写真を飾る場所
「久しぶりのおうちだー!うわあ。そのまんまだー」
【イタリア エオリア諸島サリーナ島】
リスカムは、ベッドに飛び込んだ。
この部屋に戻ってきたのは数年ぶりだが、全く変わった様子はない。掃除は行き届き、シーツはおひさまの匂いでいっぱいだ。家族がきちんと手入れしていたらしい。
「そんなに喜んでくれてうれしいわあ」
「ありがと、お祖母ちゃん」
入り口から顔をのぞかせているのはアニタ。彼女も随分と老いたが、しかしまだその物腰はしっかりしているように見えた。
「ごめんね。ずっと帰りたいって思ってたんだけど、仕事が忙しくて」
「いいのよ。今はとっても忙しいでしょうに」
「うん。もうすぐとっても忙しくなる。だからそれに備えて、一度帰っておきたかったの」
リスカムは、わきにおいたバッグからファイルを取り出した。その中に挟んであったのは写真の額縁と、そしてそれに収めるためのものであろう大判の写真である。
孫娘から差し出された写真。それを受け取ったアニタは、まじまじと眺めた。
写っているのは大勢の知性強化動物たち。中央に集まっているのは虎人。エンタープライズ。九尾。そういった第一世代たちの姿。そして、左右にもここしばらくニュースで見た記憶のある知性強化動物たちがいる。
何十人と写っているのが見て取れた。背景はオービタルリング内の施設であろうか。
「次の作戦は宇宙に行くの。神々の宇宙艦隊を一掃する。写ってる仲間たちと一緒に。真ん中で私の周りにいるのは火星探査事業の頃からの同期や後輩。左右にいる子たちは日米やロシア、インドなんかの新型の艦艇型神格。これに加えて国連宇宙軍の主力艦隊を率いることになった。私が」
「大丈夫なのかい?」
「うん。勝てるよ。確信してる。もし負けたら私がへぼだったせい。それくらい、みんな強い。ずっと一緒に訓練してたから。でも、神々ももちろん死に物狂いで戦う。だからね。責任で、胃がぎゅー。ってなるの。神格がなかったら吐いちゃうかもって思うくらい」
「……」
「それにね。ひいお祖母ちゃんのお葬式、行けなかったから。お墓参りしておこうと思ったの。これが最後の機会かもしれないから」
「……リスカム。義母さんだって来てくれて喜んでくれるさ」
リスカムの曾祖母。アニタの義母でありニコラの妻、モニカの祖母である女性が亡くなったのは数か月前のことだ。老衰だった。百歳を超えていたから大往生と言えただろう。リスカムが葬儀に出られなかったのは軍務があったためだ。戦時中の高級将校である。こうして帰ってこれただけでも良かったと言えた。
「そんなに大変な戦いなんだね?」
「うん。写真に写ってる中の何人かは確実にいなくなる。それは私かもしれない。だから、家にこの写真を飾っておきたいの。みんながよく見るだろう場所に。
いいかな?」
「もちろんだとも。そうと決まったら、どこに飾るか決めないとね」
「うん」
―――西暦二〇六二年。神々の宇宙艦隊が壊滅する二か月前の出来事。
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