第39話 設備の充実

 この日は回廊を200mほど進み、全部で12の部屋を調べることができた。

怪我人もなく、俺も報酬をたくさんもらえたんだけど困った事態も起きている。

ダンジョンを出てから気がついたのだけど、ワンダー1号が少し足を引きずりながら歩いていたのだ。

負傷したのは右後足のようで、ぎこちない歩き方をしている。

戦闘の際に受けた攻撃のせいであることは明らかだ。

さっそく修理してやろうと思い自室へと籠った。


「ワンダー1号、そこへお座り」


 犬のようにペタンと座るワンダーの前で「修理」魔法を発動する。


####


修理対象:メタルゴーレム 犬型(小)

消費MP:720

修理時間:10分


####


 消費MPが大きくなることは予想していたけど、720もかかるとは思ってもみなかった。

今はワンダー3号を作製中でMPは416しか残っていない。


「ごめん、1号。修理してやりたいけど3号ができるまでは無理だよ」


 作製を始めて既に半日経っている。

今さらキャンセルするのはもったいないので、1号は自室で待機させておくことにした。

気になってイワオたちも調べてみたんだけど、ほんの少しだけ補修は必要なようだ。

特に最前列中央にいるイワオ2号の損傷が大きい。

目立った故障はないのだけど、細かい調整はしておいた方がよさそうだった。

壊れる前にメンテナンスを定期的にやっておいた方が消費MPも少なくて済みそうだ。

これからは日にちを決めて定期的にメンテナンスをすることにした。



 ノックの音が聞こえてグラム様が声をかけてきた。


「男将、コカトリアスの肉を調理場に運ばせておいた」


 ワンダーが倒したコカトリアスだが、モンスターなのに食用になるそうだ。

味は鶏肉とほぼ変わらないとのことだった。

極彩色の羽は飾りとしての需要があり高値で取引される。

都では帽子飾りにコカトリアスの羽を使うのが伊達女だておんなの流行になっているそうだ。


「ありがとうございます。今夜はから揚げにしましょうね」

「カラアゲ?」

「フライドチキンに近い感じかな。特別な調味料を使った料理なんです」


 魔法で醤油をはじめとした材料は作ってあるので、さっそく漬け込むことにしよう。


 コカトリアスの肉を切り分けて、醤油、酒、すりおろしたショウガを合わせたものに漬け込んだ。

30分くらい漬けてから、そこに片栗粉を投入してよく混ぜる。

後は油で揚げるだけだ。


「お夕食の準備ができましたよぉ!」


 廊下で声を張り上げると、士官たちはぞろぞろと部屋から出てきた。


 今日も岩屋の前に揚げ油を用意してある。


「おっ、先日食べさせてもらったテンプラかい?」

「ちがいます。今日はから揚げという料理ですよ。これも揚げたてを食べてもらいますからね。ゴクウ、皆さんにスープをお配りして」


 ゴクウたちにはコカトリアスの骨を焼いて出汁をとった、野菜のスープを配ってもらった。


「ああ、しみじみとする美味さだな」

「鶏ガラのスープがよくでている」


 コカトリアスは普通の地鶏なんかよりも、もっと濃厚な出汁がでる。

これを野菜のうまみと合わせると最高のスープになるんだ。

あ、コカトリアス出汁のラーメンを作ってみようかな。

地力が強いから、あっさりとした醤油系が合いそうだ。

チャーシューじゃなくて炭火で焼いたコカトリアス肉とネギとの相性がいいだろう。


「どうした、男将? ニヤニヤして……エッチなことでも考えていたのか?」


 士官の一人がセクハラをかましてくる。


「違いますよ。新しい料理について考えていただけです! 完成してもエレンさんには食べさせてあげませんからねっ!」


 俺はべーっと舌を出しながら肉を油に投入した。


 から揚げもやっぱり大好評でまた食べたいとの評をいただいた。

コカトリアスはダチョウくらいはある巨大な鳥なので肉はまだ大量にある。

余った肉は適当な大きさに切り分けてから氷冷魔法で凍らせてもらい、貯蔵庫にしまっておいた。

