知的生命体である資格
「知性強化動物は我々の新たなる同胞であり、生まれたばかりの幼い種族です。彼女らは我々を守るでしょう。物理的、軍事的に。
同様に我々人類も、彼女らを守らねばならない。今回の計画が成功すれば、多くの知性強化動物が生まれることになるでしょう。その知的生命体としての権利と尊厳を守らずして、我々人類が知的生命体を名乗る資格はあるでしょうか?」
【イタリア共和国 カンパニア州ナポリ郊外 ナポリ大学理科学部 知性強化動物研究棟】
「ふみゃあ」
猫みたいに、ペレはベンチへもたれた。
研究棟の休憩スペースでのことである。そこでペレは、先ほど目にしたものへの想いを馳せていた。
この施設には十二人。
「気に入ってくれたかい」
振り返ると、ゴールドマンがそこに、立っていた。出会った頃と比べてだいぶん老けた。だが、しっかりとした足取り。昔から変わらない眼鏡。銀髪。そして何より鋭い知性は全く衰えてはいない。
よっこいしょ。と隣に座った彼は、両手で保持した紙コップの片方をペレに手渡した。
ゆらゆらと揺れるコーヒーの液面を見下ろしながら、ペレは呟く。
「すごい」
「ははっ。そう言ってもらえると苦労した甲斐があったよ。思えば長かった。一介の神経科学者として一生を終えるんだろうな。と戦前は思ってたもんだが。人生の全てを捧げた。数えきれないくらい失敗したし、たくさんの人に助けてもらった。君も含めてね。ようやくここまでたどり着いた。あの子たちが成長したその日、戦争は終わるだろう。もうこれ以上何かが神々に奪われることはないだろう。"
「神々、滅ぶ?」
その問いに、ゴールドマンは考え込んだ。
「滅ぼすのはわけもない。テュポンが四十八人もいれば、惑星とその周辺に住んでいる神々だけを選別して絶滅させることだってできるだろう。
ペレは、神々に復讐したいかい?」
「いらない。テュポンがかわいそう」
「そうだ。子供たちにやらせるべき仕事じゃない。僕も同じ意見だよ。知性強化動物は兵器だが、道具じゃあない。そんなことで手を汚させるべきじゃないんだ。
もっと理性的になるべきだ。
―――人類は神々と違う。野蛮人ではない。知性強化動物の権利と尊厳を守らずに、何が知的生命体か。
昔。こう言っていた男がいた」
「ともだち?」
「そうだな。友達だった。彼は世界で初めて知性強化動物を作った。人類のために。そして、知性強化動物のために生きた。死ぬまで。偉大な男だった」
自らの分のコーヒーを飲み終えたゴールドマンは立ち上がった。コップをゴミ箱に捨てるとペレに告げる。
「じゃあ僕は仕事の続きをしてくるよ。一息つく暇もなく大忙しだ。おちびちゃん達が不自由なく過ごせるように手配してこなきゃいけない」
「がんばって」
「ああ。そうするよ」
そうして、ゴールドマンは廊下の向こうに去って行った。
ペレはしばしの間、それを見送っていた。
―――西暦二〇六三年三月。テュポン級が誕生した日。知性強化動物が初めて生まれてから四十三年目の出来事。
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