第15話 生真面目な海賊

 セシリーと名乗った女海賊は食事も摂らずに三日三晩、こんこんと眠り続けた。

ずっと警戒を続けていたけど他の海賊たちは姿を見せていない。

それでも気弱な俺はもう一体ストーンゴーレムを作った。

1号は自宅警備、2号には食料採集や水汲みをしてもらうことにしたのだ。

イワオが2体いれば防衛能力も倍になるというものだ。

ゴーレムを作ったので創造魔法のレベルは4に上がったけど、MPが178まで上昇した以外の変化はなかった。


 そろそろセシリーも起きてくれないだろうか? 

ずっと寝たままだけど、呼吸は規則正しいので少し安心している。

顔色も幾分かよくなってきたような気がするんだよね。

ずっと食事をしていないから、急に固形物は食べられないだろう。

そう思ってマンゴーをイワオ2号に採取させておいた。

これを素材にしてマンゴージュースを作ってあげようと思っているのだ。

食料作製魔法をつかえばMP1を消費するだけで、時間も3分で出来てしまう。

ミキサーとか低速ジューサーが必要ないのは便利だよね。

陶器のコップだって作製済みだ。

だてに四日間も引きこもっていなかった。


 朝の光の中で改めてみるとセシリーは中々の美人さんだ。

スタイルだってとてもいい。

胸の大きさだけならクリス様さえ超えるほどのボリュームだった。

推定Gカップか……。

なんでそんなことを知っているかって? 

包帯を取り換える時に見えてしまったのだ。

もちろん邪な気持ちはない。

医療行為だ! 

……と言っておこう。


 悶々とした気持ちを落ち着けるために髭を剃ることにした。

イワオが汲んできたバケツの水を使い石鹸を泡立てていく。

ジョリ、ジョリ、ジョリ。

泡をつけた髭を剃り落としていくと気分もさっぱりしてくる。

鏡には俺の顔と部屋の様子が映っていた。

そして鏡越しにこちらを凝視しているセシリーと目があった。


「気がついたの⁉」

「す、すまない! 覗くつもりはなかったのだ!!」


 なぜかセシリーは顔を真っ赤にして視線を逸らしてしまった。

いったい何を恥ずかしがっているのだ?


「覗くって何を?」

「む、ムダ毛の処理をしているなんて思わなくて……」


 ムダ毛って……髭剃りのこと? 

えーと、地球なら男の子が偶然に女の子が脇毛の処理をしているところを目撃してしまった感じかな。

そういえば顔の半分にまだ石鹸がついたままだ。


「ちょっと待っててね。残りの髭も剃っちゃうから」

「いや、バッ、女の前でそんなことを……」

 

ワイルドな女海賊に見えるけど、もしかして純情なワル?

 

