第41話 ハルトの回想Ⅱ
そんなこんなで俺たちと師匠はどんどん依頼をこなしていった。それで、外での戦い方にも慣れてきてそれなりに戦えるようになったから、今度は少し強い魔物に挑んでみようってことになったんだ。
それで選ばれたのがフォレストボアっていう魔物だった。イノシシみたいな見た目をしてるらしいんだけど、ただのイノシシよりも一回りも二回りも大きくて、特にその牙なんかは人を串刺しにできるくらい大きいっていう話だった。
最初、そんな話を聞いてちょっとビビってたんだけど、フォレストボアの攻撃自体は突進くらいしかなくて、どちらかというと防御が硬い魔物みたいだ。
それだったら何とかなるかもって思ったし、しかも、報酬も今まで受けてきた依頼の数倍はあったんだ。こりゃラッキーだなって思ったけど、その依頼には裏があった。
フォレストボアはあまりにも硬いから剣とかの攻撃じゃ倒せないっていうんだ。しかも、普通なら毒を使って倒すらしいんだけど、そうするとせっかくの高級素材の肉の価値がなくなって、報酬は実質0になっちゃうらしい。なんだよ、それ。受ける意味ないじゃないか。
でも、そこは流石師匠。シェリーの魔法を使えば毒を使わないでも倒せるって踏んでいたみたいだ。しかもきちんと魔法を当てる作戦まで考えていた。突進を避けて頭を打たせて動きを止めるって...よく思いついたよな。それとも今まで誰かやったことあるのかな?
で、実際にその作戦で戦ってみたんだけど、思ったよりあっさりと倒せてしまった。
一番最初に奴と対峙したときに俺がまず突進で狙われたんだけど、その突進が思ったよりも遅かったんだ。これなら余裕で避けられるなってくらい。なんで、ぎりぎりのところで突進を避けて、そのままの勢いで後ろの木に頭をぶつけさせた。
師匠が言うには避けるのがギリギリすぎて突進が当たるかと思ったって言われたけど、そんなギリギリでもなかったと思うんだよな。普通に余裕をもって避けたんだけど...まあ、いいや。
でも、その突進は遅いように見えたんだけど、威力はすさまじくってオレの後ろにあった結構太い木をすげえ音立てながらそのままへし折っちゃったんだ。あれは流石にちょっとビビったな。
すげえ威力だったのは確かだったんだけど、その分ソイツにもダメージが入ってて、もうフラフラになってた。そこを師匠と俺とダッドで、足を狙ったり、盾で体当たりして体勢をくずしたりとかして動きを止めたんだ。
で、その間に、シェリーが炎玉の準備をして、ソイツに炎玉をぶち当てた。硬い硬いって言われてたけどシェリーの炎玉の爆発力にはかなわなかったらしくて頭ごと吹き飛んでたぜ。流石はうちのパーティの最大火力ってところだな!
...その後で頭についてる牙が結構いい値段するって聞いてちょっとがっかりしたのは内緒だ。シェリーが聞いたら落ち込んじゃうだろうし。
倒したのはあっさりだったんだけどその後はすごい大変だった。皮は硬いし、図体はでかいし...しかも解体用のナイフなんて持ってなかったから採取用のナイフで頑張ったんだけど...まあキツかったよ。もう二度とやりたくはないね。
そんな感じで苦労している間に日が暮れてきちゃって、師匠が早く町に戻ろうって言いだしたんだ。森狼に会いたくないからって。それで俺たちは疲れてる体にムチ打ちながらなんとか帰ろうとしたんだ。
そしてその帰り道の途中で俺たちは出会ってしまった。ギルドで騒がれてたあの赤い大蜘蛛に。
俺が思ってたのよりも二回りくらい大きかったし、なんと言ってもその迫力が凄かった。一応大蜘蛛とフォレストボアは同じ階級らしいんだけど、正直比べ物にならないほど威圧感があった。変異種だったからかな?
しかも、その時に師匠に毒が強すぎて噛まれたら死ぬって言われて頭が真っ白になった。迂闊に近づくわけにもいかないけど、森の中でこの魔物から逃げられる気がしなかった。
どうしようって思ったそのとき、師匠はいきなり自分の背嚢からフォレストボアの切り身を出してアイツに向かって投げつけたんだ。
そしたら大蜘蛛はそれを追っかけて、森の中へとかけていった。その隙を逃さずに必死で逃げたら何とか町に戻ることができたんだ。あの時ほど早く町に戻りたいと思ったことはなかったよ。
後からそのことを思い返してみたんだけど、やっぱりああいう土壇場で行動できるってすごいなって思った。もし、俺たちだけだったらそのまま3人仲良く大蜘蛛の餌になってたに違いない。...うう、今思い出しても足が震えてくるぜ。
最初に大蜘蛛退治に行こうとしたときに師匠に止められて本当に良かったと思うよ。
後は...最近だと、ネクトっていう近くの町に火竜が襲ってきたこともあったな。知ってるか?火竜って滅茶苦茶強くてBランクの魔物みたいだぜ。火トカゲのちょっと強いくらいかなって思ってたんだけど、そんなレベルじゃないみたいだ。
で、その襲撃の話を聞いたときに、師匠はすぐに火傷を負う人間が多いだろうって予測してゴヤク草っていう火傷用の薬を作る薬草を取りに行ったんだ。
まだ、ギルドの連中が火竜が襲ってきた!状況はどうなってるんだ!とか言ってるときにだぜ?先読みというか...まあ、そこまで考えて動けるって実はすごいことだよな。
薬草を集めきって町に戻ってきたときには、ちょうどギルドマスターが採取の依頼を冒険者達に向けて依頼してるところだった。そこに師匠がやってきて、袋一杯のゴヤク草を見せたときのギルドマスターの驚いた表情を今でも覚えてる。あの人、滅多に顔色変えないからな。
冒険者としての考え方もその時教わった。師匠の考え方とかやり方は今まで俺たちが考えてきたものと全く違ってた。
言われてみると、確かに迷宮都市で強い冒険者は威張ってる奴も多かったけど、迷宮都市の本当のトップレベルの奴らは確かにそこまで威張り散らしている奴はあまりいなかったような気がする。
やっぱり強いだけじゃうまくいかないことも多いんだろう。本当のトップクラスの冒険者になるためには、強いのもあるけど頭も使えないと生き残れないってことなのかもしれない。
...一応俺もトップの冒険者を目指してはいるんだけど、厳しい道のりだと思った。師匠レベルまで頭が良くなるって結構難しいよな。まあ、同じパーティだし、シェリーが頭良ければいいか。
...別に俺が頭悪いとかそういうわけじゃないぞ。本当だからな?
その後火傷薬も作ったんだけど、ケリーっていうギルド専属の薬師がいて、そいつに教わりながら俺らも作ったんだ。そこでも師匠の手際はすごくて、”薬師でもないのにこの腕前はありえないよ”ってケリーも言ってた。
師匠は戦うことはそこまでだけど、他の知識とか技術が半端じゃないんだ。師匠の言うようにソロで生きていくためには必要だったのかもしれないけど、実際にそれができてるところがホントにすごいと思うし尊敬してる。
...恥ずかしいから面と向かっては言えないけどさ。
そして、今。俺たちはギルドマスターからの試験を受けるためにギルドの前まで来ている。
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