ベテランと新人
「こっちの世界は初めてかい」
【
アミアータは足を止めた。
空港でのことである。輸送機から降りて来たこの知性強化動物は、空港―――先日国連軍が奪取したばかりのそこで、すれ違った人々の姿に目を奪われたのだった。
老若男女。あまり健康そうには見えない者が多い。身に着けているのは毛皮や荒布で作られた簡素な衣。数十人もの人々が、兵員に誘導されて滑走路上の航空機に向かっているのである。
「ありゃあ、ここの近く。向こうに大河があるだろ?あそこの中州にある村から救出されてきた人たちだ。これから地球まで旅に出るのさ」
かけられた英語の声に振り返ると、警備の任に就いているのだろうか。停車している戦車の上から顔を出した兵士の姿が見える。歳は三十前後と言ったところか。どことなくベテランの風格である。
「救出に当たった部隊はかなり苦労したみたいだ。国連軍が神々とどう違うのかの説明からする羽目になったとかなんとか」
「情報から隔絶されていた?」
「多分な。何度もやったことがあるが気の遠くなるような話だよ。一回だけじゃないしな。これなら敵と戦ってる方が楽かもしれん。」
兵士は頷くと、今度は向こうから質問を口にした。
「こっちの世界は初めてかい」
「ええ。あなたは長いの?」
「俺は十代の頃から戦車に乗ってるんだ。この戦争も最初の年から戦ってる。眷属を共同撃墜したことだってある。こっちに来たのはもう三度目だな」
「ベテランだわ」
「先祖代々陸軍の家系でね。親父も祖父さんも遺伝子戦争のときは戦ったんだぜ」
「すごい」
「ははっ。俺なんてこの世界じゃあ大勢いる戦車兵のひとりに過ぎないさ。もっとすごい奴なんて探せば幾らだっている。あんただってそうだ。最新型だろ?前にテレビで見た」
「ええ」
「期待してるよ。噂だが神々がまた大規模な反攻作戦を計画してるらしいからな。強い神格は一人でも多い方が心強い」
「善処するわ」
アミアータは、しっかりと頷いた。
「俺はアンディ。原隊は米軍だ。あんたは?」
「アミアータ。キメラ級よ」
「よろしくな、アミアータ」
芝居がかった動作で敬礼するアンディに対し、アミアータもまた。敬礼で返した。
―――西暦二〇六〇年。キメラ級が初めて実戦投入された年、神々による大規模反攻作戦が開始される直前の出来事。
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