なじむにも一苦労
「ひと口に向こうからの帰還者と言っても、やっぱりいろんなのがいる。増える一方なのを、どうやって対処していく?」
【エオリア諸島サリーナ島 ベルッチ家】
「おう。久しぶりだな」
「ご無沙汰してます」
相手は、久しぶりに見る顔だった。
玄関の扉の向こうにいたのはゴールドマン。ここしばらく目も回るような忙しさだったと聞いている知り合いを、ニコラは奥に招き入れた。
「そっちはどうだい」
「フォレッティたちの育成に生産。新型の開発。各国の研究機関との連携や情報交換。負傷して戻ってきた子供たちの治療の手配。やることが多すぎて大変ですよ」
「新型か。うまくいきそうかい」
「めどは立ちました。既存の神格より数段上の性能は出ますよ」
「そろそろペレちゃんと一対一で戦って勝てるか」
「それはまだなんとも。ただ、それを目指してはいます。
島の方はどうですか」
「変わらず。と言いたいところだがまあちょっとは変化もしてる。向こうの世界で保護が始まっただろ。あれで救助された難民をいくらか。うちの島でも受け入れを開始した」
ニコラは冷蔵庫から出したアイスコーヒーをコップに注ぎながら答えた。
彼が言っているのは、神々の世界より救出された人々のことだった。救助された人間は国籍がわかる限りにおいて母国へと帰還しているのが通例である。厄介なのは二世三世で、自分の両親の出身国を知らないような人間も一定数いる。こういった場合は各国がその規模に応じて受け入れを行っていた。ニコラが言及した人々の内訳は様々だ。イタリア人。既に消滅した国家の人々。国籍が判明していない者。いずれも地球における係累は失われている場合が多い。
そしてその数。遺伝子戦争では一億もの人々が連れ去られた。神々が人間を増やそうとしていた以上、戻ってくる数はそれを上回るだろう。今はまだそのうちのごく一部が帰還するに留まっているにせよ。その受け入れの先頭に立っているのはもちろん国連及び国家だが、地方自治体。企業。NGOやボランティアも活動していた。
「今は数人が民家に下宿しながら働いてる最中だな。職業訓練ってやつだ。けど生まれた時から文明と隔絶されてたせいで色々苦労してるらしい」
「そりゃそうだ。その人たちがなじむには相当な苦労が必要でしょう。科学。社会制度。宗教。根本の価値観から変えないといけない」
「うちのひ孫はすぐなじんだようなんだがなあ」
ニコラに新しくできたひ孫のことを、ゴールドマンはもちろん知っていた。門を開いたメンバーのひとり。人類側神格ということでナポリの基地で数回話をしたこともある。彼女やその保護者達は聡明で、現代文明にもすぐなじんでいるように見えた。
「まあ彼女たちは高度な科学文明に触れる機会も多かったですから。人類で最も果敢な人々の一員だ」
ゴールドマンの発言に、ニコラは深く頷いた。
「だが大半の難民は、より教育水準が低く、より世俗的じゃあない、前時代的な世界から来た。それもあってトラブルは続出してる。価値観が違いすぎるからな。
数が少ない今はまだいいが。人数が増えたらどうやって回す?」
「神々もつくづく厄介な問題を残していったもんです。けどまあ。過去にうまくやってきたように、これからも何とかうまくやっていけるでしょう。きっと」
「そう願いたいもんだ」
世間話はまだまだ続き、両者の間の話題はどんどん移り変わっていった。
―――西暦二〇五三年。神々の世界へと多数の人々が連れ去られててから三十七年、それらの人々が帰還するようになって一年ほどが経過したころの出来事。
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