後継者たち
「さて。これで君のことは、皆が知る事実となった」
【
「ええ」
グ=ラスは、神王の言葉に頷いた。
空中に映し出されているのは幾つもの画像。動画もあれば音声のみ。あるいはテキストがメインのものもある。様々な様式のそれは、しかし同じ内容のものをずっと流している。
地球生まれの少年についての、公式発表について。神々の世界における、それは一大ニュースだった。少年はソ・ウルナの執務室にて、それを見せられているのだった。
「裏切者と糾弾する者もいるだろう。多くの同胞たちが君を同族殺しと呼ぶだろう。もう後戻りはできないぞ」
「分かっています。大丈夫。そういった悪名には慣れっこです」
「そうか。強いな、君は。
さて。グ=ラス君。今日ここに呼んだのは、今の放送を見せるためだけではない。きみに引き合わせたい方がいる」
「?」
「こちらだ」
空中に浮かび上がったのは画像。双方向のリアルタイム通信らしく、向こう側では相手が待ち構えていた。
映し出されているのは、がっしりした体格で片目を眼帯で覆い、中年に差し掛かった鳥相の神。
彼はグ=ラスの姿を認めると、その口を開いた。
『ほう。確かに、ドワ=ソグによく似ている。目元などそっくりだ』
「父を知っておられるんですか?あなたはいったい」
『私はギ=バルミ。地球育ちの君に分かりやすい自己紹介をするならば、大神ミン=アの後継者だ。君のお父上には大変世話になった』
「!?父は何者だったのですか?あなたと知己を得ていたということは、ただ者ではありえない」
『君のお父上はミン=アの腹心の部下だった。彼女の命を受け、地球侵攻計画の骨子を立案したのはドワ=ソグが率いるチームだよ』
グ=ラスは絶句。無理もなかった。まさか自らの父が、それほど重要な地位にいたとは。
少年が事実を受け入れられるのを待つように、やや間隔を空けてから。ギ=バルミと名乗る大神は言葉を続けた。
『やはり、その様子では知らなかったようだな。君のDNAデータから判明したのだ。ありふれた名前だから、まさか。とは私も思ったのだがね』
「はい。僕は知りませんでした。父は昔のことをほとんど話しませんでしたから」
『賢明な判断だ。彼は地球人類からすれば憎き仇敵であろう。露見すれば命はなかったに違いない。捕虜となった時も別人で押し通したのは容易に想像がつく。事実は本人に聞かねば分からないだろうが』
「はい……」
『今度会った時に直接聞いてみるのがよいだろうな。グ=ラス君。我々は君に、故郷に戻る機会を与えるつもりだ』
「それはどういうことでしょうか」
『我々は人類との初の捕虜交換を計画している。その第一陣に君も入ることとなる。一方で、地球で何十年も過ごした同胞たち。今の戦争で捕虜となった者。この星に帰還した彼らは自らの体験を語るだろう。我々の間で、現在の人類に関する様々な情報が広まるだろう。これが我々と人類。双方に対してどのような反響を呼ぶか、正直に言えば我々も読み切れない。だが行うだけの価値はあると考えている。この膠着状態に陥った戦争を動かすために。
もちろん、君は人類の士官だ。ここで見聞きしたこと。我々との会話。そういったこと全てを、地球で話して貰って構わない。むしろ我々はそれを期待している』
そこでギ=バルミは一旦区切りをつけた。
代わって補足を加えたのは、ソ・ウルナ。
「それだけではない。君の身を守るためにもこれは必要な措置だ」
「身を守る、ですか」
「ああ。君をこのまま我々の手元に置いておけば、何が起こるか分からない。君を物理的に排除しようとするものも含め、望ましくない行動に出ようとするものが現れる可能性がある。我々の中からね。だから君は地球に戻ってもらう」
「お心遣いはありがたいですが、地球に戻ったからと言って長生きできるとは限りません。僕はこれからも戦い続けるでしょうから」
少年の言葉に、最も新しい神王は微笑みを浮かべた。
「それは君の選択の結果だ。尊重はしよう。そうならないことを願っているが。しかし、だからと言って防ぐことのできる危険を看過することはできない。私にできる最大限の、そして最後の。これは好意だと思って受け取って欲しい」
「そういうことでしたら」
「この戦争が終わった後、再会できる事を願っている。平和的な形で」
「僕もです」
「では、さらばだ。友よ。神王となって初めて得た、君は友人だった。
アールマティ。彼を連れていけ」
こうして、少年と神王の進む道は別れた。
―――西暦二〇五八年三月。グ=ラスが地球に帰還する七カ月前、人類製第五世代型神格が実戦投入される九年前の出来事。
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