第32話 死んでからの正直
壬屋子は目を覚ます。
意識がぼんやりしている・・・あれ、自分はどうしてここに居るんだっけ?
思い出す。
笠峰先輩が居た。
だから、追いかけて声をかけた。笠峰先輩はあの頃と変わらない様子で誠実そうだった。
そして、見せたい物があるからと廃ビルに入ってそれから・・・
頭がガクッと重い。
それだけじゃない、身体中逃げられない様に椅子に拘束されている。
「やぁ、目が醒めたかい?」
「笠峰先輩・・・これはどういう冗談ですか?」
先輩は真面目な性格だった。
冗談でもこんな犯罪まがいな拘束をする人じゃない。
だったら目の前にいるこの人は・・・偽も・・・
「俺は、笠峰誠司、本人だよ」
私の考え見透かしたかの様に返答する。
「だって、先輩は先輩は、あの時、死ん・・・」
「ああ、確かに俺はあの時死んだ・・・俺は『擬態』だよ」
・・・擬態?
壬屋子が困惑して首を傾げると、笠峰は静かに笑い声を上げる。
「擬態・・・人間の死体を喰った『穢れ』が人間の存在に成り変わる状態の事なんだけど・・・くくく、ああ、知らないんだっけ?・・・俺も『あの人』が教えてくれるまで知らなかった・・・全く、なんて無知だったんだろう、死ぬ前の俺」
『擬態』?
『あの人』?
『死ぬ前』?
壬屋子はますます頭が混乱していく。
笠峰は、壬屋子が怯える様を楽しみように笑い、更に追い討ちをかける様に、こちらを見る様に言葉をかける。
「つまりさぁ・・・」
顔を手でぐっと毟る。肉をぐっと抉った中身は、黒く薄汚れた穢れの色だった。
「『穢れ』になっちゃったってコト」
「ひ、ひ、ひゃあ、きゃああああ!!!」
壬屋子の悲鳴に益々、笠峰は悦にいる。
「俺、死ぬ前に思ったんだよねぇ、こんなに早死にするんなら、お前を『一発』抱いときゃ良かったってさ」
・・・今なら
そう言いながら、笠峰は、壬屋子に近寄る。壬屋子は状況を理解して必死に逃げようともがくが、拘束具が食い込んで外せない。
「ああ、悲鳴あげても無駄無駄・・・この郊外の廃ビルには誰も・・・」
その瞬間、ドンという音と共にドアが蹴破られる。
六畳四冥は、穢刀を抜いてそこに立つ。その顔は酷く面倒そうだった。
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