第23話 魔法の使い方

「私、わかったかもしれません...なんでワロウさんと私達の感覚の違いがあるのか」


 その発言にワロウは思わず驚いた。一体何がワロウと彼らで違うというのだろうか。


「ホントか?なんでだと思う?」

「私たちの戦い方は迷宮なら通用するんです。逆に言うと狭いところの戦闘に慣れきっているせいで広いところでの戦い方がわかってないんですよ」


 そう言われてワロウはハッと気づいた。確かにそうだ。迷宮という狭い空間で戦う場合と草原のようなだだっぴろい空間で戦うのではわけが違う。二人の距離が近いのも迷宮ではその立ち位置で戦っていたためだろう。


「成程、よく気づいた。頭の出来がオレとは違うみたいだな」

「そ、そんなことはないですよ...」


 ワロウが褒めると、シェリーは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。どうやら照れてしまったらしい。


「今の話聞いて分かっただろ?今のお前らの戦い方は迷宮での戦い方なんだ。広い空間で戦うときはその戦い方は危険な可能性がある。さっき経験した通りだ」

「...」

「う、うっす...」


 二人とも先ほどの戦い方がまずかったことは自分でもわかっているのだろう。黙ってワロウの言葉を聞いている。


「まず、お互いもっと距離をとれ。そうすりゃさっきみたいに少しは横からは抜けられにくくなる。まあ、そもそも前衛が二人だけの時点で、ゴブリン5匹全員を止めるのは今のお前らじゃ難しいだろう」

「え?じゃ、じゃあどうしたらいいんすか?」

「...難しいな。そもそもお前ら二人が足止めできたとしても、シェリーの魔法は威力が高すぎる。近くで当たったらお前らまで巻き添えを食いそうな勢いだ。...逆に今までどうやって戦ってきたんだ?」


 戦う場所に関係なく、あの威力では足止めしているハルトやダッドまで被害を被ってしまいそうだが、彼らは今までどうやって戦ってきたのだろうか。ワロウが尋ねると、シェリーがおずおずといった様子で答えてくれた。


「さっき使った炎玉は基本的には大きくて動きの遅い相手に使ってるんです」

「そうそう。俺たちが足止めしている間に魔法の詠唱を済ませておいて、当てるって感じだな。で、当たったときに全力で逃げて範囲から逃れてるんだ」


 どうやら先ほどの魔法は大きな魔物相手の魔法らしい。確かに動きが鈍重な魔物であれば、魔法が準備できる段階まで足止めしていれば炎玉を避けるのは難しいだろう。


 だが、今回は違う。相手はゴブリンでどちらかと言えばすばしっこい相手だ。あまり速度も速くない炎玉を使うのには向いていないだろう。

 そんなワロウの疑問が顔に出ていたのか、シェリーが追加で続ける。


「でも、いつもはああいうすばしっこい相手には炎矢の魔法を使ってるんです」

「炎矢の魔法?」

「そのままです。矢をかたどった炎を相手にぶつける魔法です。詠唱時間も少ないですし、速度も大分速いんですけど、その分威力は落ちますね」

「なるほど。なんでその魔法をさっき使わなかったんだ?」

「火事になっちゃうかなと思いまして...魔法の火って普通の火と違うって思われがちなんですけど、実際は同じなんですよね。なので、もし外したりすると辺りが燃えちゃうかも...」

「あー...確かに。この辺だと危ないかもしれないっすねえ。迷宮だと周りは石ばっかりだったすから。燃えるモンも無かったっす」


(おいおい、ホントかよ...物騒な話だな)


 このあたりは草や木が多くある場所だ。確かに火矢なんか放ったらどこかが燃え始めてもおかしくはない。そしてそれを止めるすべなどは持っていないのが現状だ。


「炎玉はどっちかっていうと爆発が主なので、そこまで燃えたりはしないんですよね...」

「ちなみに他の魔法を使えたりしないのか?」


(このままだと小さい相手に対するシェリーの攻撃手段がなくなっちまう...)


