第7話 久しぶりに(吉本×藤原)
「好きな男子に意識させるのって……やっぱりさり気ないボディタッチ?」
昼休み。私、
「……え?なんでそれば私に聞くん?」
「だって、
「付き合っとる言うか……」
「違うん?」
「……付き合っとる」
顔を真っ赤にして俯く柏木ちゃんに、それを見てにたにた笑っている
「なんね、相原って気になる男子がおるん?」
今度は私が柏木ちゃんを救う為に、質問責めしていた相原に尋ねると、急にちらちらと教室の隅の席を見始めた。その視線の先にいたのは、クラスで一番背の低い男子、高木だった。どう見ても、相原の方が背が高いし、力も強そうだ。
草食動物と肉食獣。
そんなイメージが頭の中を過ぎった。
「高木か?」
私のその一言に顔を真っ赤にしている相原。普段の元気いっぱいの女の子ではなく、恋する乙女の顔になっている。
「で、高木にさり気ないボディタッチすんの?」
「……ボディタッチはした」
「えぇっ!!」
私と柏木ちゃんは思わず大きな声を出してしまった。その声に、教室中の視線が集まる。もちろん、高木もこちらをみていた。
「ちょっちょっちょっ……まじね?」
「うん……少し前に高木休んだやん?その前の日に、倒れそうななった高木ば……私が咄嗟にだき抱えたんよ」
その光景を頭の中で想像してみた。想像してみたが、王子様がお姫様をだき抱えている姿になってしまう。
「それ……ボディタッチなん?」
私が溜息をつきながら聞くと、さらに顔を赤らめた相原がもごもごと話しを続けた。
「そ、それからね……次の日、高木んちにお見舞い行った……」
あぁ……あの日か。何やらずっと上の空で突然、部活まで休んで慌てて帰った事があった。まさか、高木のお見舞いとは……
「それから、それから?」
今度は柏木ちゃんが話しを急かしている。さすが、もう一人の恋する乙女。恋バナには目がない。
「……それだけ」
俯きながら答える相原。耳まで真っ赤になっている。
「LINE交換とかせんやったん?」
「あの時はお見舞い渡すだけで……精一杯やったんよ」
いつものはきはきとした口調はどうした?私は突っ込みたくなるのをぐっと堪えた。
好きな奴が出来ただけで、こんなに変わるのか……
柏木ちゃんも相原も、以前よりも可愛らしくなった気がする。私だけ、なんだか置いていかれている気がしてならない。かと言って、こればかりは、どうしようもない。私には特に好きな男子なんていないから。
それから私達は、取り留めのない会話をして、昼休みの終わるチャイムがなると、互いの席へと戻っていった。
部活も終わり、部室で着替えをしていると、次の日曜日に遊びに行こうと言う話しになった。
「日曜日?ごめん、その日はちょっと……」
「かぁっ……稲沢君とデートだぁっ!!」
済まなそうに断る柏木ちゃんに相原が絡みだした。少し前から相原は柏木ちゃんの恋バナに敏感なのである。
「ち、違うやん……じゅ……稲沢君の大会の応援に……」
小さな声で柏木ちゃんが答える。確か……稲沢の下の名前は
「あっ!!今、下の名前で呼ぼうとしたろっ!!なん、普段は潤と
私の危惧した通り、相原が食いついてきた。真っ赤になってしまっている柏木ちゃん。それを見兼ねた
「てかさ、羨ましいなら、あんたも
「はぁ?!なんば言いよっと?そんなん……きゃぁっ、死ぬ……」
「中田だって……最近、
「仲良くないしっ!!」
相原の呟きに大声で反論するが、形勢逆転と見た相原は追随を許さなかった。
「うかうかしとったら取られるばい?あの三馬鹿達、あげんしとるけど意外とモテるし」
「そうなん?」
驚きを隠せない中田。そして、そわそわとし始めている。無意識なんだろう。なんだかんだ言って中田も笠原が気になっているのは、見ていてわかる。普段は真面目でお堅い中田のそんな姿を見ていると、
思わず笑いそうになる。
「他校にファンが結構おるんよ?練習試合とかきゃぁきゃぁ言われとるし」
「あとうちの下級生からも手紙貰ったりしよったらしいばい?」
「うっそぉ?!え、誰?生田?齋藤?笠原?」
先程まで黙って聞いていただけの
「確かに、馬鹿だけど県大会常連チームのレギュラーやけんね……って、他校で思い出したばってん、この前、
「藤原って?」
花田の口から知らない名前が出て少し戸惑った中田と白井が、花田へと尋ねた。私と柏木ちゃん、相原、花田は同小。中田と白井の二人は違う。
「うちらの小学のミニバスのチームメイトの男子。卒業式の後に引っ越したんよ」
「今、西中でバスケも続けとるげなよ」
「なつかしいやん」
「しかもさ、あいつさ、背ぇ高くなっとたし、ばりイケメンになっとった」
「まじ?」
「うん、まじ。声掛けられても初め藤原って気が付かんやったもん」
「出会いは突然に……やんねっ!!」
白井が目をきらきらさせながらそう言うと、花田がにゃぁっとした顔をしてこちらを見ながら、話しを再開した。何をそんなににやけているのか?
「ないない。だってさ、あいつ、
「そういや、藤原って吉本ラブやったもんね」
「なん、その藤原って吉本の事が好きやったん?」
中田と白井の二人が目を輝かせながら、私と花田を見ている。
「知らんばい……そんなん」
みんなの視線が私へと集まる。私はその視線に耐えきれず横を向いた。
知らないと言ったけど、本当は知っていた。だって、卒業式の後、私は藤原に告白されたから。でも、あいつは返事はいらないと言った。そして、私が返事をする前にあいつは転校した。
「吉本っ、会いに行けば?」
「はぁ?!あんた、馬鹿なん?なんで、私が……」
「チャンスやん?まだ吉本の事ば気にしとるみたいやし」
恋バナの矛先が私の方へと向いた。やばい。このまま進むと本当に会いに行かされるかもしれない。何か話しを変えられる話題は無いものかと頭をフル回転させていた時である。
「お前ら、早う帰らんね?正門、閉めれんやろが」
先生の声が部室の外から聞こえてきた。良かった。ナイスタイミングである。これ程、先生に感謝した事はない。私達はばたばたと帰る準備を終えると先生に急かされる様に正門から出た。
「じゃあね、吉本。また明日ぁ」
「うん、また明日ね」
柏木ちゃん達に手を振り別れた後、さっきの話しを思い出した。藤原か……バスケ続けてたんだ。卒業式に見たのが最後。あの時は私と背も変わらなかった。身長が低いからと他のチームメイト達より練習を頑張っていた。でも、今は背も高くなっているらしい。あれから三年。かなり変わったんだろうな。
会ってみたいな……
ふとそんな事を思う私がいる。これは決して恋などではない。ただ、懐かしさからだと思う。それでも藤原が今でも私の事を気にしてくれている事が嬉しかった。
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