三人組のエピローグ

「地球へようこそ。ここまで長旅、大変だったでしょう」


【オーストラリア メルボルン 新メルボルン空港】


「本当に凄いや」

のっぽは、空にかかる巨大な橋を見上げた。

それは離れたところから見下ろせば巨大なリングの姿をしているのだという。この世界を一周する、途方もない大きさの。

オービタルリングだった。

後ろを振り返る。

そこに止まっているのは、三人や他の帰還者を運んできた大きな飛行機械。国連軍が運行するそれは、たちまちのうちに三人組が旅してきた距離に匹敵する行程を飛び越えてきたのである。驚くべき能力だが、その程度の距離は誰でも、この世界では移動できるのだ。一日働いた分の報酬を支払うだけで事足りる。

地球文明の力だった。

アンディが言っていたことを思い出す。神々の都市に、人類の都市も負けてはいないと。事実だった。ここに降りるまでの過程で空から見下ろした市街地は驚くべき水準に達している。あのカルカラ市に勝るとも劣らない。

「遅れるよ」

「今行く」

ちびすけに促され、のっぽも空港の建物への、人の列に加わった。

この先には、自分たちのようなあちらからの帰還者の一時受け入れ施設があるのだという。故郷の国があるならそちらに連れて行ってもらえるし、それがないのであればどこかの国に受け入れてもらうのだとか。のっぽ自身は自分の両親の出身国を知らなかったが、自分を養っていた老女がどこの国の人間だったかは知っていた。日本人だという。仲間たちもそれぞれ自分の属するべき故郷があるはずだ。

そしてローザや、魔女も。

瀕死の重傷を負っていた魔女メラニアは、自分たちより一足先にこちらの世界に帰ったはずだった。治療を受けるためだという。神格を組み込まれた者は過去、組み込まれていた人間の記憶や魂までも受け継ぐと聞いていた。これから彼女は大変だろうが、地球の科学があれば乗り越えられるとのっぽは信じた。

そして、ローザ。

彼女とも、門を抜けたところでお別れだった。あの途方もない構造体を抜けた向こう。信じがたいほどに大きな地球側の浮島の空港で、ローザの迎えの人たちが待っていた。

ローザは故郷に戻るのだという。そこで治療を受け、記憶を取り戻すのだと。彼女を作ったのはこちらの世界でも高名な科学者だそうだ。彼女の育ての父であるアルベルト・デファント博士も。きっと素晴らしい人々なのだろう。何しろあのローザを作り、育てたのだから。

この戦争が終わった時、再会すると約束して三人はローザと別れたのだった。

物思いにふけっているうちに、並んでいた列がはけて来る。窓口にたどり着く。係員に、持っていた書類を手渡した。

「地球へようこそ。ここまで長旅、大変だったでしょう」

「ええ。とっても」

「では手続きをしますね。名前をお願いします」

問われたのっぽは、はっきりと聞き取れるように答えた。

「僕はアデラ。アデラ・アドキンスです」

「アデラさんね。……よし。我々は貴女を歓迎します。先へどうぞ」

「ありがとう」

記入の終わった書類を受け取り、のっぽは先に進んで仲間たちを待った。

「ボブ・テイラーです」「僕はカルロス・チャベス」

まんまるとちびすけも同じく手続きを終え、こちら側にやってくる。

「とうとうついたなあ」「ついたねえ」「これからが大変だぞ」

「みんな大変だったね。お疲れ様」

もうここは異国。まだしばらく三人の道は一緒だろう。だが、それもいずれ別れ、自分の道を進む日がやってくるはずだ。

「本当に、お疲れ様でした」

こうして、子供たちの冒険の旅は終わりをつげた。




―――西暦二〇五五年。子供たちとローザが再会する十二年前の出来事。

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