第152話 穴熊族の星神神殿

 クマルン村の宿屋はすぐに見つかったが、部屋数が少ないため空いていた部屋は5人部屋だけだった。

 

 少し前に帝国軍から魔導兵器の原料になる魔鉱石の採掘量を増やすよう指示があったそうで、他の穴熊族の村からも出稼ぎに来者が急増したのだそうだ。


 俺たちは部屋に入るなり各自ベッドに荷物を下ろし、俺はさっそく例の金ぴかアーマーを袋から出した。


 「これが、お前を悩ませているアーマーか。なるほどなるほど、確かに興味深い呪具だな、複雑な術式が籠められている」

 ミズハは興味深そうに手に取って眺める。

 アーマーの呪いの件は、村に入る直前にみんなに話した。


 「しかし、股間に装備する前にこのアーマーが発する気配に気づかなかったのか? 人間とはまったく不便な生き物だな」


 「それを股間アーマーに仕立てたのはセシリーナだから」

 「わ、私? 私はもちろん気づいてましたよ。でも囚人都市では手に入った物は何でも活用しないと……そういう場所だったのです」


 「あ、それじゃあこうなると分かってたのかよ?」


 「まあ、多少わね……」

 声が小さくなった。 


 「でも、死ぬような呪いじゃなかったし、まずは防御力を上げるのが最優先だったのよね」

 「男にとっては死ぬほどの痛みってやつなんだよな。まあ、それもまもなく解決だ。神殿に行って解呪すればね」


 「それ捨てちゃうの? せっかくカッコいいのに……」

 リサが俺のベッドに上がってきた。


 「これはね、穴熊族精霊の怒りをかっているから、除霊、もとい清めてやらないとならないんだ」

 「そうかーーーー」


 「そう言えば神殿は村はずれにあるそうですよ、宿屋の主人が話してたわ」

 セシリーナが着替えながら言った。


 「さっさと行ってきてください。カインがいないうちに私たちはシャワーを浴びて着替えますから。カインと同部屋なのですから、時間を決めて色々やらないと身の危険を感じます」

 リィルがそう言って俺を閉めだそうとする。


 「わかった、わかった。神殿に行ってくる。夕食までには帰るからな」

 俺は、無邪気に手を振るリサに応えると部屋を出た。


 

 ーーーーーーーーーー


 「この先に神殿があるんだな?」

 俺は宿屋の親父にもらった観光案内の地図を広げた。


 街外れの少しさびしい路地に入ると、空気が少し湿っている。ちょっと移動しただけでもこれほど違うらしい。


 小洞窟に入ると道のあちこちに「洞窟ひるに注意」と書かれた看板がある。


 「何だ? 洞窟蛭って? 蛭がいるのか?」

 俺はぞわっとして足元を見るが、それらしい生物はいない。

 俺はゲートでもらった注意書きの紙をポケットから取り出した。


 村での生活のルールや何やらが書いてあるが、注意欄に洞窟蛭の事が書いてあった。


 「なになに洞窟蛭は、湿っぽい所に生息していて、家畜等の生物の息や匂い、鳴き声等に反応して落ちてくる。吸われると1日くらい痒みがある。穴熊族は毛深いのでほとんど害はない、か」


 落ちてくる?

 その一文が頭の中で回る。


 その時、ぽとりと俺の肩に何かが落ちてきた。

 肩を見る。その瞬間、俺は鳥肌が立った。

 人差し指ほどもある蛭がコンニチハしていた。


 「うがあああああ!」

 俺は思わず大声を上げてそいつを振り払う。


 次の瞬間、俺の声に反応したのか、ボトボトと俺の周囲に蛭が落ちてきた。


 「うがああああ!」

 俺は叫んで走り出した。


 やがて洞窟の道が開け、小ホール状の洞窟の中に古い建物が見えてきた。


 俺は駆け寄って、その扉をドンドンと叩いた。


「あ、開けてくれ。用事があるんだ」

 別に後ろから蛭が追ってくるわけでもないが、ぞわっとした背筋の感触が忘れられないのだ。


 扉の奥で金属音がして扉がゆっくりと開いた。


 穏やかな笑みを浮かべた穴熊族の神官が現れた。


 「中にお入りください。そんなに血相を変えて、どうしましたか? それに、ふむ、見たところあなたは人族のようだが? 我々の神殿に何かご用ですかな?」

 神殿の中は少し広いホールになっており、正面に見覚えのある星のレリーフがある。星神の祭壇だろう。


 俺は中に入ると、袋の中から例の金ぴかアーマーを取りだした。


 「これを見てくれ。ある人物から預かったんだが、どうもこれに呪われたらしくて、呪いを払って欲しいんだ。それで、こっちは貢物の品だ」

 机の上に用意してきた貢物を置く。


 アーマーを見た神官の目が大きくなっている。

 伝説のアーマーと言っていたから、驚いているのかもしれない。


 「ちょっと見せて頂きたい」

 神官はそう言ってアーマーを手にとって詳しく調べ始めた。


 「これは、星神の神具を模した偽造品ですな。一応祝福のために卑精霊を封じているようだが、封じ方が雑なので身につける者によっては呪いになってしまうでしょう」


 やはりそうだったか、偽物だった。おかしいとは思っていたのだ。あのナーヴォザスがそんなご立派な伝説の武具を持っているわけがない。


 「それで呪いは解けるだろうか?」

 「問題ありません。料金はすぐお支払いであれば5000ルシドですな」

 おお、大枚をはたいて作らせた貢物を捧げたのに、金まで必要とは!


 「うむむ、仕方がない」

 「封呪を解いた後、この防具はどうされますかな?」

 「うーん、どうせ使えないからこのまま奉納するか」

 「よろしい。では料金は4800ルシドで良いでしょう。さあ祭壇の前へ」

 俺は神官の後に続いて祭壇の前に進んだ。


  

 ーーーーーーーーーーー


 長ったらしい儀式の後、水を張った桶に金ぴかアーマーを沈めると儀式は終わった。


 「ご苦労様でした。これで終わりですが、お疲れでしたらテラスで少しお休みください。何かお飲みものをお出ししましょう」

 そう言って神官は奥へ姿を消した。


 俺は言われた通りテラスのベンチに座って待つ。


 洞窟内だが何らかの方法で外の光が入ってくるようだ。庭園には花畑があり色とりどりの花が咲いている。


 「あの……」

 休んでいた俺の前に可憐な姿の少女が現れた。

 穴熊族ではない、どう見ても人族だ。こんな少女が穴熊族の神殿で働いているのだろうか?


 「こちらへどうぞ」

 少女は恥ずかしそうに言った。


 あれ? ここで飲み物をもらうはずでは? と思ったが、違ったのかもしれない。俺は少女について行った。


 神殿裏の小道を歩く。こんな所に休憩場所があるのだろうか。

 

 「ねえ、君、どこまで行くんだい?」

 少女は振り返った。その顔が歪んだ。


 「!」

 次の瞬間、俺の目の前は真っ暗になった。

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