第121話 お国の事情?
腕組みして、黙考タイムの辺境伯。
夜明けが近い今、睡魔に飲み込まれる寸前の小真希は、取り説が発動した
「コマキィ嬢、不便をかけた。食事が終われば、領城の部屋へ案内させよう。王都の
難しい顔で思案していた辺境伯は、あらかたの算段をつけたのか、薄く笑みを浮かべている。
領城に行っても目立たない端っこに閉じこもるより、誰も寄りつかない
「あの、ここに居てはダメですか? それに、どうしてわたしが王都に行くんでしょう」
意外そうに少し顎を引いて、辺境伯は悪戯っ子の様な笑みを浮かべる。
「
「大丈夫です。あ、でも、食料はください」
「分かった。この者に届けさせよう」
即答する小真希に、辺境伯の許可も迅速だ。
朝食を運んできた騎士は、辺境伯に浅く頭を下げた。
「仰せのままに。 コマキィ嬢。バルトです。お見知り置きを」
「はい。小真希です。お願いします」
随分あっさりと、今後が決まった。
「なぜコマキィ嬢に、王都へ向かってもらうのか。だったな。一番の目的は、コマキィ嬢の言うド派手な美女が、我々の認識する女性と同一人物か否かを、目視で確認してもらいたいが為だ。他にも
小真希の許容範囲で、などと言っているが。平民は貴族に逆らえない。口では頼みと言っても、命令と一緒だ。
簡単な食事を終え、辺境伯一行は領城へ帰って行った。
食料配達係の
「出発まで一ヶ月くらいかな」
思わず独り言と、ため息が出る。
ある程度雪が溶けて街道整備が終われば、一般人の行き来が始まる。それまで、ほぼ一ヶ月はかかるだろう。
「んじゃまぁ、掃除でもしますか」
『了解しました。
一ヶ月でも、ゴミ屋敷に住むのは遠慮したい。
小真希は張り切って、歩き出した。。
*****
雪を削り、特別仕立ての馬車は進む。
車輪に鋭い突起を埋め込んだ雪原専用の馬車は、非常に乗り心地が悪い。これなら魔犬に引かせたソリの方が、疲労は少ないと思われる。
狩人や伝令兵が使役する魔犬ソリの使用を、許される身分ではないと分かっていても、辺境伯は愚痴りたかった。
「これも改良が必要だな」
縦揺れ横揺れ、不意に襲う浮遊感と着地の衝撃。集中的な臀部の強打。長期間の連続乗車は、激しい痛手になるだろう。
「改良の指示を出します」
応える
「ときに閣下。コマキィ嬢は確かに、嘘はついていません。が、秘密は囲っていますでしょう。この際、すべてを吐かせて仕込めば、優秀な間者に育つやもしれません」
貴族家の家宰として、アルバンの思考は当然だ。主家の存続と繁栄を思えば、優秀な平民を囲い込んで訓練するのは正しい考え方だ。
「分かっておる。心眼石も完璧ではないゆえ、嘘さえ吐かねば強力な
他の
自家に有効と見れば、道具か家畜のように扱う
家を守る手段として扱うなら、貴族平民問わず駒のひとつでしかない。
「我らは平民の生活を統制し、安全に保たねばならないが、この世界の者ではないコマキィ嬢を、我らの政争に巻き込むつもりは無い。教会の横暴に腹を立てておるだろうに、さらに我らが利用すれば、この国を出奔するやもしれん」
この国を厭うあまり、滅ぼしにかかられては勝てる気がしない。
見かけはエリンの姿で幼く、無自覚ではあるが、宿る存在からは空恐ろしい力を感じた。それに、可愛い孫娘と同じ年齢に見える
特徴も何もない茶目茶髪の
人混みに紛れた途端、埋没して居場所も分からない平凡な娘に見える者を、できるなら駒にしたくは無い。
「それにしても、コマキィ嬢の言ったド派手な美女があの方なら、
頭が痛いと、拝聴する
重くなった空気に、辺境伯はコマキィのこれからを口にした。
「雪解けと同時にコマキィ嬢を王都の屋敷へ移し、シンプソン伯爵家の養女とする。
辺境伯の言を受けて、
「なるほど、
教会の司教が養子を迎えるのは珍しい。早くから癒しの才能を発揮した者なら、神官見習いに抜擢される。
以前なら「珍しい」と思うだけで見逃すような情報も、二度目の召喚で呼び寄せた勇者では無いかと、疑いが湧いた。
マルボロー・サー・ガイツ・バードック司教。
前王の長子に生まれながら、出生に疑惑を持たれて廃嫡された男。
正式な妃になれなかった、強欲の妾妃が残した子。
何が本当で、何が偽りなのか解明されないうちに廃嫡され、有耶無耶な裁定で司教の地位に封じられた男だ。
「詳細に、調査せよ」
駒にされ、使い潰された挙句、体良く
愚かさに輪をかけ、さらに愚かな召喚を行なったのかと聞きたいが。。
そんな疑問を持ちながら、辺境伯は命令を下した。
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