人を超えたもの
「やれやれ。何とか間に合ったか」
【イタリア共和国 カンパニア州ナポリ郊外 ナポリ大学理科学部 神格研究棟】
目の前に並んでいるシリンダーを見て、ゴールドマンは満足げに頷いた。
その
「こいつの具合はどうだい?アルベルト」
「まあまあ良い出来ってとこだ。我々の能力の全てを注ぎ込んだ。質量2万トン、全長100メートル。標準型神格の倍だ。これだけの流体があれば、計算上は眷属と同等の出力が出せる。こいつとお前さん所のおちびちゃんたちを組み合わせれば、眷属を十分にぶっ殺せるだけの力を発揮するだろうさ。ドラゴーネの脳に合わせるのにちと苦労したがね」
「それは悪かったよ」
ゴールドマンは苦笑した。眼前の屈強な体躯に赤毛が特徴的な人物はアルベルト・デファント博士。戦争中からのゴールドマンの相棒である。遺伝子戦争以前は天体物理、および気象物理学者だったが、神格研究に移ったという過去を持つ。リオコルノの神格も彼のチームの作品である。
第二世代型の脳神経系や肉体構造はユニークだ。第一世代型の知性強化動物には人間用の神格を移植できるし、逆も可能だったがドラゴーネはそうではない。専用の神格が必要だった。現在実用化された、あるいは開発中の第二世代型知性強化動物は皆そうだろう。
「武装は爪。牙。角。尻尾。全身凶器だな。あと粒子加速砲と、それから槍。
あのおちびちゃんたちの体を見た時は最初投げれるのか?と疑問になったもんだが、シミュレーションでもバッチリ投げられる」
「そりゃそうさ。そういうふうに設計したからね」
「うまくいくとは限らないのが子育てってもんじゃないか」
自身が男手ひとつで娘を三人育ててきたというアルベルトの言に、ゴールドマンは頷いた。この十年あまり、子育ては苦難の連続だった。多くの人の助けがなければどこかで挫折していただろう。
「ま、そっちもうまくいってくれて本当によかった。仕事が無駄にならずに済んだ。おまけに今回は一番乗りだ」
「そうだな。もう、人類製神格は眷属のデッドコピーじゃない。新たな段階にたどり着いた次世代の生命体だ」
「お前さんが最初に第二世代の構想を言い出した時は無理じゃないかと思ったが。ありゃリオコルノの設計中だったか?究極の生命体を作るとかなんとか」
「まだ、究極とは言えないけどね。ドラゴーネが完成したらまた忙しくなるぞ。データを取って、解析して、改良するんだ。続く第三世代のために」
ふたりは笑い合う。
「初期訓練が終わったら、人類側神格との模擬戦を公開でやると聞いたんだがほんとか?」
「ああ。これまでの人類製神格とは別物だと示す格好のデモンストレーションだ。特に反対する理由もないからね」
「まあな。百戦錬磨のモニカ嬢とどこまで戦えるか見ものだが」
「テオドールや他何人かにも話は行っているらしい。どういう形式になるにせよ、そこは軍の方で決めることさ」
"ニケ"の純粋な戦闘能力は、神格としてみれば中の下程度である。されどモニカは生き残った。40体もの眷属を討ち滅ぼして。
ドラゴーネの肉体がどれほど高性能を発揮しても、勝てるかどうかは分からない。それでよい。重要なのは進歩している事なのだから。
「もうあんな時代が来ないで欲しいもんだ。十五歳の女の子を戦わせるなんてのは御免だよ」
「同感だ」
二人はその後部屋を出ると、今後の打ち合わせに入った。
—――西暦二〇三四年。ドラゴーネ完成の一ヶ月前、人類製神格の戦闘能力が眷属を凌駕した年の出来事。
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