 ワロウは魔法に関しては素人だ。実際どのような魔法が戦闘によく使われているかなどの知識はほぼなかった。しかし、シェリーが覚えている魔法の中に有用なものがないか確かめてみたいと思ったのだ。


「他の魔法、ですか...火属性の魔法はその二つくらいしか...あ、後は少しだけ光属性の魔法を使えます」

「ほう。どんなのだ?」

「えーと...光矢と...光玉ですね。光矢はそのまま光の矢が相手に飛んでいく感じです。炎矢より威力が低いのでほとんど使わないんですけどね。光玉は明かり用の魔法です。攻撃力はないです」


(ふうむ...なんとかその光矢とかいう魔法をうまく使いたいところだな)


 今、シェリーが挙げた攻撃魔法の中で、炎玉は速度が遅く、小さい相手に使うのには威力が高すぎる。炎矢は火事になってしまいそうだ。ならば光矢をうまく使う必要がある。

 幸いなことにワロウはいい案を思いついていた。いや、”知っていた”の方がただしいだろうか。


「光矢を足止めに使えばいい。相手の目の前に着弾させてやればいい目くらましになる」

「足止め...っすか」

「例えばさっきだったら、ゴブリンがこっちに向かってくるときに光矢で何匹か足止めしてやればいいんだ。一回で全部の相手は厳しいかもしれないが、一匹ずつなら楽勝だろ?」

「あ、なるほど...魔法って一撃必殺のイメージがあったんで、そういう使い方は考えたことなかったすね...」


 ワロウの魔法を足止めに使うといった考え方は3人にとっては今までなかった考え方だったようだ。確かに一般的には魔法=火力という印象がとても強く、威力が低いとそれだけで使えない魔法扱いされる場合も多い。


 実を言うと、このような魔法の使い方はワロウが思いついたわけではなかった。

 かつてのパーティの中に、同じような魔法の使い方で戦っていた仲間がいたのだ。彼女は魔法使いとしては半人前だったが、とても上手く魔法を使っていた。だからワロウは知っていたのだ。そういう魔法の使い方もあるのだと。


 そして、シェリーの魔法について考えていたワロウはもう一つの魔法について気になっていた。光玉の魔法である。これをうまく使えばもっとうまく相手の行動を封じれるかもしれない。


「なあ、光玉が使えるって言ってたよな?それってどれだけ明るくできるんだ?」

「え...?魔力を込めればいくらでも明るくできると思いますけど...明かり用だから戦闘には使えないと思いますよ?」

「いや、別にいいんだ。時間はどれくらいかかる?」

「えーと...数えたことないので微妙ですけど2秒くらいかかりますね」


(早いな。それなら十分使い物になる)

(物は試しだ。とりあえずやってみよう)


「ちょっと思いついたことがある。次、ゴブリンを見つけたら試してみるぞ」

「えっ!じゃあ早速教えてくれよ」

「やつらを見つけたら教えてやる。さあ探せ探せ」

「なんで今じゃないんだよ...」


 ハルトは文句を言っていたが、魔法の新しい使い方は気になるようで熱心にゴブリンを探し始めた。それに倣い残りの3人も草原を見渡してゴブリンの群れを探した。

 幸運なことにゴブリンの群れはすぐに見つかった。今度も全部で5匹のようだ。


「よし、いいか。さっき言った通り使い方を教えてやる。成功するかどうかはわからないから失敗しても動けるように準備しておけよ?いいか、まずは...」


 ワロウはまず、自分がゴブリンに接敵するので、合図をしたらシェリーに思いっきり魔力を込めて光球を作るよう伝えた。そして全員、光玉が出る前に目をつぶり、魔法が終わったら目を開ける。

 その時にはゴブリンはまともに目が見えなくなっているからそれを狩ればいいと伝えたのであった。


「全員覚えたな?よし、シェリー最初は頼んだぞ」

「は、はい。わかりました」

「ホントにうまくいくっすかね...」


 ダッドは半信半疑の様子だったが、説明するより実際にやった方が早い。早速ワロウは動き出した。まず、予定通り初めにワロウがゴブリンと接敵する。

 その際に、ゴブリンとの距離が近づきすぎないよう気を配りながら、わざと剣と盾を打ち鳴らしゴブリンたちの注目をこちらに集めた。そして、音に気づいたゴブリンたちがギャアギャアわめきながらこちらに視線を向けた瞬間、ワロウが合図を出した。


「今だ!」

「...行きます!」


 その瞬間、全員目を閉じた。光玉の光量はすさまじく、ワロウは目を閉じていてもわかるほどの光を感じた。これならかなり強力な光が一帯を覆ったはずだ。


(よし、多分うまくいっただろう)


 光が遠のくのを感じてワロウはすぐに目を開けた。そうすると目の前には目を抑えながら苦しんでいるゴブリンたちの姿があった。


「おい、あいつらは今目が見えていない! さっさと狩っちまうぞ!」

「え!?うまくいったのかよ!」

「わ、わかったっす!」


 目が見えていないゴブリンなぞEランク冒険者の相手ではなく、ケガをすることもなくあっけなく戦闘は終了したのであった。

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