「見たかったら見てもいいよ」

「そ、そんなこと……」


おっ、照れてる、照れてる。

恥ずかしがるセシリーの反応を楽しみながら残りの髭を剃った。



「おまたせ。はい、マンゴージュースができているよ。久しぶりの食べ物だからゆっくり飲んでね」


 コップを手に持たせ体を横から支えてあげた。


「すまない……」


 一口飲んだセシリーがこちらに笑顔を向けてきた。


「うまい。本当にうまいよ……。体に染み渡っていく感じがする」

「うん。ゆっくりでいいからね」


 セシリーは噛みしめるようにジュースを少しずつ飲み下したけど、疲れたように溜息をついた。


「傷が痛むの?」

「ああ、腕を上げると少しな」


 本来なら死んでもおかしくないほどの傷だったんだ。

それが三日で意識を取り戻したんだから、やっぱり魔法はチートだと思う。


「俺が飲ませてあげるから、無理しないで」

「い、いや、それは……」

「怪我人は素直に言うことを聞きなさい」


 頬を染めるセシリーを手伝って、マンゴージュースを全部飲ませてあげた。


「本当にありがとう。そういえばまだ名前を聞いていなかったな。命の恩人の名を聞かせてくれ」

「俺はシロー、シロー・サナダっていうんだ」

「シローか……、可憐な名だな」


 そういう意見は初めて聞きました。

士郎のどこが可憐なんだよ。

限りなく男臭い名前だぞ。

本人はヘタレだから、名前負けしている気がしてコンプレックスでもあるのだ。


「口説いてるの?」

「そ、そんなことはない! 本当にそう感じただけだ。他意はない!」


 セシリーは大慌てで否定していた。

あんまり動揺させるとせっかく閉じた傷口が開いてしまうかもしれないな。

真面目な海賊をからかうのは自重するか。


「冗談だよ。さあ、横になって。もう少し眠った方がいい」

「う、うん」


 身を固くするセシリーの背中に手を回して、横になるのを手伝った。

久しぶりに飲んだり喋ったりして疲れたのだろう。

セシリーはすぐに眠りについた。


 さて、これからどうしよう。

食料を補充したいけど海賊がいるかもしれないから、まだ外に出る気にはなれない。

採集はやっぱりイワオ2号に任せるか。


「2号、果物を取ってきてくれ。それからこれくらいの太さの丸太があったら、それも持って帰ってきてね」


 丸太は棍棒の材料だ。

もちろん俺ではなくイワオたちに使わせるためのものだ。

2号は命令を聞くとすぐに岩屋から離れていった。

武骨なゴーレムたちだけど素直に言うことを聞いてくれる姿を見ていると可愛く見えてくるから不思議だ。

これで果物は何とかなるな。

後はお粥でもつくろうか? 

胃に負担のないものというとそれくらいしか思いつかない。

他に怪我人に必要な物ってなんだろう? 

そこで俺ははたと思いついてしまった。

セシリーはまだまだ動ける状態じゃないもんな。

尿瓶(しびん)……必要だよな……。

検索をかけると道具作製のカテゴリで見つかった。


####

作製品目:尿瓶(Lv.1)

カテゴリ:道具作製(Lv.1)

消費MP 22

説明:陶器で出来た尿瓶

作製時間:1時間(レベル補正で5%短縮)

####


 レベル補正で3分短縮されるから57分で出来るのか。

念のために作っておくとしよう。

この調子でレベルを上げていけば、やがては様々な物をあっという間に作り出すことも可能だろう。

なんだか夢が広がるな。

ウキウキしながら魔法で尿瓶をセットした。


ポーン♪

尿瓶 作製終了まで00:00:00尿瓶が完成しました。

出現場所を指定してください。


 セシリーのお股に出現! 

なんてお下品なことはいたしません。

目立たないようにベッドの下に置いた。


 この三日間でお皿やタオルや食料など、生活必需品をいろいろ揃えた。だから俺のステータスはこんな感じになっている。


####


創造魔法 Lv.4

取得経験値:372/500

MP 156/178

食料作製Lv.3(EXP:8/500)食料作製時間5%減少

道具作製Lv.3(EXP:151/500) 道具作成時間5%減少

武器作製Lv.1(EXP:54/100)

素材作製Lv.1(EXP:43/100)

ゴーレム作製Lv.1(EXP:216/300)

薬品作製――

その他――


####


 もうすぐレベルも5になる。

5ってキリのいい数字だよね。

だから、もしかしたら新しい展開があるんじゃないかな、なんて思っているんだよ。

薬品作製ができるようになったり、他のカテゴリが出現したりね。

それからゴーレム作製に関しても気にはなっている。

あと一体イワオを作ればゴーレム作製のレベルだって2に上がる。

そうなれば違う種類のゴーレムも作れるようになるかもしれない。

ただ、イワオを一体作るには48時間の製作時間が必要になる。

その間は他に何にも作ることができないので、ついつい後回しになっているのが実情だ。

やっぱり食料が最優先になっちゃうよ。

外へ出られないから釣りもできないし、イワオだって毎回フルーツをゲットできるとは限らないのだ。

あれこれと考えを巡らせながらセシリーのお粥をセットした。

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