第16話 デザートを召し上がれ

 セシリーが岩屋にやってきてから六日目の朝を迎えた。

最初は動けないほどに消耗していた彼女だったけど、今ではお粥も残さないようになったし、固形物も食べられるほどに回復していた。


「さて、今朝も綺麗な包帯に付け替えようね」


 朝のお楽しみターイムッ!! ではなくて、医療活動だ。


「うん。だけど、もう傷口は塞がったと思う。身体の痛みは取れているし、むしろ痒くなっていてたまらないよ」


 半信半疑で包帯を外してみると本当に傷は治りかけていた。

身体強化魔法は半端ないね。


「すごい……」

「うん、この通りだ」


 セシリーが両腕で力こぶを作って見せる。

ちなみに彼女は全裸だ。

力こぶだけじゃなくて大きなお胸様も一緒に持ち上がった。

俺の気持ちまで一緒に持ち上がってしまう。

ありがとう神様、世界は素晴らしい。


「シローには本当に世話になった。なにかお礼をしないといけないな」

「お礼なんて別にいいよ。セシリーは海賊だけど、俺には何もしないって約束してくれたし」

「ふっ、シローは金目のものなんて持っていそうになかったからな。貧乏人は襲わない主義なのさ」


 セシリーにもポリシーというものがあって、狙うのは金持ちだけ、水と食料は奪わないが絶対の掟だそうだ。


「そうだなぁ、金銀財宝とまではいかないが、多少の金なら隠してあるからそれを分けてやるよ。それとも、どこか行きたいところでもあるかい? 船を調達したら好きなところに送り届けてもいいけど」


 それは嬉しい申し出だけど、今は島を出るつもりはない。

しばらくはここでのんびりと創造魔法の修行をするつもりだった。


「だったら……俺をセシリーのお婿さんにしてくれる?」

「バ、バカッ! 本気にするじゃないか。海賊の婿なんて誰がなりたがるんだよ……」

「あはは」


 セシリーは生真面目だから反応が面白くて、ついこの手の冗談を言うようになってしまった。

確かに海に出た海賊を待って暮らすような生活はちょっと耐えられないかもしれない。


「そんなことばかり言ってると押し倒してしまうぞ」

「できないくせに」


 セシリーからは指一本触れてこないのだ。

真面目な彼女らしいけど、俺にはそれがちょっともどかしくもある。

少し強引に迫られたら、受け入れる準備はあるのに……。

だからと言って俺からアプローチをかけられるほどの度胸もなかった。


 俺はいいことを思いついた。


「そうだ! だったらさ、俺に船の操り方を教えてよ」

「船? 船員は女の仕事だから誰も雇ってはくれないぞ。大抵の船では男人禁制だ。私の船でもそうだった」

「そうじゃなくてカヌーとかの小さな舟のことだよ。釣りとか、島での移動に役に立つからさ」


 大型船の乗組員になるつもりはないし、ましてや海賊になるつもりもない。

麦わら帽子は欲しいけど、海賊王になるつもりはなかった。


「そういうことか。シローはカヌーを持っているのか?」

「まだ」


 いずれは作るつもりでいる。


「だったら私が作ってやろう。それくらいのことはしないと恩返しとはいえないからな」

「でも……」

「ナイフを貸してもらえれば、1日で作って見せるよ」


 身体強化魔法やその他の属性魔法を応用すれば、比較的楽に作れるらしい。

だったらお願いしちゃおうかな。


「本当に、体の方はもういいの?」

「このとおりだ!」


 わかった……、わかったから胸を張るのはやめてくれ! 

俺のモノがはち切れてしまう。


 セシリーと話し合って、外の様子を見に行くことにした。


「本当に奴らはいないのかな?」

「おそらく私を置いて島を離れたのさ。もし殺す気なら回復するのをわざわざ待つのはおかしい。あの岩屋に攻めてきたはずだからね」


 言われてみればもっともな話だ。

それなのに六日間も岩屋の中で怯えていた自分が情けない。

いや、これでいいのだ! 

異世界で生き延びるには石橋を叩いて、蹴って、それから命綱をつけて渡るくらいの慎重さが必要だと思う。


 砂浜まで出てみたが、沖合に泊まっていた海賊船の姿はどこにもなかった。

念のために棍棒を装備させたイワオたちを連れてきたけど無駄だったかな。

セシリーはカヌーを作るための木を探しに行ったので、俺は久しぶりに釣りをすることにした。

二体のストーンゴーレムに守られて釣りをするなんてビップのようではないか。

……そんなことない? 

