完璧な女

Meg

第1話 中途入社の女

 世の中には、完璧でなければ自分が許せない人間がいる。

 

 新しい高層のビルに入居している会社は、大抵いいところと相場が決まっている。

 そんなビルの、おしゃれな内装のオフィスで、朝一番早く来て仕事をするのは、課長の五島ごとう長乃おさの。表情は笑顔。

 会社は主に食品を取り扱っている。社内でも、この部署は特に女性が多い。

 同僚の中で、長乃おさのは一番美人で、一番背が高く、一番人付き合いがうまくて、一番仕事が早い。あだ名は完璧さんだった。

 今日は中途の社員が入社する日。やりやすい仕事を渡せるようにしておかないと。

 

 

 

 10時頃、小柄なかわいらしい女性を連れて、部長があいさつをした。

 

「中途入社の最川さいかわまどかさんです。先日辞めた睦月むつきさんの仕事を引き継いでもらいます」

 

 最川さいかわまどかはにこやかにあいさつをする。

 

「よろしくお願いしまーす」

 

 立っている社員たちが、パチパチと拍手をした。

 女が三人よればかしましいというが、部署の女性は三人以上いる。部長が話す間、頭を寄せあった女性社員たちが、中途の社員へのうわさ話を、コソコソと交わした。

 

「かわいいね。五島ごとうさんの次に来るんじゃない?」

「でも弊社は仕事ができないと。かわいいからって容赦しないから」

「辞めさせないでよ?」

 

 長乃だけは笑顔で黙ったまま、新顔を観察していた。

 最川は猫のような目を細め、瞳を転がし、女の社員たちを一人一人観察している。

 黒目がちの瞳の視線が、長乃の前でピタリと止まった。

 見られている。

 最川はボソリと、

 

「……あなたは最後でいいよね」

 

 部長が振り返った。

 

「何か言った?」

「いいえ。ご指導ご鞭撻べんたつのほどお願いしまーす」

 

 長乃は笑顔のまま、思案を巡らせた。

 これはまあ、手応えのありそうな子が来たこと。

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