴーレムの作製、ゲストハウスの改装などを日々精力的にこなした。
センスはない俺だけど、シエラがデザインを考えてくれたのでお洒落な仕上がりになった。
シエラのインテリアは簡素ながらどことなく品性と落ち着きがあるのだ。
「シエラってもしかしていいとこのお嬢様?」
「む……そんなことはない……」
否定しているけど動揺が激しかったから、きっと良家の子女なのだろう。
本人は隠したがっているようだったから追及はしなかった。
でも、立ち居振舞いを見ればある程度わかっちゃうよね。
実家が客商売をしていたからそういうところは目敏いのだ。
18日間も創造魔法に明け暮れたから俺のレベルはまた上がったぞ。
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創造魔法 Lv.13 (全カテゴリの製作時間が12%減少 クオリティアップ)
MP 2536/2536 (MP回復スピードアップ 2MP/分)
食料作製Lv.11 (作製時間22%減少)
道具作製Lv.10 (作成時間20%減少)
武器作製Lv.2 (作成時間3%減少)
素材作製Lv.8 (作製時間15%減少)
ゴーレム作製Lv.9(作製時間22%減少)
薬品作製Lv.5 (作製時間9%減少)
修理Lv.3 (作製時間5%減少)
魔道具作製Lv.5 (作製時間9%減少)
その他――
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レベルアップに伴う特筆すべきボーナスはMPの回復量が上昇したことだ。
これまでは毎分1MPの回復だったけど、今では2MP回復するようになった。
1日休めば2880回復してくれるので助かる。
それから、しょっちゅうシエラのために血液を作製していたので薬品作製のレベルが上がっている。
ゴーレムもジャニスに破壊されたシーマを二体補充したり、新たなニョロを増産したおかげでレベルが上がり、新型のゴーレムを作り出せるようになった。
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作製品目:ウッドゴーレム ハリネズミ型(Lv.1)
カテゴリ:ゴーレム作製(Lv.9)
消費MP 178
説明:兵器用のウッドゴーレム。パワーと防御力はないが機動性に優れる。全身に生えた鉄針を飛ばして攻撃をする。全長40センチ。
作製時間:48時間
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中距離攻撃特化型の兵器みたいだな。
木製のボディーに鉄の針が何本もついている。
針の長さは20センチ~12センチくらいでボールペンよりも太い。
砂浜で試し撃ちをしてみたけど、有効射程は50メートルくらいだった。
こいつにはハリーの名前を与えている。
「どう、シエラ?」
「私ならトゲを避けて踏みつぶせる」
小さな胸を張ってシエラが威張った。
「シエラが強いことは知っているよ。客観的に見て実用に足りるかを知りたいの。変な奴とかモンスターを撃退できるかな?」
「そうよな……並みの相手なら問題なく倒せてしまうだろう。特にこいつは小さいから目立たない。死角から攻撃を受ければひとたまりもないはずだ。シローの犬と組み合わせれば戦術にも幅が出るだろう」
犬ってワンダーシリーズのことね。
「だったらシエラがワンダーとハリーに戦闘を指導してよ」
「私が? そうよのぉ……」
あんまり乗り気じゃなさそうだ。
「お礼はちゃんとするからさ」
これからは流れ者や冒険者たちがたくさんこの島にやってくるのだ。
用心に越したことはない。
「お礼ねぇ……」
「何でも好きな料理を作ってあげるよ」
「ふーむ……」
ダメか。
「じゃあ、好きなお酒を作製してあげる」
「酒ねぇ……」
シエラはあんまり物に対する執着がないんだよなぁ。
「じゃあ……また兄妹ゴッコでもして遊ぶ?」
あれから何回かそういう雰囲気に持って行こうとされてたんだけど、俺が渋っていたんだよね。
「ふむ……具体的に何をしてくれるか説明してくれ」
何気ない様子を装っているけど食いついてきたな。
「そうだなぁ……今から肩車で岩屋まで連れて帰ってあげるでしょう」
「肩車……」
「それから、ご飯の時は優しくお給仕してあげる。望むんだったら食べさせてあげてもいいよ」
「そ、それで……?」
「寝るときは添い寝して、お話を聞かせてあげるよ。俺の故郷の昔話とか」
「……る」
る?