うん、そんな雰囲気じゃないな。

南の島に佇む石像というのはもっとのんびりとした雰囲気を醸し出す。

ほら、イースター島のモアイみたいな感じだ。

居心地のよさそうな磯の岩を選んで座り、大海を臨みながら釣り糸を垂れる。

久しぶりの屋外に気分も冴え冴えとする思いだった。



「シロー、いい丸太が見つかったぞ」


 振り返るとセシリーが巨大な丸太を担いでいた。


「バ、バカッ! 傷口が開いたらどうするんだよ!?」

「平気、平気。アタシもここで作業をするよ」


 ドスンと丸太を放り出して、セシリーはナイフを取り出した。


「どうする気?」

「この丸太の中身をくりぬいて、カヌーをつくっていくのさ」


 それは気の遠くなるような作業になるんじゃないのか?


「ΓΔΧ¶ΣΓΔΧ¶Φ」


 これは呪文かな? 

セシリーは火炎魔法を使って丸太をこんがりと焼き始めた。

手のひらから噴出される火炎が丸太の表面を黒く焦がしていく。

しばらく丸太を焼いていたと思ったら、今度はナイフを使って焼けた部分を削り出していく。

きっと炎で焼いて削りやすくしたのだろう。

身体強化魔法も使っているようで、ナイフはどんどん木屑を量産していった。

これなら本当に一日でカヌーを作ってしまうかもしれないな。


 集中しているセシリーの邪魔をしないように、俺は釣りに戻った。

同時に夕飯の材料も食料作製で作り出していく。

今夜のおかずは魚のスープだ。

料理をしなくても魚のスープをそのまま作成できれば早いのだが、俺の食料作製レベルではまだ無理みたいだ。

仕方がないからタマネギ、ニンニク、トマト、小麦粉などの材料を順次作成して、自分で料理するしかない。

今日はネメスという白身魚が釣れた。

大きさは40センチくらいあるので二人で食べても十分食いではある。

切り身にして塩をふり、それに薄く小麦粉をつけた。

オリーブオイルを鍋にしき、ニンニクを投入。

いい香りがしてきたら粉をつけた魚を入れて表面を焼いていく。

そこに刻んだタマネギを入れて一緒に炒め、タマネギが透き通ってきたら水を入れて煮込んでいくのだ。本当は白ワインがあればもっと美味しくなるんだけど、これもレベル不足で現時点での作製は無理だ。

食べる直前にざく切りのトマトを入れて、塩で味を調えたらスープの完成となる。

作り置きしておいたパンを添えれば立派な夕食になった。


 スープ鍋を持ってセシリーが作業をしている海辺までいった。


「アナタぁ、ご飯ができましたよぉ」

「だ、だ、だ、誰がアナタだ。アタシたちは夫婦じゃないだろっ!」


 お約束通りのセシリーが可愛くて、いつものやり取りをしてしまった。


「冷めない内に召し上がれ。今日のは自信作なんだ」

「わ、わかった。いただくよ……」


 憮然として岩に腰かけるセシリーにスープをよそった皿を渡してやった。

お腹が空いていたらしくセシリーはガツガツと食べ始める。


「どう、美味しい?」

「う、うん」

「お代わりもあるからね」

「ああ……」


 セシリーの様子が変だ。


「どうしたの?」

「な、なんでもない!」


 もしかして、料理ができる男に惚れちゃったかな? 

もう一押ししてみようか……。


「セシリー……」

「ん?」

「デザートに俺も食べちゃう?」

「…………ぶっ!」


 セシリーが鼻血を出して倒れちゃった!? 

純情セシリーはイワオたちが担いで岩屋まで運んでくれた。


 セシリーの看病をして暮らした間にレベルが5に上がったぞ。


####


創造魔法 Lv.5

取得経験値:398/1000

MP 278/278

食料作製Lv.3(EXP:361/500)食料作製時間5%減少

道具作製Lv.3(EXP:194/500) 道具作成時間5%減少

武器作製Lv.1(EXP:84/100)

素材作製Lv.1(EXP:43/100)

ゴーレム作製Lv.1(EXP:216/300)

薬品作製――

その他――


####


 レベルは上がったんだけど、薬品作製はまだできないまんまなんだよね。

期待していたのに残念だ。

もう少しレベルが上がらないとダメなのかな? 

それとも、何かしらの条件があるのだろうか? 

ただ、嬉しいこともあって、パンの個別作製レベルが2になっていた。

きっと毎日作っていたからだね。

おかげでパンの作製にかかるコストがMPは6から4に、作製時間も5%減少になっていた。

食料作製レベルの補正と合わせると10%の短縮だ。

これまでは1時間かかっていたけど、これからは54分で焼きあがるぞ。

もしかして、このままレベルが上がれば数秒で焼けるようになるのかもしれないぞ。

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