第22話 今更(奏×理央)
久しぶりに部活のない日曜日。私は、同じソフト部の
そして、途中で女バスの
「てか、今日は
「きょ、今日は稲沢君、大会がありよるけん……」
遥香が横を並んで歩く柏木に話しかけている。少し慌てたように柏木がふるふると首を振りながら小さな声で答えた。私達、五人の中で百七十五センチと一番背の高い柏木が、その大きな体を縮めている。付き合い始めて一ヶ月も経っていないみたいだし、稲沢の話しを振られるとまだ照れるのだろう。
「応援に行けば良かのに」
「遠い所やけん……」
「やけんさ、落ち込んで寂しそうにしとる柏木ちゃんば慰めようって、うちらが連れ出したんよ?」
「違うやろ?前から約束しとったやんっ!!」
にやにやと笑いながら話す相原に、柏木が顔を真っ赤にして否定している。
「潤くぅん♡」
「秋音ぇ~♡」
「もうっ!!」
調子に乗った相原と花田が、甘い声を出して柏木をからかっている。それに、顔どころか耳まで真っ赤にして止めようとする柏木を見て、私達はつい笑ってしまった。
最近、気持ちが落ち込んでいた事もあり、久しぶりの休みにみんなと出掛けて良かったと思う。
「そういやさ、
皆からからかわれていた柏木から、急に話しを振られた優希が、ぎくりとした顔になった。
「そうそう、それ気になっとったっちゃんねぇ~。ココ最近、鷹取も遅刻とかせんようになっとるし?愛の力なん?」
鷹取と同じクラスの相原も興味津々な表情で優希の話しに乗ってきた。
「ち……違うしっ!!」
「そういや優希、小学生の頃、恭ちゃん恭ちゃん言って、鷹取にべったりやったし」
「む、昔の事やん?」
「昔だけかなぁ……今は?」
「い、今はしとらんしっ!!」
にやぁっと笑いながら遥香まで優希をからいはじめると、さっきの柏木に負けず劣らず、真っ赤になった顔でむきになって答えている。
「……あっ」
私は四人のやり取りを苦笑いしながら見ていたが、ふと視線を前にやると見知った顔を見つけた。
私の近所に住んでいる同級生の男子。小さな頃からいつも一緒にいた幼馴染でもあった。
その生田から、少し前に距離を置きたいと言われた。だからもう、以前の様に下の名前でも呼ばなくなったし、話す事も減った。
しばらくその姿を追っていると、生田は知らない女子と一緒に歩いていた。学校では見た事がない。多分、他校の女子だ。
私と正反対の小柄で色の白い可愛らしい感じの女子。
その女子は、生田の腕に自分の腕を絡める様に歩いており、生田も照れて、その女子を腕から離そうとしているけど、実際は満更ではない様子だ。
私は思わず持っていた荷物を落としてしまった。
互いにからかいあっていた四人が、荷物を落とした私に気がついたのか、こっちを見てから、そして、私の見ている先へと視線を移した。
「……あ、あれ、生田やん」
「女子と一緒やんね」
「えっ、えっ、デート?なんで……嘘やろ?」
遥香達も驚きを隠せない様子だった。そして、ちらりと私の方を見た。
私は生田とは逆方向へと走り出してしまった。荷物も拾わないで。
「ちょっ!!
遥香達の声が聞こえた。でも、止まらずに走った。走って、走って、気がついたら外に出ていた。
そして、外にあるベンチへ座った。
知らない女子と歩いていた理央。腕を組まれて、照れながらも楽しそうに。
あぁ……
だから、私と距離を置きたかったんだ。彼女が出来たから、周りからの噂で、彼女に勘違いされたら嫌だから。
さっきの生田の姿を思い出すと胸が痛む。ちくりちくりと痛んだ。そして、締め付けられる様な苦しさを感じる。
気づいたら、私は泣いていた。ぽろぽろと涙が知らないうちにこぼれていく。慌てて止めようとしても、次から次に止まることなく流れて、私の膝へと落ちていく。
「理央ぉ……」
私は理央が幼馴染だから、腐れ縁だから一緒にいたんじゃない。理央だから、理央だからこそ、一緒にいたかった、そして、たくさんお喋りして、笑いあっていたかったんだ。
私は……私は、理央が好きだったんだ。
自分の気持ちに気がついた。今更だけど気がついた。でも……気がついた時、同時に失恋をした。
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