第32話 二次元と現実と
私は絶賛片想い中である。
中学三年生。美術部所属。花の乙女。
中学一年生の時から、想いをよせている男子がいる。
同じ美術部。
ぼさぼさの髪。お洒落でもなんでもない細いフレームの普通の眼鏡。いつも眠たそうにしているとろんとした瞳。よく欠伸をしている。かっこいいわけではない。て言うか、どちらかと言うとさえない。いや、はっきり言ってさえない。暗い訳では無い。明るいし友達も多い。
そして、彼がオタクだと言う事である。いや、オタクを否定しているわけではない。オタクでもいい。でも、彼は二次元?というか、アニメやゲームに出てくるキャラに夢中であり、クラスの男子とも〇〇が~とか△△が~とか、なんだとか良く話している。まあ、その話しを盗み聞きしている私も少しやばいんだろうけどね。
それだけならまだ良い。
私の一番の悩みの種は、彼が部活でデッサンをする時に使うのが、美術部にある石膏像などではなく、自宅から持ってきたアニメのフィギュアだと言うこと。
しかも、巨乳。アニメのキャラだからだろうが、ものすごくスタイルがよい。
対して私は……
ぺたんこである。誰が滑走路だ?誰が東尋坊の断崖だ?などと一人ツッコミしてしまう程に胸がない。いやいや、まだ私は中三。これからの成長に期待できる。
だが、お母さんや二つ上のお姉ちゃんを見ていると、その期待も期待で終わりそう。そう、私の家系は……である。
はぁ~っと、大きな溜息をつき、自分の胸に手を当て、俯いてしまう。
彼と並んで歩く帰り道。
俯いた私の目に入ってきたのは、並んで歩く私達が夕日に照らされ、地面に伸びる影だった。
その影は、まるで二人が手を繋いでいるかの様に、手の部分が重なっていた。実際は友達としておかしくない距離で歩いているはずなのに。
私はその影をみて、ふふっと笑ってしまった。
「どうしたん、今村?」
「なんが?」
「いやさ、さっきから難しい顔ばしとったと思ったら、急に溜息ついたり、笑ったりしとるけんさ?何か悩みでもあるんかなっち、思ったとたい」
彼、
「なぁんもなかよ」
私は、三並に向かってもう一度ふふっと笑って見せた。
やっぱり好きだ。大好きだ。
「ねぇ、三並?」
「ん?」
「あんたって、やっぱり巨乳好き?あのフィギュアみたいな?」
「ぶふぉっ!!」
突然の質問に顔を赤らめ吹き出す三並。
「い、いや……あ、あれはあれであってあれだから……
三並は顔を真っ赤にして、私から目を逸らしている。しかも、質問の答えも最後の方はよく聞き取れないくらいに小さい。
でも聞き取れなかった訳じゃない。小さくても良いんだ。
「えっちやん」
「はぁ?!お前が聞いてきたんやろ?それは酷かよ?!」
慌てている三並に私はにへらぁっと笑いそうになるのを抑えるので必死だった。
「今度、私の事ば描いてくれたら忘れてあげる」
「えぇっ?!分かったよ……」
困っている三並に、べえっと舌を出してやった。でも、拒否されなかったのが嬉しかった。いつか、好きだと伝えたい。だけど、伝える勇気なんてない。
この関係を壊したくないから。
「約束やけんねっ」
「うん」
いつまでもこんな日が続いて欲しい。私はそう思うと、いつもよりもゆっくりと歩いてしまった。
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