神頼み
「子供が上手く育つかどうか。結局のところ、最後は神頼みになるのさ」
【武蔵一宮氷川神社】
「
刀祢の問いに、都築博士は苦笑した。
「本来はそうだが、この子たちは2年で大人になるからな。神社が無理を聞いてくださって、この時期にやってもらうことになった」
七五三
神前で開始を待っているのは多数の人々とそして、人ではない者たち。
十二名の知性強化動物、“九尾”の七五三詣でが行われるのだった。
子どもたちは様々な晴れ着を身に着け、それぞれ担当する保護者の横にいる。ちょこん、と座っている者もいればきょろきょろとしている者、あくびをしている者もいた。明らかに個体差が見て取れる。
その様子を撮影する自衛隊の担当者と、そして複数の報道関係者が向けるカメラを気にして自然とひそひそ声になる刀弥。
「それにしても…こういう行事もするんだ」
「護衛艦にだって神社はあるし、政府の施設を建てる時は地鎮祭をするだろう?この子達だってこれくらい経験する権利はある。
今どう思っているかどうかは別にしてね」
父を挟んで反対側に座っているのはおすまし顔のはるな。赤を基調にした着物を身に着けた彼女自身はじっと、前を見つめていた。
着付師の腕が良かったのか、獣相と尻尾を持ち、人間とは骨格から異なる彼女に着物はよく馴染んでいる。
「こういう行事は、参加者の連帯を強める効果がある」
「連帯?」
「そうだ。人間は共通する行動で相手が仲間かそうでないかを見分ける。本来排他的なんだな。だからこういう場を共にすることは重要だ。皆で一体となるから」
「はるなたちに、人間への連帯感を持たせる?」
「それもあるが、それだけじゃあない。この七五三の本当の参加者は日本人。そして全人類だよ」
「……人類?」
「ああ。今日の様子は日本全国に報道される。もちろん世界へもだ。一分未満の短い時間でもいい。この光景を見た人は知性強化動物について、こう思うだろう。『人間の子供と同じだ』と。
知性強化動物だ何だと言葉で言われても、人間は得体のしれないイメージしか抱けない。だが実際にこの子たちと接している私たちは、その内面が人間の子供とさほど変わらないことを知っている。ずいぶんと賢い面も持っているがね」
そこで都築博士は苦笑した。
「この間などは物体の運動から、エネルギーと質量の関係性に気付きそうになった」
「エネルギーと質量……?」
「相対性理論。アインシュタインだよ。はるなはまだ、それを表現するための言語―――高等数学を十分には身に着けていないから、思いつきで止まってしまったがね」
「それってとんでもないことじゃ……」
「確かにとんでもない。けれど、アイデアは思いついてもそれを言語化し、理論化し、発表できなきゃ意味がないんだ。だからその点ではまだまだ幼い。真の力を発揮できるようになるのはしばらく先だな」
そこで都築博士は、息子の瞳をじっと見つめた。
「この子たちの脳は順調に育っている。大人になった時、人間を遥かに超える力を持っていたとしてもおかしくはないだろう。
刀祢はそれを、怖いと思うかい?」
「別に」
刀祢は即答した。
都築博士は息子の反応に満足そうに頷くと、言葉を返す。
「そう。知性と、恐怖。このふたつに相関性はない。それを結び付けるなんて馬鹿げた話だ。私の願いは、みんなが刀祢と同じように考えてくれることだよ」
「そっか」
やがて厳かな雰囲気の中、祝詞が挙げられた。
行事は無事に終わり、鳥居の前で記念写真が撮られた。その様子は、全国へと報道された。
—――西暦二〇二〇年。アメリカで二番目の知性強化動物が誕生する一年前、“九尾”級知性強化動物の誕生から三か月あまり後の出来事。
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