これで当分肉には困らないな。

みりんはないけど、酒も砂糖もあるから次は照り焼きもいいな、なんて考えている。



「ところで明日の調査なのだが」


 デザートを食べ終わる頃になってレインさんにこう切り出された。

俺はすかさずに答える。


「それなんですが、探索のお手伝いはもう勘弁してください。さっき調べてみたらイワオの調子もよくないようなのです」


 1号の腕の上げ下ろしがほんの僅かだが他のゴーレムより遅くなっている。


「そうか……困ったな……」

「ダイアン、無理を言ってはいけないよ。ここまで順調にこられたのは男将のおかげなんだから。一般人、ましてや男の男将にダンジョンへ来てもらっていることの方が異常なのだ」


 みんなの悲しそうな顔につい流されてしまいそうになったけど、俺は何とか思いとどまった。


「ごめんなさい。やっぱり自分に戦闘は無理なのです」

「いや、これまでの協力に感謝する」


 グラム様の感謝の言葉に、その場にいた士官の皆が頷いてくれた。


「恩に報いるためにも、私たちにできることがあれば何でもしてやるからな」


 冗談でお婿さんにしてくれますか? と聞こうと思ったけど、真面目なグラム様は本気にしてしまうから止めておいた。

ましてや酔っぱらってキスをしてしまっているしな。

これ以上変な言動は慎むべきだろう。

後でそっとあの晩のキスを許してくれるようにお願いしておこう。


「なにか言ってみてくれ。なんなら食事の後片付けをしようか?」


 貴族のグラム様が?


「それは、ゴクウたちがやってくれるから大丈夫です」

「だったら他になにかないか?」


 いきなり言われてもエッチなお願いしか思いつかないぞ。

……そうだ!


「じゃあ、大工仕事のお手伝いをしてもらってもいいですか」

「もちろんだとも。具体的には何をすればいい?」

「シャワーというものを作りたいのですが、ご存知でしょうか?」

「シャワー?」

「お風呂に取りつける道具です。細い水流が何本も出てくる装置でして、具体的に説明しますと……」


 自分が考えているプランをグラム様たちに説明した。


「というわけで桶に小さな穴をあけたいのです」

「それだったらキリを使って開ければいいな。道具箱にキリもあったはずだ」


 それはありがたい! 

作る物が多すぎてキリはまだ作製していなかったんだよね。


「貸していただくことはできますか?」

「もちろんだ」


 グラム様たちの協力ですぐに穴の開いた桶が出来上がった。

みんな魔法で身体強化してあるから穴がホイホイ開いていくんだよ。

何度も調整して、ちょうどいい量のお湯が流れる穴の大きさを決めた。


「ありがとうございます。これで明日からシャワーが使えますよ」

「うん。我々はもう今日の風呂は済ませたからな、先に男将が使ってみてくれ」

「よろしいんですか?」

「ああ。男将に使ってもらうためにみんな頑張ったのだ。なあ?」


 士官たちも快く同意してくれた。


「それでは遠慮なく今夜使わせてもらいますね」


 夜のお風呂が楽しみになってきた。

今夜はお気に入りの薔薇の匂いがするシャンプーを使ってみようかな。

これは作製するのにも消費MPが高い高級品なのだ。

ちょっとした贅沢がしたい日の特別用にしている。


 大き目の桶から流れ出るシャワーが心地よく肌を刺激していく。

お湯はたくさん用意してあるので途中で切れる心配はない。

これなら他の人たちも喜んで使ってくれると思うぞ。

シローの宿にまた一つ名物が増えたというものだ。

考えてみれば三体のイワオがせっせと湯を沸かし、水を混ぜ、桶にお湯を汲み上げてようやく可能になる贅沢な装置だ。

道具作製で給湯器なども作れるのだけど、今は他のものの作製で忙しい。

とりあえずはこれでいいと思った。

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