第36話 自主練(菊池×山隈)
「おい、
机でうつ伏せになり昼寝をしていた俺を同じ男バレの
「……誰?」
「相変わらず寝起きの顔が酷かね……菊池たい、菊池」
俺はもともと目付きが良くなく、人相が悪い。そして、それが寝起きにやるといよいよ酷いらしい。そんな顔で教室の出入口へと目を向けた。
教室の出入口から顔を覗かせている女子が一人。ショートボブで眉の上あたりで切りそろえられた前髪。眠たそうな垂れた瞳でこちらの様子をうかがっている。
一つ下の女バレの二年生。
菊池は俺と目が合うと、ぱぁっと花が咲いたような笑顔をみせた。
「早う、行ってやれ」
真田がにやっとした顔で、俺の肩を叩き急かすように席から立たせる。そんな俺はポリポリと頭を掻きながら出入口へと向かった。
「和先輩!!」
飛び切りの笑顔で俺へと話しかける後輩。基本的に俺は人相の悪さと背の高さも手伝ってか、特に下級生達からは怖がられている。だけど彼女と同小で同じバレーボールクラブだったためか、やたらと俺に懐いてきている。
「おい、あんまり引っ付くなよ……」
「良かやなかですかっ!!」
そう言いながら俺の腕へと引っ付いてくる菊池。
「で……何のようなん?」
俺は急いで腕から菊池を引き剥がしながら尋ねる。
「今日は月曜日でしょ?私の自主練の事」
「それなら、いつもみたくLINEしてくれりゃよかろうもん?」
「しましたよ?朝から何度も」
「……あ、今日、スマホ忘れとった」
「やっぱりぃ……既読もなんもつかんはずやん」
俺は、人一倍練習熱心な菊池に、彼女が小学五年生の頃から自主練に付き合っている。今では、二年生でただ一人だけ、スタメン入りを果たすことができている。まぁ、俺との自主練の成果、と言うより、本人の生まれ持った才能と努力のお陰なのだろうが、彼女は、俺との自主練の結果だと言って聞かない。
「ごめん、俺は構わんけど、いつもの場所で良か?」
「はぁい、お願いしますっ!!」
その後、俺と菊池は他愛もない世間話しをして分かれた。
「なぁ、山隈」
自分の席に戻った俺に、真田がすかさず話し掛けてくる。
「なん?」
「お前と菊池っち、付き合いよらんっちゃんね?」
「付き合っとらんよ?なんでや?」
「いやな……最近さぁ、よく色々聞かれるとたい。二人の関係ば」
「俺と菊池のや?」
「そうそう。二人は付き合いよるんかってさ」
「ないない。俺とあいつはそんなんじゃないし、自主練だって
「亜衣ちゃんも?」
「おう、二人きりって方が少なくないかな……」
「そうやったんか」
「そうそう。お前らが思っとる様な関係じゃなかよ」
俺の言葉にまだ、納得出来ていない様子の真田だったが、予鈴を合図に自分の席へと戻っていった。
ただ、俺はその真田の話しを聞いて、自主練もそろそろ終わりにしなきゃと感じた。
「お兄ちゃん、私は今日の自主練、行けんけん」
放課後、正門前で亜衣と鉢合わせとなった。亜衣はクラスメイトと歩いており、その子達と遊びに行くらしい。
「やけんで、今日は
みー……菊池の事である。
「二人かぁ……」
「うん、二人やったらいかんの?」
「いかんっち言うかさぁ……なんか、俺と菊池の事でさ、三年の間で何やかんや噂されとるとたい」
「噂?……付き合っとるとか?」
「そう」
「お兄ちゃんは嫌なん?」
「嫌っちゅうか……菊池に迷惑やろ?」
「うーん……そげんでも無かっち思うけど?」
「いや、あるやろ?やけん、もう自主練は今日で終わりにしようって思っとる」
「はっ?」
俺の言葉に驚きを隠せない亜衣。そして、ぶつぶつと何かを呟いている。
「やめちゃいかんよ。みーはそんな噂があっても、絶対気にせんけん!!」
亜衣は俺に念を押すようにそう言うと、それじゃあと手を振り、クラスメイトと一緒に歩いていった。
その時は亜衣が何を考えているのか、そしてなんでそこまで菊池との自主練を止めさせたくないのかに気付けなかった。
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