第157話 成せば成る!!

 入学から、あっと言う間に二ヶ月が経った。


 王国史の座学は、相変わらず眠い。

 領地経営学や地質解明学は、計算や測量が多くて苦手だ。

 薬草学や方陣学の基礎は、面白い。

 実践訓練は、楽しい! 。


 魔塔の集団訓練場で行われる実習科目に、相棒使い魔を組み込んだ実戦形式の訓練も多くなり、楽しい授業に張り切る皆を、小真希もリノも羨ましげに見学している。


 攻撃系は、王太子殿下レナルドの白銀鳥マグ、側近候補カーターの緋色大型犬マルス、ジン皇国皇子ロジェの風妖精アウロ、皇子従者レイモンの火蜥蜴ファイだ。


 びっくりした? 事に、ルイーゼの愛猫白猫クインが、威力の高い引っ掻き攻撃をしている。

 爪に風魔法らしきものを纏い、二センチくらい厚みのある石板を切り掻いて、真っ二つにした。


 ドヤ顔のルイーゼより、蕩けそうな笑顔の保護者レックス? が、なんだか可愛い。かも。。


「よぉ〜し、見学組。こっちで特訓な」


 ぜったい魔導師じゃなく武闘家に見える魔塔の主が、ぶっとい腕を組んで、のんびり号令をかける。


 見た目年齢が二十代。その実……幾つだろう。


 確か国王陛下が現在三十代後半で、坊ちゃん呼びされていたが、どうやら極小未熟児だった先代国王陛下の主治医を、専属で務めた多才なお方だと言う。


 幾つだよぉー、ほんとにもう。。


「返事は?! 」


「はーーい」


「はいはいはいっ! 」


 間延びしたリノと前のめりの小真希に、魔塔の主ケイトリン・マンドゥスがカクリと片方の肩を落とした。


「はいは短く、一回でいい。やり直しっ」


「はい」


「はいっ!! 」


「まぁ、ぃい。元気なのは、認めた……」


 魔塔地下の特殊修錬場に移り、リノの制御訓練が始まった。

 同席する小真希は、集団訓練に向いていないと外された為、リノの見学だ。

 実際は、威力がありすぎて、連携する前に殲滅してしまい、集団訓練にならないからだが。。


 七重の最大結界を展開した射的場で、正確に的を打つ訓練が始まった。

 結界内では、危険防止のために、発動した魔法は属性別の色が付けられる。

 火属性が赤。水属性が濃い藍。風属性が緑。土属性は土の塊。


 全属性のリノは、被害の出にくい初級のウィンドボールを打つが、大きさと威力が規格外。おまけに不安定で、蛇行していた。


「ちっと見せてみ」


 リノが嵌めているバングルを点検し、かなり疲れたため息を吐く魔塔の主。


「これでもカバーしきれないか……まぁいい。次はこっちを試して、ダメだったら複数装着するか」


「ぁの、けっこう重いと言うか。手首が痛いと言うか。身体強化しながらだと 魔力操作が……」


「同時発動は、やっぱり難しいよなぁ〜」


 リノの腕が幼児に見えるくらい、ゴツゴツと大きいバングルは、ゴーレムに似合いそうなアイテムだ。


「よし、これで行くか。ダメだったら冬季休暇返上で、居残り特訓だな」


「えええっ!!! 」


「仕方ねぇだろ。早いとこ皆と合流できなきゃ、ダンジョンに潜れねぇぞ」


 って、魔塔の主。お口が悪くなってない? 