「しゅりゅ。シエラ、お兄様のためにゴーレムを指導して最強のパーティーをつくりゅ!」
やってくれる気になったようだ。
「ありがとうシエラ、今日のお昼はシエラの大好きなオムライスにしようね」
「うれしい!」
2か月後には誕生日を迎えて43歳になるって言っていたけど、これでいいのかな?
でも、シエラはこういう愛情に飢えているのかもしれない。
人間とヴァンパイアという差もあるだろうしね。
ここにいる間はなるべく優しくしてあげようと思った。
岩屋へ戻るとシーマシリーズを除く全ゴーレムたちを集めた。
「みんな聞いてくれ。今日からこのシエラがお前たちの指導教官になるからな。シエラの言うこともちゃんと聞くように」
これまでゴーレムたちはシエラの言いつけは無視していた。
だけどそれじゃあ戦闘訓練はできない。
これで言うことを聞くようになったかな?
「ワンダー1号、一歩前へ出ろ」
シエラの命令にワンダー1号が前に出た。
どうやらシエラの言うことも聞くようになったらしい。
「これで大丈夫かな?」
「うむ。後はゴーレムの学習能力次第だ」
ゴーレムたちはトライ&エラーを繰り返していろいろ憶えていくので大丈夫だろう。
それだからこそ学習したゴーレムを失いたくない。
修理で直せるものはきちんと直してやらないとね。
ただ、新しいゴーレムも古いゴーレムと接触することで学習内容を継承できるということがわかっている。
全滅さえしなければ憶えたことは受け継がれていくので使い勝手はどんどん良くなっているのだ。
シーマシリーズも5号まで再編成して、今はジャニスの乗ってきた小型船を引っ張る練習をさせている。
こちらの方も日々上達しているようだ。
そろそろ島と島の間くらいなら航海ができるんじゃないかな。
ポッポーを探索に出して他の島を探させようと考えているところだ。
何があるかわからないから緊急避難的につかえる隠れ家にしたいんだよね。
そんな計画も密かに進行させていくつもりだった。
さらに二日後、島を巡回中のポッポーが三隻の船団を見つけた。
ついにギルド職員たちを乗せた船が到着したようだ。
三日月海岸にでて沖の方を注視していると、小型船が海上に下ろされ上陸準備をしている様子がよく見えた。
あれこれと指示を出している大柄な女性が見える。
あれがマスター・エルザかな?
顔はよくわからないんだけど、オレンジ色の髪の毛が南国の日差しを浴びて光っている。
突然、マスター・エルザらしき人が舷側の上に飛び上がり……そこから海へと飛び降りた。
海に入ったのかと思ったのだがそうではない。
なんと、高速で海の上をこちらに向かって走ってくるではないか!
「右足が沈む前に左足を前に出しているのじゃ。せわしない移動法じゃのぉ」
シエラは冷静に観察しているけど、そんなのはエリマキトカゲくらいしかできないことだからね!
バンッ‼
砂浜から15メートルくらいの場所で、その人は思いっきり海面を蹴り、一気に浜まで跳躍した。
そして、俺の前にずいっと体を近づける。
ぎょろりとした大きな目玉で見つめられるとコチラの心の奥まで覗かれているような気分になった。
「アンタがシロー・サナダだね。アタシはエルザ・バーキンだ。ギルドの支部長を任された者だよ。話は聞いているね?」
近くで見るとオレンジ色の髪の毛には白いものも混じっていたけど、とてつもない覇気をまとったおばあちゃんだ。
実年齢は70を超えるそうだけど、どう見ても50前くらいにしか見えない。
「はい。シロー・サナダです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼むよ。さっそく島の案内を頼みたいんだがね」
お茶などでのんびりもてなされるよりも、片付けるべきことを先に終わらせたいタイプと見た。
「それでは調査隊の兵士が使っていた宿営地、その後にダンジョンまでの道のりをご案内しましょう」
マスター・エルザは俺を見て目を細める。
「ほぅ……、いいね。アンタみたいな男は嫌いじゃないよ!」
マスター・エルザは満足そうに頷いて腕を組んだ。
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