第16話 一肌脱ごう
「知っとる?
「まじ?今月で何回目?」
「他校の子ば入れたら五回じゃなか?」
「フリーってわかった途端、みんなアタックかけ始めたけんねぇ」
「あんたもいけばぁ?前、言いよったやん?カッコイイって」
女子の一部が騒いでいる。
私の兄である。
正直、家でだらけまくっている兄の姿を見ている私には、兄の良さが全く分からない。それに、兄にはずっと片想いをしている人がいる。
歩いて数分の所に住む私の一つ上の先輩。同小で学団も同じだった事もあり、大変お世話になった人で、今でも私は先輩だけど、遠慮なく奏ちゃんと呼んでいる。
二人はとても仲が良くて、まるでカップル……いや、それを通り越して夫婦と呼んでも差し支えが無いくらいの距離感だった。
でも最近、二人の様子がおかしい。
お互いに朝練のない日は一緒に登校したり、ノー部活デーの日には、キャッチボールしたり、互いの部屋を行き来して遊んだりしていけど、それがぱたりとなくなった。無くなっただけじゃなくて、なんかお互いに避けていると言うか、一方的に兄の方が露骨に避けている様に感じる。奏ちゃんの方は、喋りかけたくても、兄のそんな態度を見て遠慮してるっていうか……この前だって、うちの家の前で呼び鈴を押そうとしては、手を引っ込める、それを繰り返し、結局、帰ってしまった奏ちゃんの姿を見かけた。その時の奏ちゃんは、とても寂しそうだった。
「もう小学生じゃなかけん」
さり気なく二人の事を聞いた時の、兄の言い分である。
多分、兄の考えは中学生にもなって、お互いに下の名前で呼んだり、遊んだりする関係はおかしいし、変な勘違いされるのはダメだろ?とでも、言いたいのだろう。
えっ、今更かよ?
なんて思った。
馬鹿なんだろう、うちの兄は。そんなのに今更気づくなんて。周りの人達は、中学に上がる頃にはそうしてるよ?なんで、中三になった今頃?
それに兄は奏ちゃんの事が好きなはずである。なら、勘違いされても良いはず。逆にそれを利用して、本当に付き合っちゃおうなんて思わないのかな?
「あいつに好きな奴できた時、俺と勘違いされとるといかんやろ?」
ん?
いやいやいや、それはない。私が思うに奏ちゃんも兄の事が好きなはずである。だって、兄と接する距離と、他の男子と接する時の距離感が全然違うし、笑い方も違う。他所から見ていればすぐに分かる。だから、両想いだと思われていた兄と奏ちゃんの距離が離れたから、他の女子達が兄へ猛アピールを始めたんだ。
これは、すれ違っている?
多分、奏ちゃんは奏ちゃんで、恋愛とかに鈍感そうだし、兄も奏ちゃんと近過ぎて分からないのだ。
ぽんこつ同士。
見ていてイライラする。
兄は奏ちゃんを突き放す癖に、ちらちら気にしてるし、奏ちゃんは、そんな兄に話し掛けたくてしょうがないのに、でも兄に言われたからと遠慮している。
クソが。
私は、中学二年生、花の乙女。久しぶりに汚い言葉を吐いてしまった。
しょうがない、ぽんこつ共。この私が一肌脱ごう。昔から二人を間近で見ている私である。こうでもしなきゃ、あの二人はすれ違ったままだろうから。
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