折り合いをつける

「じゃ、駄々をこねて行かないわけにゃあ、いかんわなあ。子供じゃないんだから。あんたたちだって大変なのはわかったよ。気に入らない相手とも折り合いをつけていかなきゃ、な」


樹海の惑星グ=ラス南半球 宇宙都市落着地帯】


「まだ、二十歳前だったんだよ。私がこっちに連れてこられたのは」

朝日の照らす中。漁師の男は、訥々と語った。前方の砂浜につけた上陸艇へと乗り込んでいく、女子供の姿を見ながら。

それを、希美は無言で聞いていた。レコーダーは回していたが。

「あの頃はなあ。村がもう無茶苦茶だった。村の儀式に観光客を入れるだの入れないだの。誰が儀式を主導するだのなんだの。クジラの狩りの近代化だのなんだので。いっつも揉めてた。それが子供の頃から嫌で嫌でたまらなくてなあ。

それとおんなじで、今の子供たちにも嫌なことがあるに違いないんだ。いや、いつか神々に連れていかれるかもしれないなんてのは嫌に決まってるな」

子供たちはふと、空を見上げた。村を守るように空中で静止している、六本腕の勇壮で巨大な神像を見つめていたのである。

不意に、神像は。かと思えば子供たちに対して手を振ったではないか。まるで人間のように。

「大したもんだ。ありゃどうやって動いてるんだい?」

「知性強化動物。つまり、知能を人工的に高めた生き物が操っています。動物と言っても人間と大して変わりません。人類の科学は、人間や神々以外の知性の形がどういうものかを見つけ出せませんでしたから」

「なるほどなあ」

希美の説明に男は納得したか。何度も頷いていた。

「つまり人間がやって嫌な事を、代わりにやってくれてるわけだな。人間と大して変わらない生き物が」

「そうとも言えますね」

「昨夜の騒ぎはすごかったよなあ。あのでっかいのが戦ってたのかい」

「はい。そう聞いています」

男が言っているのは昨夜沖で発生した、国連軍と神々の軍勢との戦闘のことだろう。この島にある村落まで戦闘音が響き、空を幾度も閃光が焼いたのだ。しばらく経って津波まで来た。幸い被害はほとんどなかったが。漁船がいくらか流された程度だ。

「じゃ、駄々をこねて行かないわけにゃあ、いかんわなあ。子供じゃないんだから。あんたたちだって大変なのはわかったよ。気に入らない相手とも折り合いをつけていかなきゃ、な」

告げると、男は上陸艇へと向かった。砂浜に設けられた作業場から出て、この村落を後にするべく。

その後ろ姿に対して、希美はカメラのシャッターを切った。

この日救助された人々は、無事に門をくぐって地球への帰還を果たした。




―――西暦二〇六一年。遺伝子戦争開戦から四十五年目、樹海大戦終結の六年前の出来事。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る