 懐から取り出したビロード張りの箱を開け、銀色の幅広バングルをふたつ取り出した魔塔の主が、リノの両腕に嵌めた。


「わぁ、吸い付くみたいに縮んだ」


 厚みはあるが、リノの手首でも、それほど厳つくは見えない。一列に並んだ透明な石が、いい感じだ。

 自動調節は便利だなと、小真希は呑気に思う。


「制御の魔道具だ。凡人に使えば、いっさい魔法の発動ができなくなる代物だから、戒めの罰則に使われる。だから、あんまり人には見せるなよ。こいつは王族専用だしな」


 イタズラが過ぎた王子様に使うのかな。。


 なんてもの使うのよっ。と、思わなくはないが、神銀製で金剛石が嵌った腕輪は、ものすごくおしゃれだ。

 普通は片腕に装着らしいが、リノだから両腕なのだとか。。

 どんだけー。


「やってみろ」


「はい」


 初学年用の短杖を構え、で風属性の発動をするリノ。

 小真希は唇を噛んで、笑いを堪えた。


「壊! 」


 真っ直ぐに飛んで行ったのウィンドボール。思わず小真希は、拍手する。


「ほぉぉ、やればできるのか。って言うより、そこまでの魔力量だったのか。まぁ、良かった? よな」


 呆れるより感心しきりの魔塔の主。


 これでやっと集団で訓練ができると、感涙の小真希。

 あぁ、やっとだよー。


「よかったねー、リノ」


「ありがと、コマキィ」


「これで、みんなと授業が受けられる」


 感無量のリノだが、時期的に集団訓練は短そうだ。


「あと一月もしないうちに、冬季休暇だけど。がんばろー! 」


「そっかぁ、冬季休暇だった。コマキィは、家に帰るの?」


 頭から抜け落ちていたのか、リノは随分と残念そうだ。


「そうねぇ〜。いっかい村には帰りたいけど、お父様次第かな」


「村って?」


 改めて問われた小真希は、シュンと表情を曇らせる。

 ミトナイ村開拓地での生活が、懐かしい。


「…とっても、大事な場所」


「……帰れたらいいね。僕も行ってみたいかなー なんて」


 空気を読んで、話しを切り上げようとするリノに、小真希も気分を変えた。


「もし帰れたら、リノも来る? 」


「うん。行きたい!」


 ははっ、即答だ。これは是非とも、連れて行きたいと思う。

 

「リノは馬に乗れる?」


「? ううん」


 頭の上に、たくさんの疑問符が咲いている。


「うちの移動は馬車じゃなくて乗馬だから、乗れないと相乗りになるの。けっこう、きついかも」


 男の子が相乗りなんて、小っ恥ずかしいようで、リノの顔が赤く染まった。


「うーー。でも、行きたいから、乗馬の練習もしたいけど、うちには余裕ない、から……」


 修道士の収入は、一般家庭より少ないと、いつだったか小真希は聞いた気がする。

 乗馬は貴族の嗜みで、平民が習うのは御者の技能だ。学院でも乗馬の授業は、学年が上がってからだったし。。


「今週末から王都邸タウンハウスで、乗馬の練習するの。リノも来れるなら、一緒に習おう? 」


 辺境伯家の騎士団なら、身分にこだわらないし、出来ない。

 なんたって辺境伯自身が冒険者でもあるし、貴族平民とか面倒くさい区別をしないから。。


「練習したい! 乗馬ってさ、かっこいいよね」


 俄然元気になったリノが、前のめりに食いついた。


「じゃぁ、お母様に聞いてみるわ」


 盛り上がるふたりに、呆れ返った魔塔の主が割り込んだ。


「おーぃ、授業中なの忘れるなー。しっかり訓練しろ。このあとは、第三騎士団の訓練だろうが。弛むなー」


「「はーい」」


「魔道具に頼ってサボるなよ。ゆくゆくは、自分で制御できるようになれ。中級や上級の魔法は、腕輪で制御できないからな。上級に至って、お前が魔法を暴走させれば、王都くらい簡単に吹っ飛ぶ。気を抜くんじゃない」


「はい。頑張ります」


 師弟の微笑ましい交流にほっこりしていると、魔塔の主が鋭い視線を向けてきた。


「涼しい顔の。お前もだ。関係ないと安心するな」


「はひぃ」


*****

 授業が終わって楽しい放課後。

 リノも交えた特殊訓練が、始まった。


 第三騎士団訓練場で、次々と吹っ飛んでいった騎士のひとりが、着地と同時にクルリと回転して立ち上がる。


「おぉ! なんかできたぁ!」


 第三訓練場で、騎士による奇跡の回転レシーブ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る